【なぜ青きウルトラマン達は支持され続けるのか?】悩み多き群青ウルトラマン達の光と影とは?
みなさま、こんにちは!
文学博士の二重作昌満です。
特撮を活用した観光「特撮ツーリズム」の博士論文を執筆し、大学より「博士号(文学)」を授与された後、国内の学術学会や国際会議にて日々活動をさせて頂いております。
さて、今回のテーマは「青」です。
突然ですが、皆さまは「青」と聞くと、どのような印象をお持ちでしょうか?
青とは色の三原色のひとつ。青空や海といった地球の自然を象徴し、私達の住む地球も全体の7割が青い海によって構成されています。
他にも、交通ルールにおいて「進む」を意味する青信号や、未熟者を表わす「青二才」など、ひとくちに「青」といっても、言葉の用途は様々ですが・・・。
その中でも「青=知性」を連想する方も多いのではないでしょうか?
火を彷彿とさせる情熱の赤に対し、水を彷彿とさせる知性の青といったように、赤と青は対比的に見られることも多いようです。
まるで相反するかのような赤と青ですが、私達が子どもの頃から慣れ親しんできた特撮ヒーロー番組では、この二色をモチーフにしたキャラクター達が反目し合い、幾度に渡る対立を通じて固い友情を結ぶという展開が多く描かれました。
その代表例が、我が国を代表する特撮ヒーロー番組である『ウルトラマン(1966)』シリーズ。55年以上の歴史を有する当シリーズですが、とりわけ平成の世に送り出されたウルトラマンシリーズでは、二度に渡って強烈な個性を放つ青いウルトラマンが登場し、赤いウルトラマンとの対立を通じて、固い絆を結ぶ展開が描かれました。
そこで本記事では、ウルトラマンシリーズに登場した2人の青いウルトラマンに焦点を当て、高度な知能を持っているが故に悩めるヒーローであった彼らが、いかに赤いウルトラマン達と固い絆を結んだかを概観してみたいと思います。
※本記事は「私、ウルトラマンシリーズにくわしくないわ」という方にもご覧頂けますよう、可能な限り概要的にお話をしておりますので、ゆっくり肩の力を抜いて、気軽にお楽しみ頂けますと幸いです。
【人間なんて、みんな地球から吐き出してやる!】地球が生んだ青い海の巨人、ウルトラマンアグルの誕生とその葛藤とは?
まずここからは、『ウルトラマンガイア(1998)』に登場した青いウルトラマン、ウルトラマンアグルについて概説して参りたいと思います。
・・・とその前に、少しだけウルトラマンシリーズについてご説明をさせて頂きたく存じます。ウルトラマンシリーズは、株式会社円谷プロダクション制作の特撮ヒーロー番組『ウルトラマン(1966)』(及び特撮怪獣番組『ウルトラQ(1966)』)を起点とする特撮シリーズです。
1966年に『ウルトラマン』が放送され、M78星雲「光の国」からやって来た身長40mの銀色の宇宙人が巨大な怪獣と戦い、最後は必殺光線(スペシウム光線)で怪獣を退治するという物語はたちまち子ども達の心を掴み、最高視聴率42.8%、平均視聴率36.8%を記録する大人気番組となりました。
大衆的な人気を博した『ウルトラマン(1966)』の放映終了後も、その次回作である『ウルトラセブン(1967)』、『帰ってきたウルトラマン(1971)』、『ウルトラマンエース(1972)』、『ウルトラマンタロウ(1973)』、『ウルトラマンレオ(1974)』、『ウルトラマン80(1980)』とシリーズが続いていきました。
さてさて、上述してきた『ウルトラマン(1966)』シリーズに登場したウルトラマン達の多くは、M78星雲「光の国」をはじめとする宇宙からやって来た存在でした。
・・・ところが、当シリーズに現在まで登場してきた約50体のウルトラマンの中で、宇宙から来たのではなく、地球が生み出したウルトラマン達がいたことをご存知でしょうか?
