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春は「記憶障害」、今度は「親子」「家族」のキーワードが重なった夏ドラマ

碓井広義メディア文化評論家
『西園寺さんは家事をしない』松本若菜さんと松村北斗さん(番組サイトより)

複数のドラマで、物語の軸となる「設定」が重なってしまうことがあります。たとえば、今年の春ドラマでは「記憶障害」がそうでした。

『約束~16年目の真実~』(日本テレビ系)、『くるり~誰が私と恋をした?~』(TBS系)、『9ボーダー』(同)、そして『アンメット ある脳外科医の日記』(フジテレビ系)などです。

1年間に膨大な数のドラマが作られている現在、こういうことが起きてもおかしくありません。

また設定までいかなくても、ドラマの「キーワード」といったものが同時多発することもあります。

この夏は、「親子」もしくは「家族」が、それに当たりそうです。

突然、「親子」になること

目黒蓮主演『海のはじまり』(月曜よる9時、フジテレビ系)は、1人の青年が、その存在さえ知らなかった子どもの「父親」になっていこうとする物語です。

月岡夏(目黒)は大学時代、交際していた南雲水季(古川琴音)から一方的に別れを告げられました。

7年が過ぎたある日、突然、夏の元に水季の訃報が届きます。葬儀場で水季の娘・海(泉谷星奈)と出会い、自分が父親であることを知ったのです。

海と接触する機会が増える中で、「親子」として一緒に暮らしたい気持ちが膨らんでくる夏。

しかし、自分にそれが許されるのか。現在の恋人である百瀬弥生(有村架純)を巻き込むことにもためらいがあります。

脚本の生方美久さんは、その構成力と繊細なセリフで彼らの揺れる心情を丁寧に描いていきます。

思えば、妊娠も出産も経ていない男は、いつから父親になるのでしょう。

また、親子という関係は、単純な血のつながりだけではないはずです。

夏と海、そこに弥生も加わった時、どのような「家族」が成立するのか。このドラマが描く、親子や家族の在り方から目が離せません。

「偽(にせ)家族」という試み

もう1本は、松本若菜主演『西園寺さんは家事をしない』(火曜よる10時、TBS系)です。

アプリ制作会社で働く西園寺一妃(松本)は38歳の独身。仕事は好きだが、家事は大嫌い。最近、家賃収入が見込める賃貸付き物件の中古住宅を購入しました。

ところが、その賃貸の部屋に同じ会社のエンジニア・楠見俊直(松村北斗)と4歳の娘・ルカ(倉田瑛茉)が住むことになります。

幼い娘を抱えて仕事と家事の両立に追われる楠見を助けることで、一妃の気ままな一人暮らしは一転。大家と店子(たなこ)の関係を超えた、一つ屋根の下の生活が始まりました。

しかも、この「偽家族」という試みが快適なだけでなく、楠見への恋心さえ芽生えてきたようで……。

今も亡き母への気持ちが強いルカも巻き込みながら、偽物から本物の「家族」へと変化していくのか。そんな3人にとっての「幸福」とは何なのか。こちらも今後に注目です。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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