LGBT(性的少数者)の学校生活、いじめの実態調査をもとに国会議員・文部科学省と勉強会を開催
「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」では、5月上旬に「性同一性障害や同性愛などのLGBT(性的少数者)は、小学校~高校の間に約7割がいじめ被害を経験していた」等の調査結果を公開し、大きな反響を呼びました。LGBT全体で学校生活に関して数百人規模の調査が行なわれたのは国内初であり、教育現場がLGBTの子どもたちの存在を念頭に置く必要性があらためて示されました。
「LGBTと教育現場をつなぐ勉強会」を開催
文部科学省は6月13日に「学校における性同一性障害に係る対応に関する状況調査」について公表しました。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」ではこれらの結果を教育行政にきちんと反映し、教職員の対応スキル向上などの具体的施策へとつなげていくため、国会議員有志と文部科学省、さらにLGBT研究の第一人者でおられる宝塚大学看護学部の日高庸晴教授をお招きした勉強会と意見交換を6月17日に開催しました。
勉強会の内容は
●宝塚大学看護学部 日高庸晴教授
「調査から見えてくるLGBTの現状と課題-ゲイ・バイセクシュアル男性対象のインターネット調査と教員5,979人のLGBT意識調査から」
●「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」共同代表 遠藤まめたさん
●文部科学省 担当者
「学校における性同一性障害に係る対応に関する状況調査」
について調査結果を報告した後に、意見交換するというものでした。
出席した国会議員は、
●馳浩衆院議員
●橋本岳衆院議員
●福田峰之衆院議員(代理出席)
●牧島かれん衆院議員
●田畑毅衆院議員
●中川俊直衆院議員
●佐々木紀衆院議員
が出席してくれました。
文部科学省からは、
●初等中等教育局児童生徒課 課長
●初等中等教育局児童生徒課 課長補佐
●初等中等教育局児童生徒課 指導調査係長
●初等中等教育局教職員課 課長補佐
●初等中等教育局教職員課 研修支援係長
●スポーツ・青少年局学校健康教育課 課長補佐
●スポーツ・青少年局学校健康教育課 保健指導係長
そして、他にもメディア関係者などたくさんの方たちに参加をしていただきました。
「同性に関心が向く=性同一性障害」ではない。誤った対応を防ぐために
まず、馳浩衆院議員より「勉強会を重ねながら、仲間を増やしながら性的マイノリティの方たちに対する社会の理解を増やし、差別を無くし、権利を獲得できるようにしていきたい。今回の文部科学省の調査は教職員を対象にしなかったことが不満に思う。これから、どのように合意を形成していくかが、政治的な課題である」との挨拶がありました。
次に宝塚大学看護学部日高庸晴教授より、1999年以降継続して実施しているゲイ・バイセクシュアル男性(累積5万人以上の研究参加)を対象にしたインターネット調査と、教員6,000人を対象としたLGBTについての意識調査について報告していただきました。
ゲイ・バイセクシュアル男性を対象にした調査によると自分の性的指向を自覚した平均年齢は13歳であり、自らのセクシュアリティに違和感を持つなどしながらなんとなく気づきはじめ、高校入学ぐらいではっきりと自覚しています。調査の協力者が学齢期であった当時は同性愛が異常性欲・病気として扱われていた時代です。学校現場では「一切習っていない」「異常なものなどとして習った」などを合わせると9割を超える人たちが、セクシュアリティについて適切な情報提供を得ていないことがわかりました。
カミングアウトについては、10~30代のおよそ15%程度が親にカミングアウトしていました。親以外の友達などにも2人に1人はカミングアウトしていますが、その人数はごくごく親しい相手2~4人程度にとどまります。
学齢期のいじめ被害についてですが、これまでの調査で何度も質問項目に加えていますが最も低率であったときでも、ゲイ男性の2人に1人にいじめ被害経験がありました。また、そういった児童・生徒ほど「用事がないのに保健室に行っていた」ことがわかっています。保健室に頻回に来訪する子どもの背景に、セクシュアリティのことが関連しているかもしれない、という意識をもって先生方が対応することが必要になります。また、保健室にLGBTに関する書籍やポスターを貼っておくことなども支援のひとつになります。
