結婚すると海外に行きにくい。恋人と別れてしばらく一人でいるつもりです(「スナック大宮」問答集37)
「スナック大宮」と称する読者交流飲み会を東京、愛知、京都のいずれかで毎月開催している。2011年の初秋から始めて、すでに110回を超えた。お客さん(読者)の主要層は30代40代の独身男女。毎回20人前後を迎えて一緒に楽しく飲んでいる。本連載「中年の星屑たち」を読んでくれている人も多く、賛否の意見を直接聞けておしゃべりできるのが嬉しい。
初対面の緊張がほぐれて酔いが回ると、仕事や人間関係について突っ込んだ話になることが多い。現代の日本社会を生きている社会人の肌からにじみ出たような生々しい質問もある。口下手な筆者は飲みの席で即答することはできない。この場でゆっくり考えて回答したい。
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「結婚すると海外に自由に行けなくなるでしょう。だから、恋人と別れてしばらく一人でいるつもりです」(30代前半の独身女性)
結婚しているかいないかは問題ではない。孤独になることを避ければいい
昨年春のスナック大宮にてこんなつぶやきを聞かせてくれた彼女。その後、本当に恋人と別れて旅立ち、現在は単身アメリカで住んでいるようだ。久しぶりに連絡を取ったところ、「誰と出会っても『結婚したい』という願望は湧かないのでは?という不安に駆られている」という心境を聞かせてくれた。一人でいることがとことん好きだけど、内省をする習慣のある知的な女性なのだろう。
筆者は今年で43歳になる。この年齢になると、死別を含めたシングルアゲインの人たちが周囲に増えてくる。子どもが成人したことを機会にして婚活に励んでいる人もいれば、「結婚はもうこりごり」と公言して独身生活を楽しんでいる人もいる。後者も少なくないので、結婚は寂しがりで共同生活をしたい人(筆者もその一人)だけがすればいいのかもしれない。
問題は結婚しているかいないかではなく、孤独か否かである。愛情も信頼関係も失われた家族と一緒にいるよりは、一人暮らしでも心を許せる友だちが近所にいるほうがはるかに人間らしい生活を送れる。
近年、八つ当たりのような通り魔的な重大事件をニュースでよく目にする。日常生活でも、駅員に大声で暴言を吐いている人を見かけることがある。民営鉄道協会の調査によれば、平成30年度に発生した計630件の暴力行為のうち、6割以上が40代以降の中高年が加害者だという。20代以下の「若者」は15%に満たない。なぜなのか。中高年になると、孤独と絶望がセットになって自暴自棄になり、特に男性は攻撃的になってしまいやすいのだと思う。
同じ中高年として恥ずかしいと思いつつ、自分も孤独になったら何をするかわからないという恐れも感じる。配偶者という太い柱を1本持つのもいいけれど、友だちという細い柱を複数持っておくことも重要だと思う。友だちの定義はいろいろあるが、「月に1回ぐらいなら一緒に食事をしてもお互いに楽しく過ごせる」程度の距離感を保てる人間関係だと筆者は思う。
一緒においしいものを食べながら、気兼ねをし過ぎずに心の内を語って聞いてもらえたら、なんだか救われたような気持ちになるものだ。社会や他人に対して攻撃的になるリスクは減る。そして、自分の残されたかけがえのない人生を慈しみたいと思うだろう。
冒頭の女性にはアメリカ生活を満喫してほしい。現地で新しい友だちもきっとできるはずだ。帰国しても、スナック大宮はいつでもあなたのために扉を開いている。いつものお店でおいしいものを一緒に食べながら、あれこれと語り合う日を楽しみに待っています。