インフルエンザワクチンは打たない方がいい? 医師の視点
今年も冬が近づいてきました。毎年日本人の約10人に1人がかかるインフルエンザの流行も近づいています。そこで本記事では、インフルエンザワクチンについて専門用語を使わずに解説しましょう。
筆者の結論から言えば、
1、ワクチンは受けることをおすすめ
2、受けるなら遅くとも11月中に
です。順にお話ししましょう。
インフルエンザワクチン、受けない方がいい?
筆者は医師ですが、先日友人から「ネットでインフルエンザワクチンは受けない方がいいと読んだのだけど本当?」と相談されました。そこで筆者もインターネットで「インフルエンザワクチン」で検索してみると・・・出るわ出るわ、ワクチン不要論の数々。検索結果の上から「インフルエンザワクチンは打ってはいけない!」「インフルエンザワクチンは打たないで!」と並びます。これには大変驚かされました。もっとまともな情報はないのか、とスクロールすると、4番目にやっと厚生労働省の「インフルエンザQ&A」です。
筆者は医師として、「インフルエンザワクチンは受けた方がいい」と考えています。理由は、受けるとインフルエンザを予防出来る可能性があり、かかってしまっても重症(肺炎など、入院が必要になるほど悪くなること)になることを避けられるからです。筆者の勤める病院でも医師や看護師、事務方のスタッフなどのほぼ全員がワクチン接種を毎年受けています。
そして大切なのは、65歳以上の方はワクチン接種が特に勧められるということ。国から補助のお金が出るためだいたい半額の1500円から2500円くらいで接種できます。ぜひ親御さんや周りの高齢の方に接種したか聞いてみてください。
いつ受けるべきか?
いつワクチン接種を受けるべきか。実は、これはなかなかの難問なのです。というのも、「ワクチンが効いている期間」と「インフルエンザ流行の期間」が重なっていないとあまり打つ意味がなくなってしまうからです。「ワクチンが効いている期間」は、接種した(13歳未満は2回目を接種した)2週後から5か月程度までと考えられています。一方で「インフルエンザ流行の期間」は、だいたい毎年12月の頭から始まって1月の終わりくらいにピークに達し、3月末に終わります。ところが、この流行期間は年度によって少しずつ違うのです。このグラフをご覧ください。
これは、色ごとに過去10年の流行を示したものです。横軸は時間(何月、ではなく第何週と書かれています)、縦軸はインフルエンザにかかってしまった人の数です。流行しているのはグラフの左端の方ですが、よく見てみると年度によって微妙にずれていますね。このずれをすべてカバーしようとすると、丸々4ヶ月ほどはワクチンの効果がある期間がカバーしなければなりません。ワクチンは5か月くらい効果があると言われていますので、うまいタイミングで打てば丸々カバーできそうです。
ところがこの流行期間を予測するのがとても難しいのです。例えば去年は過去5年で一番遅い流行のスタートでした。しかし今年はちょっと早いかもしれません。厚生労働省が出している「感染症エクスプレス@厚労省」というメルマガでも、
と報告しています。(出典は下記)
残念ながら、筆者は「この時期に受けるのが良い」ということは出来ません。医者の目から見ても人間の体は本当に未知だらけの予測不可能なものであり、その人間の集まりである社会でのインフルエンザ流行を予測することは不可能だからです。筆者に出来ることは正しい情報を提供し、それをわかりやすく解説することだけです。その上で、今年は例年よりインフルエンザ患者さんの増加が早いことを考えると、そろそろワクチンを打っていても良いかもしれません。ちなみに筆者は昨日(11月1日)、ワクチンを接種しました。
ワクチンの副作用は?
ワクチンを打っただけで、大きな病気にかかったり死んでしまう。そういう危険性はどれくらいあるのでしょうか。副作用(正確には副反応といいます)について調べました。
厚生労働省によると、だいたい一年に0〜3人の方がワクチン接種により死亡している可能性があります。ワクチンは一年に約5000万人(回)接種されていますから、0.000005%の確率ということになります。(医療機関から「関連有り」として報告されたもの)また、重い病気にかかる確率は少し増えて、0.00007%でした。
そうでなくとも、接種した人はご存知でしょう、注射した場所がはれたり赤くなって痛くなりますよね。筆者も毎年受けていますが、2,3日は痛みます。ワクチンを打った人の10人に1人か2人は筆者のようになりますが、だいたいの方が2,3日で良くなります。また、熱がでたりだるくなる人もいますが、これも2,3日で良くなります。
以上、インフルエンザワクチンについてまとめました。寒い冬が始まろうとしています、どうぞお大事に。
※筆者はインフルエンザワクチンに関与する製薬会社などの企業と利害関係はありません。
※記事中の画像の出典:国立感染症研究所ホームページ
※筆者は記事中でワクチン接種を推奨していますが、しかしながらワクチン接種を受けるか否かは個々人の判断で決まるべきであり、本記事はその判断の助けとなることを目的として執筆されました。その他の意図はありません。