LGBTの子どもも安心できる学校づくりへ。『LGBT学校生活実態調査2013』レポートを作成。
「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」では、2014年5月に「LGBTの学校生活調査」の調査結果を公開しました。
LGBT当事者が、子ども時代に孤立感や自己否定、いじめなどに苦しんでいることは、これまで当事者コミュニティや口コミレベルでは共有されてきましたが、国内においては本格的な調査は非常に少なく、子どもたちの置かれた状況についての客観的な把握が求められています。本調査では多くの方々のご厚意とご協力により、LGBTの学校生活について実態を浮き彫りとすることができました。この場をお借りして、感謝申し上げます。
調査の目的
国内におけるLGBTの学校生活に関する調査は依然として少ないため、多数の当事者の体験を集め、今後の望ましい施策を検討する上での基礎資料を得ることを目的として、本調査を実施しました。
調査の方法
2013 年 10 月 28 日から 12 月 31 日までの約2ヵ月間、インターネットの無料アンケートサイト「Cube Query」を用いて行いました。スマートフォン、PCから回答できるようにし、同一人の重複回答を避けるためひとつのIPアドレスから1回しか回答できないよう制限をかけました。調査の広報は、実施団体である「いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」のブログの他、ツイッターやフェイスブック、また各地のLGBT団体等にも協力依頼し、そのメーリングリスト等を用いて行いました。また本調査は平成 25 年度東京都地域自殺対策緊急強化補助事業の一環として実施され、金沢大学人文学類の岩本健良准教授に多くの助言をいただきました。
調査対象者
2013年末にインターネットを通じて、「小学校から高校の間に関東地方で過ごした経験のある、10歳以上35歳以下のLGBT当事者」609名から回答を得ることができました。
調査の全文はこちらからダウンロードできます。
調査の結果からわかったこと
(1) 性別違和といじめ被害
LGBT当事者の7割にいじめ被害経験がありました。特に性別違和を持つ生物学的男子(MTF,MTX)では、身体的暴力(48%)や、服を脱がされる・恥ずかしいことを強制されるといった性的暴力(23%)などの深刻ないじめを長期にわたって経験している割合が高率でした。男子のコミュニティ内において「男らしくない」とみなされることが、いじめ被害に高率で結びついている可能性が示唆されました。
本調査における「男子」「女子」について
MTFやMTX または FTMやFTX の場合には、生物学的性には違和感があり、「男性」や「女性」という表記を望まない当事者が多くいます。今回の調査では、学校内でそれぞれが「男子」「女子」として扱われる場面が大半であることを考慮して、あえて生物学的な性に沿った表記とさせていただきました。
また、いじめ被害は、その後の人生にも影響を少なからず与えていることが分かりました。いじめや暴力被害を経験した回答者全体の3割が、被害の影響で自殺を考えたと回答しています。また「今でもその経験をときどき思い出す」44%、「今でもその経験を思い出すとつらくなる」33%という回答も目立ちます。これらの影響は、「性別違和のある生物学的男子」では、より高率に見られました。
(2) カミングアウトの実態
LGBT当事者の多くは、高校生までに自身の性のあり方について自覚しますが、男子5割、女子3割は誰にもそのことを打ち明けませんでした。「誰かに話した」という子どもたちでも大半は数人程度に打ち明けている程度で、10人以上に話せたのは回答者の2割にも満ちませんでした。
また、誰かに打ち明けた生徒の場合には、7割が同級生をカミングアウトの相手に選び、教師や親などの「周囲の大人」を選んだのは1〜2割程度でした。「ごく親しい親友数人にはものすごく頑張って話すことはできるかもしれないが、大人には言わない」という姿が浮かび上がります。このような傾向があると、大人からは当事者の子どもたちの姿が見えにくく、「LGBTの子どもは身近にはいない」という大人たちの誤解が強化されやすくなります。誰が当事者なのかを大人たちが把握できない中で、子どもたち同士の間で、カミングアウトやいじめ加害・被害が起きている現状が想定されます。
(3) 蔓延している「ホモネタ」
子どもたちを取り巻く環境に、いわゆる「ホモネタ」(LGBTをネタとした冗談やからかい)が蔓延していることも明らかになりました。学校の友人や同級生がLGBTについての不快な冗談を言ったり、からかったりしたことがあったかどうか尋ねたところ、回答者全体の84%は何らかの形でこれらを見聞きした経験がありました。
このような場面でどのように対応したかを尋ねたところ、「やめてほしい」と言えたのはごく一部にすぎず、「何もしなかった」が7割強。「自分がいじめられないように一緒になって笑った」も、非異性愛男子では約4割にのぼりました。これは、自分がLGBTでないことを証明するための「踏み絵」のようなつらい体験だと推測されます。
学校をLGBTの子どもにとって安全な場所にするために
調査からは、LGBTの子どもたちのいじめ被害の実態や、カミングアウトをめぐる困難、蔓延している「ホモネタ」について明らかにされました。子どもたちの孤立を防止し、どのような子どもであっても安心して学校に通えるような環境を整えるために、各教育現場での取り組みが必要です。以下は、その取り組みの一例です。LGBTの子どもが安心できるような学校環境を整えるために、みなさんの身近なところから「第一歩」を踏み出していただけると幸いです。
―性の多様性に関する肯定的なメッセージを伝えてください
保健や家庭科に限らず、国語や英語、社会科の授業などでもLGBTに関連する題材は扱えます。 「いろんな人がいていい」という肯定的なメッセージを常に添えて、いざとなったら相談できる大人がいるサインを出しましょう。
―保健室、図書館などにポスターやチラシを置いてください
保健室や図書館などにLGBTに関するポスターやチラシを置きましょう。周囲に対して正確な知識を共有し、真面目な話題として取り上げやすくなります。また、面と向かってカミングアウトができない子どもたちにも「ここは安全な場所だ」というメッセージを伝えることができます。
FRUITS IN SUITS様からいただいたご寄付をもとに『LGBT学校生活実態調査2013』のリーフレットを作りました!
「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」では、このたびFRUITS IN SUITS様からいただいたご寄付をもとに、『LGBTの学校生活調査2013』の結果をまとめたリーフレットを作成しました。FRUITS IN SUITSのローレン・ファイクス様にはこの場をお借りして、感謝申し上げます。
こちらからダウンロードできます
FRUITS IN SUITSは、オーストラリアで始まって16年を迎えます。現在、各地でイベントやセミナーが開催され、LGBTのビジネスプロフェッショナルが集まってLGBT系ビジネスやサービスをプロモートしたり、紹介するための組織として活動しています。
FRUITS IN SUITSの東京支部を復活し、LGBT系ビジネスのプロモーション、LGBTの権利に関連する活動を行う政治家の紹介、LGBTの課題を取り巻く状況について情報共有などが出来る空間を提供しています。この取り組みを通じて、日本に滞在するLGBT非日本人とLGBT日本人の間のギャップを埋める働きを継続できればと思います。
ローレン・ファイクス氏について
ローレン・ファイクス氏は東京在住の起業家。コンサルタント、研究者。自ら創業したEndymion社の最高経営責任者(CEO)を務める同氏は、2012年6月、フェースブックの友達がお気に入りのレストランをたどり、コレクションに整理して共有できるようにとソーシャル・レコメンド・サービスのQuchyを立ち上げた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
LGBTの子ども、若者に対するいじめ対策、自殺対策(=生きる支援)などについて取り組みをしている。LGBT当事者が抱えている政策的課題を可視化し、政治家や行政に対して適切な提言を行い問題の解決を目指すことを目標としている。