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ヒアリって今どうなっているの? サンダル履けない日常が来る? 日本での現状と対策

有吉立アース製薬(株)研究部で害虫飼育を担当
写真はイメージ(写真:アフロ)

2017年に初めて日本で発見された「ヒアリ」。一時期は大きな話題となりましたが、最近はあまり耳にしなくなりました。ヒアリはもう問題ではなくなったと思われている方も多いかもしれません。しかし、そんなことはありません。現在もヒアリの侵入は続いており、国内に定着するリスクも依然として高いのです。今回は、ヒアリの特徴や対策について詳しくお伝えします。

ヒアリが日本に定着するとどうなる?

たかがアリが侵入してきたからといって何も変わらないと思っている方もいるかもしれませんが、ヒアリは日本のアリとは異なります。

最も大きな問題は、人やペットが刺されることによる健康被害です。しかし、それだけではありません。ヒアリは生態系や農業にも大きな影響を与え、私たちの生活にも重大な被害をもたらす可能性があります。

例えば、ヒアリが公園や河川敷に定着すると、お花見やピクニック、花火大会などを安心して楽しむことが難しくなるかもしれません。アメリカでは、ヒアリが定着している地域では刺されるリスクがあるため、サンダルを履くことができないと言われています。

ヒアリの特徴

働きアリの大きさは2.5~6mmで、体はつやつやしており、赤褐色、腹部のみ黒っぽい褐色です。触角の先端2節が膨らんでおり、腹柄(ふくへい)※は2節あります。腹部末端には毒針があり、これで人や動物を刺します。

※胸部と腹部の間にある「こぶ」

ヒアリが巣を作る場所は、公園や芝生、畑地など日当たりの良い開けた場所です。ヒアリの巣は「アリ塚」と呼ばれるドーム状の巣で、地中で深く放射状に広がり、十数メートル先まで延びています。大きく目立つようになるまでには2~3年かかります。

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ヒアリの名前の由来

ヒアリの英名は「fire ant」、漢字では「火蟻」と書きます。刺されると火傷(やけど)のように焼けるような激しい痛みがあることから名づけられました。

ヒアリは「特定外来生物」です

ヒアリは特定外来生物のうち、「要緊急対処特定外来生物」に指定されています。これは、もしも日本に広まった場合、生態系および私たちの生活の安定に非常に重大な支障を及ぼす恐れがある外来生物です。疑いのあるアリを発見した場合は、検査や防除などの措置を緊急に行い、広まることを防止しなければなりません。

ヒアリ以外にも「アカカミアリ」や「コカミアリ」という有毒で刺されるアリが存在します。アカカミアリは特定外来生物であり、要緊急対処特定外来生物にも指定されていて、日本には既に定着している地域があります。一方、コカミアリも特定外来生物ですが、要緊急対処特定外来生物には指定されておらず、日本では発見が確認されただけで未定着です。

どのように侵入しているのか?

ヒアリは荷物を輸送する貨物などに紛れ込み、国際貨物が到着する港のコンテナの中やコンテナヤードの地面などで発見される例が最も多いです。しかし、空港の貨物や個人が購入した商品で発見されたこともあります。

いつから日本に侵入している?

国内で初めてヒアリが確認されたのは、2017年5月、兵庫県神戸港に着いたコンテナからです。2024年は7月までに12事例が確認されており、2017年から現時点までの確認事例は、18都道府県で123事例となっています※。日本では国が関係機関と連携して定期的に侵入状況の調査を実施し、確認した場合は緊急駆除を行い、その後も継続的に監視と調査を行っています。現時点では国内にヒアリは定着していません。

※2024年度のヒアリ確認事例一覧 | 自然環境・生物多様性 | 環境省 (env.go.jp)

写真はイメージ
写真はイメージ写真:アフロ

もしヒアリを見つけたら?

