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巨大組体操つづける学校 自治体禁止でも実施、最高段数を記録、頂点から垂れ幕…

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
(写真:アフロ)

■学校の対応わかれる

春の運動会シーズンが終わった。組体操事故への関心が高まるなか、各学校の対応は大きくわかれた。

巨大組体操はどうなったのか。「組体操のいま」を報告する。

昨年まで巨大組体操に取り組んできた学校は、今年度次の3通りのいずれかの対応をとっている。

1) 別の種目(ダンスなど)に変更する

2) 低い段数に変更する

3) ほぼ従来どおりに実施する。

1) と2) については、とくに自治体による規制の影響が大きい。運動会に先立って、名古屋市、愛知県、神戸市、岡山市などは段数を制限した。また、東京都や大阪市、福岡市はピラミッドとタワーの禁止[注1]、千葉県内の複数の自治体(柏市・松戸市など)は組体操そのものを廃止した。

■それでも巨大組体操をつづける学校

今春に中学校で披露された9段のピラミッド
今春に中学校で披露された9段のピラミッド

規制を設けた自治体では基本的に、昨年度までどれだけ巨大なものを組んでいても、今年度において各学校は、自治体の指示に従い、段数を制限したり、組体操を取り止めにしたりしている。

一方で規制を設けなかった自治体では、自主的に1) や2) の対応をとった学校もあれば、3) のような従来どおり巨大組体操にこだわりつづけた学校もある。

Twitterの検索ならびに複数の教育委員会への問い合わせにより、私が把握したところでは、「9段」のピラミッドを実施した中学校が1校あり、「8段」ピラミッドの中学校や高校が複数ある。さらには小学校でも「7段」ピラミッドが披露されている

ピラミッドよりも危険性が高いと考えられるタワー(「ピラミッドよりタワーが危険」)も、依然として「4段」や「5段」という危険な組み方が実施されている。

■巨大組体操の頂点から垂れ幕

「7段」ピラミッドの頂点から長い垂れ幕が下ろされている
「7段」ピラミッドの頂点から長い垂れ幕が下ろされている

「9段」ピラミッドの中学校では、たんに巨大であるだけではなく、頂点の生徒は、頂点から垂れ幕を下ろすという作業もこなした。じつは、昨年度「10段」ピラミッドが崩壊して6名の負傷者を出した中学校でも、頂点の生徒は垂れ幕を腰に付けてのぼっていた。

Twitter等の画像を調べていると、高さが高いことを利用して、頂点から垂れ幕を下ろして、より華やかさを演出しようという試みが目に留まる。ただでさえ高層化していてリスクが高いところに、さらに頂点の生徒が新たなパフォーマンスをおこない、組体操に華を添えようというのだ。

■最高段数に到達か 最大負荷は200kg超

俵型4段。すでに2.1人分の最大負荷。指導者は荒木達雄教授(日体大)。
俵型4段。すでに2.1人分の最大負荷。指導者は荒木達雄教授(日体大)。
立体型10段を横からみた場合の断面図(内田良『教育という病』(光文社新書))
立体型10段を横からみた場合の断面図(内田良『教育という病』(光文社新書))

この春の運動会で、私が驚いたのは、俵型のピラミッドで「7段」を記録した学校があったということだ。

俵型というのは旧来の組み方で、単純に組み手が四つんばいになって上に積み重なっていく方法である。この十年ほどで学校現場に拡がった立体型の組み方と比べると、奥行きがないため、不安定である。そして俵型「5段」の最大負荷(最下段中央で3.1人分)は立体型の「9段」に相当し、負荷量はかなり大きい(「ピラミッドとタワーはどこに向かうべき?」)。

俵型ピラミッドは立体型に比べて高層化が難しい。私がこれまで調べてきた限り、俵型で「6段」の実例は確認していたが、「7段」ははじめて知った。学校における俵型ピラミッドでは、最高到達点であると考えられる。

