日米・核セキュリティー共同声明の狙いとは 日本は「核兵器3千発分のプルトニウム」を保有!?
高濃縮ウランも米国で処理
米ワシントンで開かれている核セキュリティーサミットで、安倍晋三首相とオバマ米大統領は1日午前(日本時間2日未明)、京都大学の施設の高濃縮ウランを米国で処理することなどを盛り込んだ共同声明を発表しました。
共同声明によると、テロリストが核物質を入手するリスクを下げるため、大阪・熊取町にある京都大学の臨界集合体実験装置から出た高濃縮ウランを米国に運び、処理します。さらに原子炉を低濃縮ウラン用に転換するという内容です。
2014年3月にオランダ・ハーグで開かれた核安全保障サミットでの日米合意に基づき、茨城県東海村にある日本原子力研究開発機構の臨界実験装置のプルトニウムや高濃縮ウランを米国に引き渡すため、予定を前倒しして撤去が完了したことを確認しました。
核の拡散を防止するのが狙いですが、核不拡散の専門家であるマーク・フィッツパトリック国際戦略研究所(IISS)ワシントン事務所長は日本のプルトニウム保有について次のような見方を示しています。
日本の原子炉級プルトニウムは47トン
日本は国内に原子炉級プルトニウム11トンを保有し、フランスや英国内に再処理された36トンを有しており、中国、韓国、台湾から厳しい目が向けられていました。
日本国内にある原子炉級プルトニウム11トンを使えば、国際原子力機関(IAEA)の目安で1400発(1発につきプルトニウム8キロ)の核兵器が製造できるからです。1発につき4キロでも製造できるとすると理論的には3千発近い核兵器を製造できます。
燃えない「ウラン238」を燃える「プルトニウム239」に変える日本初の高速増殖炉「常陽」(茨城県大洗町)は兵器級より純度が高いスーパーグレードのプルトニウムを最大22キロ製造済みで、「もんじゅ」(福井県敦賀市)は最大で62キロを製造しました。
こうしたスーパーグレードのプルトニウムを使えば、核兵器20発を十分に作ることができます。第二次大戦で広島、長崎に原子爆弾を投下された日本は核廃絶運動の先頭に立つ一方で、原子力発電でできたプルトニウムをたくさん保有するようになりました。
「日本オプション」
プルトニウムは核兵器の材料になります。イランは核開発をめぐる協議で、核兵器は作らないものの製造能力だけを有する日本と同じ扱いを求めたと言われています。英国の最大野党・労働党のコービン党首は、後継の原子力潜水艦は建造しても核兵器は搭載せず、核兵器製造能力だけを維持する「日本オプション」を提案しています。
06年12月25日付の産経新聞によると、「小型核弾頭試作には最低でも3~5年、2千億~3千億円かかる」「黒鉛減速炉によるプルトニウム抽出が一番の近道」という政府の内部文書を同年9月20日付で作成していたことが分かっています。
完成時期が18年に延期された青森県の六ケ所村で使用済み核燃料の再処理が開始された場合、核兵器に転用可能なプルトニウムを年間9トン生産できるようになります。核拡散のリスクが拡大しますが、オバマ政権は六ケ所村の計画は事実上、棚上げされたとみなしているようです。
日本に対抗意識燃やす中国や韓国
しかし、六ケ所村の計画が完全に中止されない限り、中国や韓国は日本に対抗して使用済み核燃料の再処理に意欲を燃やす可能性があります。実際に中国は新たな再処理施設の建設に向け仏原子力大手アレバと契約を交わしています。
今回の日米共同声明には、日本のプルトニウムや高濃縮ウランの保有量を減らして核拡散のリスクを減らす以上に、中国や韓国、台湾の日本への対抗意識を和らげる狙いもあるようです。14年の日米合意に基づき、プルトニウム約331キロが日本から米サウスカロライナ州に移送されました。
米CNNによると、同州のニッキ・ヘイリー知事は米エネルギー省に書簡を送り、プルトニウムの州外での処理を要求しているそうです。
(おわり)