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安倍首相に香港を守る覚悟はあるか「香港の一国二制度を引き裂いた方法を見ると台湾にも希望はない」

木村正人在英国際ジャーナリスト
抗議デモが再開された香港(1日)(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]香港区議会選のため一時「休戦」が呼びかけられた香港で1日、市民38万人(主催者発表)がデモ行進し、警官隊と再び衝突しました。香港の人権や自治、民主主義を支援するため米国で成立した「香港人権・民主主義法」を歓迎する声も上がったそうです。

英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションの世界大学ランキング2020年版で171位にランクされる香港理工大では11月、学生が籠城し、1200人以上が逮捕される事態に発展。先の香港区議会選では民主派が8割超の議席を獲得し、親中派は惨敗を喫しました。

香港の民主派が激しい抗議活動を繰り広げている最大の対立点は英中共同宣言によって今は保障されている「一国二制度」と民主化です。しかし一国一制度に移行する日はそれほど遠くありません。返還から50年が経つ2047年に香港は中国に完全統合される運命にあるからです。

中国の権威主義への砦となる「一国二制度」を守ることはできるのでしょうか。香港の人権問題に取り組む英団体「香港ウォッチ」のベネディクト・ロジャーズ氏に尋ねました。

ベネディクト・ロジャーズ氏(筆者撮影)
ベネディクト・ロジャーズ氏(筆者撮影)

――ドナルド・トランプ米大統領が11月27日、「香港人権・民主主義法案」に署名し、成立しました。英国もこれにならうべきでしょうか

「香港人権・民主主義法の成立を強く歓迎します。トランプ大統領が法案に署名したことをうれしく思います。この法律は、民主主義と人権を支持する強力なメッセージを送る一方で、深刻な人権侵害に関与または片棒を担いだ個人に制裁を科す実際的な手段になります」

「そして変化への圧力を高め、民主派の活動家を守り、支援するための重要な法律です。同様の措置を早急にとるよう英国政府に求めます」

――在香港の英国総領事館元職員サイモン・チェン氏が今年8月、中国本土を訪れた際に拘束され、秘密警察から拷問を受けたと証言しました

「報道されているチェン氏の証言によると、彼は拘束されている間、ひどい拷問を受けました。拷問はあらゆる人に対して許されることではありません。“外交官”ではなく現地職員(当時は現職)であったとしても外交上の保護は与えられるべきでした」

「英国総領事館の職員に拷問が行われるとは特に恐ろしいことです。ドミニク・ラーブ英外相が劉暁明・駐英中国大使を召喚して抗議したのは絶対に正しい」

「ロシアの国ぐるみの不正を告発中に拘束され、獄死したロシア人弁護士セルゲイ・マグニツキー氏の事件で米国では関係者のビザ(査証)発給禁止や資産凍結を行うマグニツキー法が導入されました。同じスタイルの制裁を導入することを英国政府に求めます」

――英国政府はもっと中国に対して抗議すべきでしょうか。英国の海外旅券を持つ香港在住の民主派が逃げる必要が出てきた場合、受け入れるべきでしょうか

「英国は国際社会をリードしなければなりません。中英共同宣言の署名者として、香港には道徳的および法的責任を負っています。中国と香港政府に対する国際的な圧力を調整するため、有志国の国際的な連絡網の構築を主導すべきです」

「英国政府は、米国、カナダ、オーストラリア、欧州連合(EU)とその加盟国だけでなく、アジアの日本、韓国、その他の民主主義国家を結集して香港を支援することができます」

「英国政府は、海外旅券のステータスを持つ香港市民の取り決めを見直し、彼らが英国に来ることを許可して保護を強化する必要があります。さらに英国は有志国、特に英連邦加盟国と協力して、香港から逃げ出す必要のある人々に聖域を提供する戦略を調整すべきです」

――香港や台湾の「一国二制度」は守れるのでしょうか

「一国二制度はもしすでに死んでいなければ、死の床にあります。それは悲劇です。返還後10〜15年間はうまく機能しましたが、この5年間で確実に浸食され、損なわれてきました」

「香港政府と中国が至急に対策を講じて後退するなら、つまり、香港の自由と自治の保護を強化し、民主的な政治改革を導入し、民主派と有意義な対話を開始するなら、一国二制度を守るのに遅すぎるということはないのかもしれません」

「しかし現実には事態は深刻です。最終的な状態にあります。中国が香港の一国二制度を引き裂いた方法を考えると、台湾にも希望はありません」

――香港理工大の籠城のようになぜ将来有望な学生が非常に強く抵抗しているのでしょう

「最初は、司法の独立と法の支配が確立していると世界中から評価されている香港から、真逆の中国本土への容疑者の身柄引き渡しを可能にする逃亡犯条例改正案への抗議でした」

「中国本土では司法の独立や法の支配といったものはなく、法による支配、広範で体系的な拷問、恣意的な逮捕による失踪、処刑がまかり通っています。最近開かれた民衆法廷では中国による“良心の囚人”からの強制臓器収奪が明らかになりました」

「香港政府トップの林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が早い段階で人々の声に耳を傾け、この法案を撤回していたら、香港は今日のような事態にはなっていなかったでしょう」

「その代わり彼女は数カ月間、抗議の声を聞くことを拒否し、平和的な抗議者に対して至近距離から催涙ガスと唐辛子スプレーを噴き付け、ゴム弾を使用、警棒で暴行を加え、他の投射物をお見舞いしました。最近では実弾も発射されています」

「警察が暴力を使い始め、政府が抗議者の話を聞かなかったため、少数の抗議者が結果的に絶望して暴徒化しました。同時に運動は逃亡犯条例改正案への反対から民主化運動に変わりました」

「抗議者の要求は次の通りです。逃亡犯条例改正案の撤回、警察の残虐行為に対する独立調査、逮捕された抗議者の釈放、恩赦。平和的な抗議活動に対して“暴動”という言葉を使うのを止めて、すべての議会と行政長官の選挙に民主的な改革と普通選挙を実施するよう求めています」

――香港の現状はどうですか

「まだ緊張していますが、1週間前より少し落ち着いています。11月24日の香港区議会選には1997年の中国返還以来、最大の有権者が投票し、民主派が圧勝しました。香港市民は、1票は弾丸よりも強力であることを示しました」

「もし機会が与えられれば、暴力より投票によって意見を表明することを好んでいることを示したのです。林鄭行政長官はこの機会に選ばれた代表者と対話し、抗議者の要求に応えて、現在の危機を終わらせる方法を見つけなければなりません」

――英国の大学に広がる中国共産党の宣伝機関、孔子学院をどう思いますか。何らかの規制が必要だと思いますか

「孔子学院については保守党の人権委員会が昨年、調査を行い、報告書を公開しています。表現の自由と学問の自由を管理し、または影響を与え、制限するためのプロパガンダであり、そして潜在的にはスパイ活動のための隠れ蓑だと思います」

「保守党の報告書に記載されているように、孔子学院を規制する措置を講じる必要があるでしょう」

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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