「あの一言」「あの一人」をなぜ気に病んでしまうのか……その心理と対処法
一つの嫌なことに心が引っ掛かるのは何故?
「会議で一つだけ小さなミスをしたことでずっと考え込む」
「あいさつした時に顔をしかめた上司が気になる」
「同僚がひとことつぶやいた言葉が気になる」
「職場で一人気が合わない人がいる」
たった一つのこと、たった一人のことなのに、なぜかそれに引っ掛かり夜眠れない……、たった一人だけ合わない相手がいるのがどうしても気になり職場に行くのが憂鬱になる……。そうした経験をする方は多いと思います。なぜたった一つのことが心に引っ掛かってしまうのでしょう。
職場の一人とうまくいかず寝つきが悪いAさん
IT関連の企業に勤める営業職のAさんは31歳。自社で開発したアプリなどのサービスの営業担当で、社内ではすでに中堅で幹部候補生になっています。上司からの信頼もあり仕事を地道にこなしているのですが、開発部門の担当者の一人とだけうまくいかないことを感じています。その担当者は(Aさん)が「新商品の納入時期をいつもせかしてくる」と陰でぐちをいっているのがAさんに間接的に伝わってきたからです。これが心に引っ掛かりAさんは夜の寝つきが悪くなりネガティブな気分に陥っていました。
別の会社に勤めている友人にその話をすると、「完璧主義はやめた方がいい。陰で悪く言うやつはどこでもいるから。全員とうまくいくなんていう話はあり得ない」と言われ、確かにそうだ、と納得はするのですが、それでもやはり気になってしまうのです。
定番の解決法では抜け出せない
先輩からは「開発部のほかの人からは特に文句もないし、上司も同僚も他の人とはうまくいっているのだから、嫌なところばかりに注目せずうまくいっていることを思い出したらどうか」と言われました。確かにうまくいっていることのほうが多いのに、たった一人との関係が悪いことを気にする自分は気にしすぎだろうか、と考えるとこれもまた自分はだめだ、というネガティブなスパイラルに陥ってしまうのです。
一つのことが心に引っ掛かり悩む人には
*よくないところではなく、うまくいっているところも注目しよう
*すべてうまくいくはずはないのだから、完璧主義はやめよう
などというアドバイスをするものです。でもいくらそう言われてもなかなかネガティブなスパイラルからは抜けられないものです。定番ともいえるこうした解決法では「一つのネガティブ要素の罠(わな)」から抜け出せません。
「失敗しないための危機管理能力」という見方
では一つのことが気になってしまうのは神経質で小心者なのでしょうか? 答えはノーです。「一つのネガティブ要素が気になるのは人の持つ損失回避の心理のためである」ということだからです。
心理学者でありかつノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン博士は「脳はいいニュースより危険な兆候を持つ言葉や悪いニュースに敏感に反応する」と述べています。人は悪い評価や評判について詳しく検討し損失を避けようとする、というのです。いいことは放置しても危険はない、しかし悪いことは見逃すと大変なことになるかもしれない、という不安感が悪いことへの反応を過剰にするわけです。
つまり悪いことが気になるのは、人の持つ損失回避という特徴のためであり、そうした視点でみると気になるのは決して悪いことではなく、 むしろ「失敗しないための危機管理能力」ととらえてはいかがでしょう。だから一つのことが気になったときは、自分の危機管理能力が働いている、と認識するほうがいいでしょう。
心の罠から脱出する4つのステップ
そのうえで一つのネガティブ要素に対して、危機管理しながら過剰反応しないためのステップを立てることが大事です。
その1.ネガティブ要素の事実を書き出す
その2.それに対していまできる現実的な対処法を考える
その3.対処法を速やかに実行する
その4.実行した段階でネガティブ要素について考えるのをストップする
前述のAさんの場合は、「開発部の人たちはせかされていると感じているのか」といったことを意見交換するミーティングを企画するなど、普段のコミュニケーションを増やすことを対処法として実行しようと決めたそうです。Aさんは対処法を考えた時点で気分転換できました。
小さな問題点を気にして思い悩むところでとどまらずに、問題点を冷静にとらえて対策を立てれば、心のベクトルは変わります。それが「ネガティブな心の罠」から抜け出す手がかりになるのです。