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全英欠場を決めたローリー・マキロイのプロ意識の欠如

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
サッカーに興じて左足首を傷め、全英欠場を決めたローリー・マキロイ(写真/平岡純)

世界ランキング1位のローリー・マキロイが全英オープンを目前にして欠場することを正式に決めた。今月4日に友人たちとサッカーに興じていた際、左足首の靭帯などを痛め、全英オープンを見据えながら治療とリハビリに取り組んでいたのだが、「100%戦える状態になってから試合に復帰したい」との意向を添え、全英出場を断念することを、8日にSNS上で示した。

マキロイの欠場には、単に「出場選手の一人が故障で欠場する」という以上に、いろいろな意味がある。一言で言えば、不注意によって「多くの期待を裏切った」というプロ意識の欠如。あまりにも情けなく、残念だ。

昨年の全英覇者。今年はタイトルディフェンドに挑むはずだった(写真/平岡純)
昨年の全英覇者。今年はタイトルディフェンドに挑むはずだった(写真/平岡純)

【寄せられていた期待と責任】

マキロイは昨年の全英オープン覇者である。つまり、ディフェンディングチャンピオンとして今年の大会に挑む立場だった。

ディフェンディングチャンピオンは、いわば翌年大会の「顔」である。開幕前のさまざまな行事を進行する上で重要な役割が組み込まれている。スポンサーに支えられるプロの世界に身を置いている以上、この役割を果たすのはプロゴルファーの責任だ。

もっとも、マキロイは試合そのものは欠場しても、おそらく左足にテーピングなどを施した格好で会場に現われ、この「おつとめ」だけは果たすのではないかと思われる。

だが、出場しない前提のディフェンディングチャンピオンと、これから戦いを控えたディフェンディングチャンピオンとでは、発するオーラも雰囲気も天と地ほど異なる。ただ姿だけ見せれば、それでノープロブレムという話ではない。

マキロイは現在、世界ランキング1位。彼の王座の維持には大きな期待がかかる。そう、マキロイの双肩には、すでに王者とは見られなくなったタイガー・ウッズに取って代わり、これからのゴルフ界を率いる確固とした王者になってほしいというゴルフ界全体の期待がかかっている。

そんなマキロイを世界ランキング2位の位置から追いかけているのは、今年のマスターズと全米オープンを続けざまに制し、メジャー2冠で年間グランドスラム達成の中間地点まで到達しているジョーダン・スピースだ。スピースが来たる全英オープンを制すれば、マキロイを抜いて世界ランキングは1位になる見通し。破竹の勢いのスピースを果たしてマキロイは阻止し、王座を守ることはできるのか。マキロイとスピースの全英オープンにおける優勝争い、世界ランキングの王座争いは、ゴルフ界全体の注目を集める世紀の対決になるかもしれないものだった。

そして何より、マキロイがメジャー5勝目と全英オープン2連覇を達成できるかどうかは、マキロイを応援するファンにとって、とても楽しみなことだった。

全英予選を兼ねた米ツアー大会会場内に展示されたクラレットジャグ(写真/舩越園子)
全英予選を兼ねた米ツアー大会会場内に展示されたクラレットジャグ(写真/舩越園子)

さらに言えば、大会を主催するR&Aは、聖地セント・アンドリュースで行なう今年の全英オープンでは、世界中のトッププレーヤーたちが最高の戦いを披露してくれることを切望していたことは言うまでもない。

ここ3週間、米ツアーの大会では全英予選を並行して行っている。先々週と先週は英国のR&Aから2名のオフィシャルが遠路はるばる米国の大会会場までやってきて、毎日、試合の行方を見守り、セント・アンドリュースへの切符を手に入れた合計8名に記念のフラッグを手渡していた。

その際、全英オープン覇者に贈られる優勝トロフィーのクラレットジャグも持ってきて、米ツアー会場内のメディアセンターやインタビューエリアに展示。その荘厳さを示しつつ、選手たちのモチベーションを高めていた。

クラレットジャグを間近で眺めた選手たち、セント・アンドリュースへの切符をぎりぎりで手にした選手たち。誰もが羨望の眼差しでクラレットジャグを見詰めていた。

そんな全英オープンにディフェンディングチャンピオンとして挑むはずのマキロイが、趣味に興じて不注意で故障し、欠場する事態に自ら陥るとは、あまりにも情けない。プロアスリートが自分の肉体の管理を怠った責任は重い。プロ意識の重大なる欠如と言わざるを得ない。

このジャグに再度その名を刻むためにもプロ意識を向上させるべし(写真/舩越園子)
このジャグに再度その名を刻むためにもプロ意識を向上させるべし(写真/舩越園子)

【反省し、詫びるべき】

人間なら誰だって病気にもなるし、怪我もする。だが、本業のゴルフの試合や練習において故障したならいざしらず、マキロイの場合は趣味のサッカーに興じていた際のケガ。これは、プロアスリートとしては言い訳のしようのない不注意。しかも、メジャー大会目前の大事な時期にそんな事態に陥るとは、あまりにも軽率だ。

そして、負傷した直後も、欠場を発表した今回も、人々の期待を裏切る形になったことを詫びるというよりも、欠場を決めたことをむしろ堂々とアナウンスしているように感じられてならない。

最初にSNS上に躍り出たのは、左足を故障した姿をアピールするかのような写真だった。背後にはテニスのウインブルドンの中継が映し出されたテレビ。

欠場のアナウンスは、こんな言葉だった。

「考えた末、セント・アンドリュースで行なわれる全英オープンには出ないと決めました。リハビリは進んでいたけど、長い目で見ることにした。100%ヘルシーで、100%戦えると感じられるようになってから試合に復帰したい。みなさんの声援、ありがとう。なるべく早くゴルフコースに戻りたい、、、、、さて、イケイケ、アンディ!」

最後には、ウインブルドンを戦うテニスプレーヤー、アンディ・マレーへの声援の言葉が付されているではないか。まるで、ふざけているように感じられ、ひどくがっかりさせられた。

故障からの回復「100%」となると、全英オープンのみならず、これまたタイトル・ディフェンドがかかっている世界選手権シリーズのブリヂストン招待、全米プロの欠場もありうる。

もちろん、故障した体は治癒させることが第一ゆえ、しっかり治して、また一流のプレーを見せることが、期待を裏切った人々やゴルフ界に対する唯一の「お返し」「報い」になるのだと思いたい。

だが、ともあれ、まずは今回の欠場に至った一件が、世界ナンバー1のプレーヤーとし不注意であったことを反省すべし。そして、いろいろな意味で期待を損ない、迷惑をかける事態になったことを、まずは詫びる一言を発するべき。

強ければ何をやってもいいというわけじゃない。プロゴルファーは戦うアスリートであると同時に、夢を売る商売人にであり、夢を見る子供たちや人々の憧れや手本でもあるのだから――。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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