ゲイ・バイセクシュアル男性のおよそ65%が自殺を考え、14%が自殺未遂を経験しています。また、別の調査として、異性愛者の自殺未遂率との比較研究をしました。大阪の心斎橋で若者男女約2,000人を対象に実施した街頭調査のデータ解析をしたところ、男性のみ自殺未遂に性的指向が明らかに関連しており、性的指向以外の要因の影響を考慮してもなお、自殺未遂に性的指向の関連が強く、異性愛男性と比較するとゲイ・バイセクシュアル男性の自殺未遂リスクはおよそ6倍であることが示されています。
1999年以降実施している一連の調査では、ゲイ・バイセクシュアル男性の4~5割が抑うつ傾向であり、他集団に比べると2倍ほど高い割合です。メンタルヘルスに関する医療機関につながっているか質問したところ、過去6ヶ月の受診歴は7~9%程度にとどまっており、さらに性的指向について医療者に話が出来た人はわずか8.5%です(http://www.gay-report.jp/2011/index.html)。
国内初の教員のLGBT意識調査
6つの自治体で約6,000人の教員に対してアンケートと教員研修を実施しました。先生方の約7割が「性同一性障害」について、6割が「同性愛」について授業で教える必要があると考えています。その一方で、実際に授業で取り入れた割合は約14%でした。また、大半の先生方に性的指向について誤解あるいは不確かな知識や認識があることもわかりました(例えば、性的指向は本人の選択の問題と捉えている人は38.6%、よく判らないは32.8%等)。性の多様性に関する研修会の受講ニーズは、6割を超える先生方が参加したいという意向を持っています。
子どものときに性同一性障害ではないかと自覚した子どもたちを追跡した結果、子どもの性同一性障害が必ず大人の性同一性障害になるのではなく、同性愛であったという事例もあるようです。最近の子どもたちにおいては「同性に関心が向くイコール性同一性障害」であると考えてしまう傾向があるかもしれません。だからこそ、同性愛といった性的指向と性同一性障害の両方を正しく理解したうえで、セクシュアリティについて対応していく体制を整備しないと、大人が子どもに間違った線路を引いてしまうことになりません。正しく認識するとともに支援策を学ぶための教員研修の機会確保が急務です。
教育現場でLGBTに関する正しい情報とメッセージを
「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」共同代表の遠藤まめたさんより「LGBTの学校生活実態調査」の調査結果について報告していただきました。
「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」では、平成25年度東京都地域自殺対策緊急強化補助事業の一環として、「LGBTの学校生活実態調査」を実施し、今年の5月に調査結果を公表しました。調査はインターネットを通じて回答を募り、「現在10歳以上35歳以下」「関東地方で小学校~高校生の間を過ごした」の条件に該当するLGBT当事者609名から回答を得ました。これまで性同一性障害や同性愛・両性愛男性に対する調査は存在したものの、LGBT全体で学校生活に関して数百人規模の調査が行なわれたのは国内初です。
性同一性障害や同性愛などのLGBT(性的少数者)は、小学校~思春期の頃に自分自身が多数派と異なることを大半が自覚しますが、男子5割、女子3割は誰にも相談できていません。“カミングアウト”するときに選ぶ相手の大半は同級生で、学校の先生や親など「大人」を選ぶ割合は低いことがわかりました。性別に違和感を持つ男子は、いじめのハイリスク層で、深刻ないじめを5学年以上にわたって受けている例が多いことが特徴です。
「周囲のだれかに話した」と回答した者の約6~7割は同級生を選び、また同級生でなくとも部活や同じ学校の友人など、同世代の友人が選ばれています。言わなかった理由は「理解されるか不安だった」(約6割)、「話すといじめや差別を受けそうだった」(男子約6割、女子約3割)。一方、教師にカミングアウトしたLGBTは全体の1割程度に過ぎず、教師が気付きにくい現状が示されました。
いじめは2 学年以上続くことの方が多く、特に性別違和のある男子では、いじめが長期化しやすい上に、言葉による暴力(78%)、無視・仲間はずれ(55%)、身体的な暴力(48%)、性的な暴力(服を脱がされる・恥ずかしいことを強制される)(23%)と、いじめ被害経験も深刻かつ高率でした。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」ではこれらの結果を元に、LGBTの子どもたちの現状を知ってもらうと共に、いじめや孤立状況を改善するための施策をまとめ、社会に提言していく予定です。
