Yahoo!ニュース

スイーパーの多投以上に気がかりな投手・大谷翔平の2つの投球データとは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
球数により投手成績が極端に違っている今シーズンの大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【5月以降はわずか2勝の投手・大谷選手】

 6月に入ってから本塁打量産体制に入り、現在本塁打、打点の2部門でMLBトップ(もしくはトップタイ)に立つほど打撃好調の大谷翔平選手だが、投手に関しては、登板する度に好投を演じていた4月と比較すると、やや調子を落としているように見える。

 実際4月(3月の1試合含む)は4勝0敗、防御率1.85、46奪三振の成績を残し、投手主要3部門(勝利数、防御率、奪三振数)でリーグのトップ争いを演じていたが、5月以降は今もハイペースで三振を奪っている一方で、失点される機会が増え、2勝3敗、防御率3.93に止まっている。

 勝利数に関してはチームとの兼ね合いがあるので、最近の伸び悩みは大谷選手の投球内容だけで説明するのは難しい。だが防御率の推移から明らかなように、4月よりも失点されるケースが増えているのは紛れもない事実だ。

【大谷選手の被打率.179は現在MLBトップ】

 ただ最初に断っておくが、大谷選手が「打たれるようになった」という表現は明らかな事実誤認だ。というのも、現時点での大谷選手の被打率.179はMLBトップだからだ。

 しかも奪三振数も前述通り、MLB3位にランクするほど量産を続けている。むしろ大谷選手は現在も、「MLBで最も安打が打ちにくい投手」だということに他ならない。

 それでも失点するケースが増えているという事実を考えると、何らかの理由が存在することになる。

 日本の報道の中には、シーズン開幕からスイーパーの投げすぎに疑義を呈しているようだが、実はそれだけでは説明がつかないように思う。

【球種別被本塁打数はスイーパーがトップの7本だが…】

 確かに大谷選手が許した12本塁打のうち、7本がスイーパーを打たれたものだ。しかも試合別の球種割合をチェックすると、シーズン開幕から5月9日のアストロズ戦まで8試合連続で最も多投した球種がスイーパーだった。

 この8試合では5月9日のアストロズ戦以外、全投球の5割前後までスイーパーを多投し、4月27日のアスレチックス戦で5失点、5月3日のカージナルス戦でも4失点されている。

 ただスイーパーよりカッターを多用した(カッター27球、スイーパー26球、フォーシーム25球、その他20球)5月15日のオリオールズ戦でも5失点を記録しているし、スイーパー、シンカー、速球をバランスよく投げ分けた(スイーパー38球、シンカー27球。フォーシーム21球、その他2球)6月2日のアストロズ戦でも5失点(自責は4)されているのだ。

 しかも今シーズンの球種別成績を見ても、被本塁打数こそ多いものの、スイーパーの被打率は.160、長打率も.368に抑えているのだ。決してスイーパーの多投が悪い影響を及ぼしているとは思えない。

【球数51~75と101球以上の場面で集中的に打たれる】

 そこで今シーズンの大谷選手の投球データをもう少し細かくチェックしてみると、2つの気になる点が確認できた。

 まず1つが球数に関するものだ。

 今シーズンの大谷選手は天候不良による試合中断が入った4月17日のレッドソックス戦を除き、92~111球の球数を投げている。

 これを球数別の打席成績を見てみると、1~25球では被打率.136、長打率.211で、以下26~50球が被打率.125、長打率.300、51~75球が被打率.308、長打率.551、76~100球が被打率.130、長打率。351、101球以上が被打率.300、長打率.600──という状況だ。

 このデータから明らかなように、今シーズンの大谷選手は球数51~75球と101球以上の場面で集中的に打たれているのが理解できる。

【走者二塁と一、三塁の場面を苦手にしている?】

 そしてもう1点が、走者別打撃成績に関するものだ。

 すでにご承知の方も多いかと思うが、得点圏での被打率.289、長打率.615が示すように、得点圏に走者を置いた場面でかなり打たれている傾向にある。

 中でも二塁に走者を置いた場面では、被打率.353、長打率1.000まで跳ね上がり、一、三塁の場面でも被打率.500、長打率1.000と高い数値を示しているのだ。

 ちなみに昨シーズンの大谷選手は走者を得点圏において被打率.164、長打率.255と圧倒的な投球を演じており、この差こそが現在の成績に影響していると考えるべきだろう。

 エンジェルスにも専門アナリストがいるので、こうした分析を行った上で大谷選手にも伝達しているはずだ。今後の対応に注目したいところだ。

 最後にこの場で紹介しているデータはすべて、MLB公式サイト「savant」および「Baseball Reference」に掲載されている現地時間6月22日現在データを引用したものだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事