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英首相官邸の飼い猫ラリーがショックのあまり飛び降り!? ジョンソン首相が「合意なき離脱」内閣つくる 

木村正人在英国際ジャーナリスト
「10月31日離脱」を改めて宣言したジョンソン英首相(筆者撮影)

「英国に逆張りした人は負ける」

[ロンドン発]離脱期限まで99日――。欧州連合(EU)離脱交渉が迷走する英国で「合意があろうがなかろうが期限の10月31日にはEUを離脱する」と宣言するボリス・ジョンソン前外相(55)が24日首相に就任、重要閣僚の財務相、外相、内相に「合意なき離脱」派を任命しました。

保守党党首選で「期限通りに離脱するか、さもなくば保守党は死ぬかだ」と繰り返してきたジョンソン首相は「英国に逆張りした人は負けるだろう。なぜなら我々は民主主義の信頼を取り戻し、議会が有権者に繰り返してきた約束を実行する。もしも、しかしもない。10月31日に英国はEUを離脱する」と強調しました。

「もしも、しかしもない」と演説をぶつジョンソン首相(筆者撮影)
「もしも、しかしもない」と演説をぶつジョンソン首相(筆者撮影)

内相から昇任したサジード・ジャビド財務相は25日にも「合意なき離脱」に備える緊急予算案を発表する見通しです。ドミニク・ラーブ外相(前EU離脱担当相)は「合意なき離脱」を阻止する反対派を排除するため下院の停会を主張する最強硬派の1人です。

強硬離脱派「欧州研究グループ(ERG)」の頭目ジェイコブ・リース=モグ氏も下院院内総務の要職に就きました。

3年前の国民投票で離脱キャンペーン「ボウト・リーブ(Vote Leave、離脱に投票を)」を率いたストラテジスト、ドミニク・カミングス氏もジョンソン首相の上級アドバイザーに就任。ジョンソン首相は内閣を「10月31日離脱」に同意するメンバーで固めました。

しかし穏健離脱または残留を主張する保守党の下院議員約30人が「合意なき離脱」に反対する方針を表明しており、10月31日に離脱できなかった暁にはジョンソン首相は解散総選挙に追い込まれる可能性が膨らんでいます。

EUのミシェル・バルニエ首席交渉官は「ジョンソン新首相から英国の選択は何なのか聞きたい。制御された離脱なのか。合意なき離脱なのか。合意なき離脱は決してEUの選択になることはない。しかし私たちは制御された離脱に備えている。可能な最善の方法である離脱協定書の承認を目指す」と述べました。

波乱の船出

ロンドンのダウニング街10番地(首相官邸)周辺では離脱派と残留派がそれぞれ「EU離脱の実行を」「ボリスは出ていけ」と叫び声を上げて対立。地球温暖化対策の加速を求める環境保護団体グリーンピースの活動家がジョンソン氏を乗せた車がバッキンガム宮殿に向かうのを妨害する騒ぎも起きました。

衛星放送スカイニューズ・テレビの世論調査によると、ジョンソン首相になって英国の未来はより悲観的になった人は41%、より楽観的になった人は27%。変わらないと考える人は24%でした。

ジョンソン首相を「真剣な政治家」と見る人は33%、「そうではない」と考える人は51%にのぼりました。しかし最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首に比べると首相に相応しいと考える人が41%対22%で大差をつけました。

ジョンソン首相を「無能」と考える人は44%、「有能」と考える人は41%。コービン党首を「無能」と考える人は60%、「有能」と考える人はわずか26%でした。

「首相官邸の飼い猫ラリーが飛び降りた!?」

首相官邸の飼い猫ラリーが飛び降りたと茶化すSNS
首相官邸の飼い猫ラリーが飛び降りたと茶化すSNS

テリーザ・メイ前首相の離任演説とジョンソン首相の就任演説を取材するため首相官邸に到着すると、上海のテレビ局で働く女性キャスターが筆者にスマートフォンを見せ、「ジョンソン氏が首相になると決まったとたん、首相官邸の飼い猫(ネズミ捕獲長)ラリーが3階から飛び降りたそうよ」と話しかけてきました。

危険物の持ち込みをチェックする警察官や先着していたジャーナリスト仲間に確認しても目撃者は見つからず。実は残留派のフェイスブックページ「ヨーロッパのためのコッツウォルズ」のパロディ画像で、ジョンソン首相の到着が近づくと、ラリーはあくびをしながら「10(ダウニング街10番地)」と書かれた漆黒のドアから出てきました。

ジョンソン首相を出迎えるラリー(筆者撮影)
ジョンソン首相を出迎えるラリー(筆者撮影)

それより驚いたのはジョンソン首相を出迎えた首相官邸のチームの中心に、ジョンソン首相が2番目の妻と別れた後、同棲していた元保守党スピン・ドクター(報道担当者)キャリー・シモンズさん(31)が陣取っていたことです。ジョンソン首相とシモンズさんは大喧嘩をして近所の人が警察に通報する騒ぎになったことがあります。

首相官邸チームの中心に陣取るシモンズさん(ピンク色ドレスの女性、筆者撮影)
首相官邸チームの中心に陣取るシモンズさん(ピンク色ドレスの女性、筆者撮影)

ジョンソン首相が減量し、失言防止のため用意した原稿を読むようになったのはシモンズさんの助言のおかげです。シモンズさんは当分「チーム・ボリス」で働くつもりなのでしょうか。それとも首相官邸で同居するつもりでしょうか。カラフル過ぎるジョンソン首相らしいスタートでした。

「有権者は我々の主人であることを忘れるな」

ジョンソン首相の就任演説の骨子は次の通りです。

・政治家は有権者が主人であることを忘れてはならない

・新しい通商交渉がまとまらなかった場合に北アイルランドがEUの単一市場と関税同盟に残るバックストップ(安全策)は気にするな。責任は自分がとる

・街を安全にする。街頭警察官を2万人増やす

・かかりつけ医(GP)の診察を受けるための待ち時間を3週間以内に抑える。20の新しい病院をアップグレードする

・老後の介護のためマイホームを売らなくて済むようにする

・ソーシャルケア危機を解決する

・初等・中等教育の補助を増やす

首相官邸に別れを告げるメイ首相とフィリップ氏(筆者撮影)
首相官邸に別れを告げるメイ首相とフィリップ氏(筆者撮影)

一方、メイ首相はこの日、夫のフィリップ氏に付き添われ、「女性首相を見た少女たちには何の制約もありません。何でも達成できることを理解するよう望みます」という言葉を残して首相官邸を去りました。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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