新聞、雑誌、ラジオ、テレビ、そしてその他広告…インターネット以外の広告費動向から力関係の変化を探る
昨今のメディア動向では一番の風雲児、インターネット。しかしそれ以外のメディアもまた、大きな力関係の変化の中にある。今回は経済産業省の定点観測的調査の一つ「特定サービス産業動態統計調査」の公開データを元に、インターネット以外の広告費動向を確認していく。
まず最初のグラフは、従来型4マス、具体的にはテレビ・新聞・雑誌・ラジオのうち、この2、30年の間に動きが特に著しい紙媒体2マス、新聞と雑誌に関する動き。
ここ数年右肩下がりなのは両紙とも同じ。新聞の下げは今世紀に入ってから生じているもので、「インターネットによって購読者が奪われた」事態だけを新聞の凋落とするのには無理があることが分かる。また直近ではリーマンショックの影響の大きさの再確認、そしてそこからやや持ち直しを見せ、2012年には反転の兆しすらうかがえたのが把握できる。
今件をもう少し分かりやすくするため、1988年の広告費を各項目ごとに基準値の「1.0」と設定、その後各媒体がどのような変遷を遂げたのかを計算したのが次のグラフ。例えば1988年にある項目が1000億円を示していたものが、1995年に2000億円にまで成長していれば、1995年の値は 2.0(2000÷1000=2.0)となる。この方式ならば各媒体の広告市場の大きさの違いに惑わされずに、個々の市場毎の変遷が把握可能となる。
・新聞はラジオと共に1990年中盤から、他メディアの成長過程に乗り遅れている。
・雑誌やテレビはプロモーションメディアと共に前世紀末までは同じような成長過程を見せている。
・2000年~2001年、今世紀に入ってから「雑誌とテレビ」と「プロモーションメディア」との間には差ができるようになった。前者は成長を止め、なだらかな下落、後者は成長を続ける(赤丸部分)。
・2005年以降雑誌とテレビは明らかに減少カーブを描くようになる。しかしプロモーションメディアは景気全体が後退する2007年までは成長を続ける。
・2007年以降は景気後退のあおりを受け、どのメディアも下落。特に雑誌は新聞やラジオに追いつくほどの勢いで急降下。
・直近の2014年分を含む近年では、持ち直しの気配を見せるテレビやプロモーションメディアと、減少の末に低迷を続ける新聞、雑誌、ラジオとの間で動きが二分される状況がはっきりと認識できる(緑の丸部分)。
・テレビとプロモーションメディアはリーマンショックの影響も大きく受けたが、その後は少しずつ復調過程にある。とはいえ2014年時点でもテレビはリーマンショック前の基準には戻していない。
特に注目したいのは2つのターニングポイント。つまり「2000年~2001年」(赤丸部分)と「2004年~2005年」(青丸部分)。後者は、インターネット広告の登場が影響し、テレビや雑誌、特に好景気時に連動して上昇するはずのテレビが落ちたのは明らか(今データでインターネット広告が独自項目化した、つまり独立項目化するほどの影響力を持ったのも2006年から)。
もう一つ気になるのは前者「2000年~2001年」(赤丸部分)。景気後退期に突入し広告費が減るのは理解できるが、テレビと雑誌の差異の原因としては考えにくい。色々と理由は想定できるが、そのひとつが携帯電話の普及率。この時期に携帯電話の普及率が50%を超え、「二人に一人がケータイ保有」状態となっている。
「テレビは携帯電話との『ながら利用』ができるが、雑誌は難しい」「携帯電話が普及しはじめたから雑誌への注力時間、費用投入が減り、結果として購入者減少、媒体力低下、広告費の削減につながった」との仮説を、このデータのみで確定するのは不可能。しかし要因の一つとして携帯電話が何らかの影響を与えたとする推論は、納得できるだけの説得力を持つ。
これらはあくまでも「広告費の売上」ベースでの話。例えば雑誌や新聞なら媒体自身の売上のように、他にも収益をあげる手段は複数存在する。他方、広告主が広告費をかけてまで広告を載せたい・打ちたいメディアには、それなりの集客力・媒体力がある。必然的に媒体そのもののセールスなどとも深い関係が考えられる。今回の「広告費推移」も、各個の媒体の勢いの動向と大きな差異はないものと見て問題はあるまい。
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