ヒアリを一目で判断するのは難しいですが、「ヒアリかも?」と思った場合は、素手で触らないでください。死んでいても毒針が刺さることがあるので注意が必要です。ヒアリの巣のようなドーム状のアリ塚を見つけた場合も、決して触らないでください。土がこんもりしているだけに見えますが、そこに足を踏み入れたり、手を入れたりすると、巣の中のヒアリが大量に出てきて襲ってきます。

もし、ヒアリと思われるアリやアリ塚を見つけた際は、地元の自治体か、見つけた場所の管理者に連絡してください。環境省の「ヒアリ相談ダイヤル」に連絡するのも良いでしょう。⇒ヒアリかな?と思ったら、お問合せ先 | 特定外来生物ヒアリに関する情報 | 環境省

もしもヒアリに刺されたときは?

ヒアリに刺されると、焼けるような激しい痛みがあり、半日~2日以内に紅斑や水ぶくれができます。痛みの程度は人によって異なりますが、ヒアリに刺された方にお話を伺うと、相当な痛みを感じたとおっしゃっています。アメリカでは年間1400万人が刺されており、生活に多くの影響が出ています。

ヒアリに刺された時に最も注意しなければならないのは、アナフィラキシーを起こす可能性があることです。ヒアリの毒の蛋白成分はハチ毒と似ているため、過去にヒアリに刺されたことがない場合でもアナフィラキシーを起こすことがあります。刺されてから30分~1時間以内は特に注意が必要で、もし体調に変化があればすぐに近くの病院を受診してください。海外では、アナフィラキシーによる死亡例も報告されています。

海外のヒアリ事情

アメリカへは1930年代に、オーストラリア、ニュージーランド、中国、台湾へは2000年代にヒアリが侵入しています。侵入後、根絶に成功しているのはニュージーランドだけで、それ以外の国では駆除に成功していません。ヒアリの防除対策費用はアメリカでは年間6,000億円にのぼると試算されており、日本でも沖縄県に定着した場合の試算は年間450億円と言われています。

根絶に成功したニュージーランドの事例

2001年、ニュージーランドのオークランド空港近くでヒアリの巣が発見されました。その後、迅速に対策チームが編成され、殺虫剤を用いて駆除を実施しました。また、発見場所から1キロメートルの範囲を「定着ハイリスクエリア」と定め、徹底的なモニタリングを行い、さらに5キロメートル圏内を「要注意エリア」として調査を行いました。そして、2003年の夏までにヒアリの根絶が宣言されました。その後も、ニュージーランド国内の港でコンテナ内からヒアリが発見されることがありましたが、いずれも定着する前に駆除されています。

日本でもニュージーランドの事例を参考にしたいところですが、日本の場合、侵入している地域と人の生活圏が非常に近いため、大掛かりな殺虫剤散布は難しいのです。そのため、ベイト剤(食毒剤)をまいて、見つけ次第除去するという方法を繰り返すしかないのが現状のようです。

最後に…

現時点で、環境省は「ヒアリが日本に定着しそうなギリギリの段階」と考えており、対策の強化が急務とされています。もしヒアリが日本に定着すると、刺される被害だけでなく、農作物をかじったり、家畜を襲ったり、それに従事する人が頻繁に刺されることで仕事をリタイアしてしまうことも想定され、経済的被害は重大になるでしょう。ヒアリの早期発見と早期防除が最も重要ですので、もしもヒアリでは?と思った場合は、自治体や環境省へ連絡してください。

ヒアリが初めて日本に入ってから7年が経過しましたが、まだ定着していないということは、国内のヒアリ定着防除に携わっている方々の努力の賜物です。心から感謝申し上げます。

【この記事は、Yahoo!ニュース エキスパート オーサーが企画・執筆し、編集部のサポートを受けて公開されたものです。文責はオーサーにあります】

アース製薬(株)研究部で害虫飼育を担当

兵庫県出身。都内の美術学校卒業後、 家具店店員、陶芸教室講師など虫とは全く関係のない職業に就いていたが、1998年に地元・赤穂のアース製薬に入社以来、害虫の飼育を担当している。しかし、現在も虫は好きではない。著書に「きらいになれない害虫図鑑」(幻冬舎)※記事は個人としての発信です。

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