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暴言は言葉のナイフ:豊田真由子さん「このハゲ~!」騒動と誹謗中傷の心理

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

<暴言を吐いた人に第三者が暴言をぶつけるのは許される? 人格無視した人に第三者が人格攻撃をしても良い? 悪い人には誹謗中傷も認められる? 悪者と思われてしまえば・・・。次はだれがターゲットになるのだろう。>

■豊田真由子さん「このハゲ~!」騒動

豊田真由子さん。東大法学部卒、厚生省(厚労省)、国費留学でハーバード大学へ。まあ、どれほど優秀な人なのでしょう。さらに結婚し、ジュネーブで出産。そしてついに自民党から国政に出馬し、衆議院議員です。

絵にかいたようなエリートの出世コース。順風満帆の人生です。

しかし、その順調な人生が、一つの報道で一変します。

2017年、「週刊新潮」が、政策秘書の男性への暴言、暴行を報じます。同時に、その音声が公開されました。

「このハゲー!」「ちーがーうーだろーっ!」「鉄パイプでお前の頭を砕いてやろうか!」「うん、死ねば?生きてる価値ないだろ、もうお前とか」など、大声の暴言です。

豊田さんは、この暴言に至る経緯を説明しましたが、世間は納得せず、結局自民党を離党し、次の選挙では落選しました。

■騒動から3年・豊田真由子「意識のあるときは、死ぬことばかり考えていた」(婦人公論)

豊田さんは、この3月久しぶりにテレビに登場しました。その時の思い、この3年間の出来事を、婦人公論が伝えています。

〈独占告白〉「このハゲ~!」騒動から3年・豊田真由子「意識のあるときは、死ぬことばかり考えていた」6/1:婦人公論Y!

この記事によれば。当時のことは「パニック状態で記憶が定かではない」と言います。

記事内では、この3年の彼女の思いがつづられます。

「私は決してしてはならない言動をしてしまいました。申し訳なく、いたたまれない思いは、今もずっと続いています。」

「人目を避け、隠れるように暮らしてきました。」「大切な人の葬儀に出ることもできず」

「子どもの頃から自己肯定感が低く」

「最初の報道で私はショックを受け、精神科に入院。体重は12キロ減って、意識のあるときは、ずっと死ぬことばかり考えていました。」

「もう顔を上げて歩けない」

「今でもインターホンが鳴ると、連日メディアにマンションを取り囲まれた恐怖がフラッシュバックし、家族一同、一瞬ビクッと固まってしまう」

その中でも、支援してくださる方がいて、そのおかげで、何とか生きてこられた。これからも誰かのために役に立つことがしたいと語っています。

■豊田真由子さんはどれほど悪いことをしたか

本人が猛省しているように、許されない言動です。書類送検もされました(後に不起訴)。ただ問題は、どの程度悪いことをしたかです。

被害者がいることです。安易に弁護できません。しかし、もし音声データがなかったら、この話題はここまで盛り上がらなかったでしょう。

音声データは、マスコミの格好のネタとなりました。毎日毎日、テレビでも流され続けました。

普段は乱暴ではない上品な人が、なぜ時折暴言が出てしまうのか。心理学的には興味深いことです。このようなことは、豊田さんに限りません。

ただ、心理学的に興味深いとはいえ、子供のころから自己肯定感が低かったとか、秘書がミスを続けたなど、やはり言い訳に過ぎないでしょう。

しかし、騒動は殺人でもなく収賄罪でもありません。それなのに、日本中からバッシングを受けました。世間も、マスメディアも、ネットでも、激しく叩かれました。

国会議員の言動として非難されるのは当然です。しかし、当時のバッシングは過剰ではなかったでしょうか。

マスコミが報道し、批判するのは当然です。しかし一部マスコミは、必要以上に揶揄し、馬鹿にし、からかい、侮辱していたように感じます。

私達も、政治ニュースへの怒りとしてだけでなく、ジョークのネタに使っていたでしょう。この公人の不祥事の話題を、個人的な会話で怒りやお笑いネタにするのは、問題はないでしょう。

しかし誹謗中傷は、許されないはずの公の場であるネット上、SNS上でも行われました。さらに恐ろしことに、その誹謗中傷を問題視する雰囲気はほとんどありませんでした。

■暴言、誹謗中傷の心理

だれでも、腹が立つことはあります。その感情のまま言動に移せば、暴言暴行、誹謗中傷になってしまいます。しかし、普段の私たちは理性で抑えています。

それでも、心が深く傷ついた時や、ストレスがたまって精神的に追い詰められた時には、理性の働きが弱くなります。

相手に怒りをぶつけ、暴言暴力が出ることもあれば、子供を虐待してしまうこともあります。

みんなが誰かを叩いて大騒ぎになっているときは、さらに感情が高まります。反撃してこない相手にはなおさらです。こうして、みんなが石を投げるような暴動が起きたり、誹謗中傷の嵐になったりするのです。

強い人、悪い人に対しては、誹謗中傷しての良いと言う人もいます。けれども、先日お亡くなりになった女子プロレスラーの木村花さんのことを、誹謗中傷していた人々は強くて悪い人と思っていたことでしょう。

■暴言、誹謗中傷は、言葉のナイフ

音声データに残された彼女の発言は、ひどいものです。強くて悪い政治家が、弱い秘書をなじっているとされても、無理はありません。

だからこそ、その豊田さんへのひどい暴言を、社会は許してしまいました。

彼女の暴言、人格無視の発言はひどいと責めたてながら、その発言をした豊田さんへの暴言、個人攻撃が続きました。それは、自業自得の仕方がないことでしょうか。

しかし私たちの社会は、本来そんなことを認めてはいません。現代社会では、犯罪者が市中引き回しの刑にされ、みんなで石をぶつけるようなことは、認めらられないはずです。

実際に石はぶつけなくても、言葉の石をぶつけた人はいるでしょう。繰り返しますが、暴言を吐いた彼女を批判、非難することを否定していません。

でも、ネットのような公の場での誹謗中傷は許されません。SNS上の個人による誹謗中傷をあおるような報道があたとすれば、それも大きな問題です。

騒動から3年がたち、ようやく私たちは騒動を冷静に振り返ることができるようになりました。誰に対しても、どんなことをした人に対しても、相手の人格攻撃、個人攻撃になるような誹謗中傷は許されません。

言葉は、ナイフとなって人の心に突き刺さります。豊田真由子さんも、私たちも、自分の発言を制御する難題に挑んでいかなくてはなりません。

「舌を制御することは、だれにもできません。それは少しもじっとしていない悪であり、死の毒に満ちています。~ 賛美とのろいが同じ口から出て来るのです。私の兄弟たち。このようなことは、あってはなりません」(聖書ヤコブの手紙3章)。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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