俵型の「7段」では、一人にかかる最大負荷は、3.81人分、おおよそ立体型ピラミッドの「10段」に相当する。中学3年生男子の場合、平均体重は54.0kg(文部科学省調査)であるから、最大負荷は205.7kgにまで達する[注2]。動画を見てみると、ピラミッドが崩れないよう、両横から複数の教員が生徒の身体を押し込めている様子が映っている。

■原則禁止、でも実施

タワーは「2段」だけでもかなり高い。
タワーは「2段」だけでもかなり高い。

さらにもう一つ驚いたのは、教育委員会の取り決めにより、タワーが禁止されていたにもかかわらず、高層のタワーを実施した学校があったことだ

組体操を規制した自治体では、原則として学校は規制に応じているはずだった。だが、とある自治体の高校では、高層タワーが例外的に認められ、運動会で披露された。

土台に四つんばいを入れる組み方ではなく、肩の上に乗っていく組み方のため、タワーは上方に鋭く伸びていく。頂点の高さは約5mに達したと考えられる。

■議論を重ねた末の実施

安全意識が高まりつつあるものの、それでも今年の春もまた、各地で巨大組体操が披露された。

ここで留意すべきは、それらの事例は学校の暴走によって実行に移されたわけではないということである。巨大組体操を実施した複数の自治体の教育委員会に、電話にて問い合わせしたところ、教育委員会はおおむね巨大組体操の実施状況を把握していた。

学校は、校内での意見交換はもちろんのこと、校長会や教育委員会においても丁寧に議論を重ねたうえで、ときに新たな安全対策(マットを敷く、補助教員を増やすなど)も取り入れたりしながら、巨大組体操を継続した。多くの場合において、学校の暴走でもなく、行政の怠慢でもなく、学校と行政が熟議をした末の選択であった。

■やはり巨大組体操は、やめるべき

巨大ではない組体操を模索すべき(日本体育大学体操研究室『体操教本』より)
巨大ではない組体操を模索すべき(日本体育大学体操研究室『体操教本』より)

安易に巨大組体操が実施されたのではない。熟議が重ねられ、安全対策も詳細に検討された上での実施である。学校や教育界が主体的に組体操のあり方に取り組んだ点は、高く評価されるべきであろう。

しかし私は正直な気持ちを吐露するならば、この熟議の結果であるということに、逆に大きな不安を感じてしまう。真剣に議論をしてもなお、なぜこれほどまでに巨大なリスクが、正当化されてしまうのか。議論を重ねるほど、巨大組体操の問題性はより明確になるはずだと私は思うのだが、実際には議論の過程で巨大組体操は肯定的に受容されていくことがあるようだ。

「生徒がやりたがっている」「保護者からの期待も大きい」「わが校の伝統」「教育的意義が大きい」・・・ それらのポジティブな側面は理解できる。だが、そもそも巨大組体操は、負荷量や高さの面で、安全指導の範疇を超えてしまっている。

安全指導というならば、まずは巨大組体操をあきらめて、低い段数のなかでどのように安全指導ができるかを考えるべきである(「緊急特集 『安全な組体操』を求めて:【映像資料】組体操の専門家 荒木教授から学ぶ」)。実際に、倒立やサボテンでも不用意なケガが多く起きている。低い初歩的な技を安全で楽しく実施することが重要であり、そこに力を注ぐことが、学校や行政の役目ではないだろうか。

注1:東京都は、ひとまず2016年度のみの対応であり、2017年度以降については未定である。

注2:やや特殊な組み方をしているため、通常の俵型の7段よりは最大負荷が小さくなる。その特殊な組み方とは、最下段は四つんばいの状態になり、下から2段目の生徒は、最下段の生徒の背中に手を乗せて、足は地面につける。つまり、下から2段目までは立体型の組み方を利用する。それより上は、通常の俵型の組み方になる。つまり、下から3段目の生徒は、下から2段目の生徒の上に、四つんばいで乗る。以降、頂点まで四つんばいで積み重なっていく。なお、最大負荷量の計算にあたっては、下から2段目の生徒にかかる負荷は、腕(最下段の生徒の背中にかかる):足(地面に着く)=3:7で下に分散するという仮定をとっている。各学年の平均体重は、文部科学省「平成25年度学校保健統計調査」を参考にした。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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