文部科学省は今回の調査結果をもとに事例集を作成
文部科学省より「学校における性同一性障害に係る対応に関する状況調査」の結果について報告がありました。
学校側に悩みを相談したのは606人で、約6割の学校で戸籍上の性と異なる制服着用やトイレの使用を認めるなど何らかの配慮をしていました。専門知識の不足などで対応が困難と回答した学校も多くあり、文部科学省は専門家の意見を踏まえた事例集を作成し、各教育委員会などに配布する予定です。
調査は全国の小、中、高、特別支援学校の約3万7000校(児童生徒数計約1300万人)を対象に昨年4月から12月の間に実施しました。児童生徒のプライバシーを配慮しつつ、学校が把握する事例について対応や課題を尋ねました。
調査結果によると、全国で606人(男子237人、女子366人、無回答3人)が学校側に悩みや対応を相談しています。中学校は110人、高校は403人で、年齢が上がるごとに増加しています。性同一性障害であることを把握しているのは学校側やごく一部の友人に限られるのが大半で、明らかにして生活しているのは約2割の136人でした。
相談した606人のうち、トイレや更衣など保健室や職員用の利用で対応可能な配慮をされている児童生徒はそれぞれ156人、133人と比較的多く、授業や部活動で個別の対応を受けているのはごく一部でした。服装に関しては、女子123人が何らかの配慮を受けているのに対し、男子にスカート着用などを認めた例は36人と少数でした。
この調査結果については今週中にも各学校に通知します。通知は平成22年度に一度していました。この調査を踏まえたうえで、専門の先生などにも助言もらいながら学校現場においてどのように対応していくか資料を作っていきたいと考えています。
また、文部科学省からは画期的な答弁はありませんでしたが、MMPI試験に関する情報提供などについて問題を把握していることが示されました。
今後に向けて
意見交換では
●日高庸晴さん
・平成22年度の通知について、現場の先生から「実際にどのように対応すればいいのかわからない」と質問をされることが多くある。セクシュアリティ理解のための研修を実施することに積極的な自治体はまだまだ少なく、そのため、文部科学省の枠組みの中で性同一性障害や性的指向に関する包括的なセクシュアリティ研修の実現が必要であると考えられる。今後は教員を対象にした人権研修などで、出来れば悉皆研修などの機会の確保を是非ご考慮いただければと思います。
・自殺予防・いじめ、薬物・不登校の背景にセクシュアリティが関係していることも多くあり、近接領域の研修の場で、たとえば事例としてセクシュアルマイノリティのことを取り上げることも、一つの取り組みの方法ではないでしょうか。
●文部科学省
・平成22年度通知「児童生徒の心情に十分な配慮」について
確かに何をという声はあった。これまでの間に事例が積み重ねられていた。文部科学省として資料を作成したい。学校の教員は専門的な知識・経験が乏しい故に消極的になってしまう。文部科学省が作った資料を研修にて活用したいと思いながら作成したい。
●国会議員
・自殺などの要因として関連性がある。どうすればよいのかわからないというところをフォローして欲しい。
・文部科学省の調査結果が出て興味を持つ人がいたと思う。今回の調査を学校現場が興味を持ち、学校での学びを卒業したのちにも生かされる。
・LGBT全体をみて調査していかなければ間違えてしまうのではないかと感じた。
●遠藤まめたさん
・GIDだけ知っていれば、いいものではない。LGBT全体を。
などの意見が出されました。今回、勉強会を開催してみて国会議員有志がLGBT全体の問題にきちんと関心を示していることがよくわかりました。
「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」としては性同一性障害の児童生徒だけではなく、LGBT全体の児童生徒を調査の対象にしてもらえるようにしたいと考えています。今後もあらゆる方面と連携しながら課題を解決できるように頑張ります。
LGBTの子どもたちが安心して学校生活を過ごせるように、これからも引き続き全力を尽くしてまいります。
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「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」
LGBTの子ども、若者に対するいじめ対策、自殺対策(=生きる支援)などについて取り組みをしている。LGBT当事者が抱えている政策的課題を可視化し、政治家や行政に対して適切な提言を行い問題の解決を目指すことを目標としている。