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「ボールペン大の注射針で…」北朝鮮"女性虐待"の生々しい場面

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮当局に拘束された女性。当局が見せしめとして公開(デイリーNK)

 中国は自国内で勾留していた脱北者を、北朝鮮が国境を再び開いたのに合わせて段階的に強制送還している。その数について韓国のNGO、北韓人権情報センターが600人から2000人、北韓正義連帯は2600人としている。

 強制送還された人のうち、200人から300人が国境沿いの地域の保衛部(秘密警察)の集結所に勾留されている。

 集結所などの拘留施設では様々な人権侵害が横行しているが、特に深刻なのが中国人男性と結婚するなどして妊娠した女性に対する強制堕胎だ。韓国のNGO・軍人権センターの面接調査に応じた元女性兵士の脱北者によると、強制堕胎には「ボールペンほどの太さの針がついた注射器」が用いられるという。

 また、米国務省は広報サイト「シェア・アメリカ」で、2018年10月27日、北朝鮮における人権侵害について証言する脱北者のインタビュー映像を公開した。証言したのは脱北女性のチ・ヒョナさんで、強制堕胎の恐ろしさについて次のように語っている。

「脱北を4回試みたが、3回失敗して強制送還された。中国で人身売買されたが、『混血の子どもの出産は認めない』との理由で警察に強制堕胎させられた。机の上に寝かされ、自分の着ていた服でさるぐつわを噛まされ、両手両足を抑え込まれた上で、麻酔なしに堕胎手術を受けさせられた」

(参考記事:北朝鮮の女子高生が「骨と皮だけ」にされた禁断の行為

 そして今、こうした類の話が中国との国境に接した新義州(シニジュ)市内で急速に広がっていると、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えている。

 集結所に勾留された人々は、まともな食事も睡眠時間も与えられず、非常に厳しい取り調べを受けており、中には自ら命を絶とうと壁に頭を打ち付ける人もいた。幸いにして一命はとりとめたものの、戒護員(看守)に24時間監視され、眠ることを許されず苦しめられ続けている。

(参考記事:北朝鮮女性を追いつめる「太さ7センチ」の残虐行為

 世界最悪の人権侵害国家と言われる北朝鮮だが、そんな国で暮らす一般国民にとってもこの話は非常に衝撃的だったようで、ほとんどの人が同情的だ。

「命がけで(中国に)行ったのだから豊かに暮せるはずなのに、捕まってひどい目に遭うなんて」

「国を裏切った反逆者にさせられて送り返されるなんて」

「逆賊でもないのにあんなにまでひどい目に遭わせる必要があるのか」(新義州市民の声)

 新義州は、川を挟んで中国と国境を接しているものの、川幅が広いこともあり、他の国境沿いの地域ほど、脱北者が多い訳ではない。それでも密輸に携わるなど何らかの形で中国と関わっている人が多く、決して他人事ではないのだろう。

「顔も知らないわれわれでもこれほど(悲しんでいる)なのに、実の親きょうだいの心情はいかばかりか」(情報筋)

 情報筋は、強制送還そのものが本人はもちろん、家族をひどく苦しめる拷問だと批判した。そもそも保衛部は、通常の事件であっても取り調べの過程の拷問を当たり前のように行っているだけあって、強制送還された脱北者となればさらに扱いが酷いことだろう。

 市民の間では、送還された人々を見せしめとして銃殺にするのではないかという噂が流れており、戦々恐々とした雰囲気となっている。

 市民の願いは、せめて教化刑(懲役刑)で済まされないだろうかというものだ。それならばまだ生還が期待できるが、もし政治犯扱いされて管理所(政治犯収容所)送りにされると、死ぬまで釈放されないこともあるからだ。

 銃弾を撃ち込まれて瞬時に絶命するか、栄養失調や病気、暴力が蔓延する中で強制労働に苦しめられる「緩慢な処刑」に追い込まれるか。いずれの場合も地獄であることに変わりない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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