そのウルトラマン達こそ、1998年にテレビ放送された『ウルトラマンガイア』に登場した、ウルトラマンガイアとウルトラマンアグルでした。
両ウルトラマンは、従来のウルトラマンとは異なり宇宙出身ではなく、宇宙からやって来る未知なる存在(根源的破滅将来体)が送り込む怪獣達から地球を守るため、地球そのものが生み出した存在だったのです。
ウルトラマンガイアは「大地の赤き光の巨人」、ウルトラマンアグルは「海の青き光の巨人」であり、陸と海を象徴する両者は、本来ならば協力して戦う存在であるのですが、本作において地球を守ることへの考え方の違いから何度も衝突しており、状況によっては決闘にまで発展してしまったこともありました。
「どうしてそんなに仲が悪いの?」といいますと、根本的な対立要因として「地球を守るのに人類は必要か否か?」という両者の主張の食い違いでした。
つまり、「地球は人類を含めて守るべきだ」と信じるガイアに対し、
「環境を破壊する人類は地球にとって癌細胞だ」と排除を主張したのがアグルだったのです。
ウルトラマンアグルに変身する藤宮博也がこのような考えに至った背景には、「地球を守るための排除対象は人類」という自らが制作したコンピューターの回答を信じてしまったことが根底にあるのですが、彼自身も恩師の死や、柄の悪い連中に袋たたきにされたりと、彼自身の内面での葛藤や、人間達の醜い部分を体感したこともありました。
「人間は汚い・・・人間は醜い・・・人間なんて、人間なんて、みんな地球から吐き出してやるっ!」(藤宮博也:ウルトラマンアグル)
しかしそんなアグルも、彼の身を案じる女性(吉井玲子)の存在や、もう一人のウルトラマンであるガイアとの交流を通じて、次第に考えを改めていきます。
その結果、藤宮はウルトラマンの力をガイアに託して、一度はアグルへの変身能力を失うも、ガイアの窮地に変身能力を取り戻し、ガイアと共闘しながら怪獣達との戦いに身を投じることになります。
「アグル!俺はもう一度、戦いたい!!」(藤宮博也)
私もこの『ウルトラマンガイア』という作品をリアルタイムで視聴していた、いわば「リアタイ世代」なのですが、これまでのウルトラマンが地球を守る存在であったのに対し、人類は滅ぼすべきだと主張したウルトラマンの登場は衝撃的でした。このウルトラマンアグルはガイアと並ぶ人気キャラクターとして現在まで定着し、現在までたくさんの商品が発売されてきたほか、放送終了から約25年経過した近年は、彼の新たな姿(スプリームヴァージョン)もお披露目されました。さらに今年には、彼の唯一無二の相棒であるウルトラマンガイアと合体した姿であるウルトラマンガイア(スーパースプリームヴァージョン)も登場する等、ウルトラマンアグルとガイア、両者の進化は放送終了から25年経過した現在も、留まることを知りません。
【人間を入れ物呼ばわり?】復讐の鬼となった光の国の科学者・ウルトラマンヒカリの闇堕ちから再生までとは?
さて、ここまで上述してきたウルトラマンアグルですが、当初は高度な知能を持っているが故にやや拗れた性格ではあったものの、最終的には考えを改め、ウルトラマンガイアとは唯一無二の友人関係に至ります。
しかしガイアとアグルのような赤と青のウルトラマン同士の対立と和解は、『ウルトラマンガイア(1998)』だけに留まりませんでした。本作終了から約8年後に放送された『ウルトラマンメビウス(2006)』でも、赤と青のウルトラマン達の対立と和解が描かれていたのです。
その作品とは『ウルトラマンメビウス(2006)』。本作はウルトラマンシリーズ誕生40周年記念作品として、歴代のウルトラマン達が守り続けてきた地球を舞台に、ウルトラの父から地球防衛の命を受けたルーキーウルトラマン、メビウスが地球人の若者達と熱い友情を結びながら地球を守る物語です。
そんな『ウルトラマンメビウス(2006)』において登場した青いウルトラマンとは、ウルトラマンヒカリ。彼は歴代ウルトラマンと同じ、M78星雲光の国の優秀な科学者でした。そんな彼がなぜ、メビウスのいる地球へとやって来たのかといいますと・・・。
ウルトラマンヒカリはもともと、ウルトラマンやセブン達と同じM78星雲「光の国」出身の優秀な科学者でした。宇宙科学技術局にて長官を務める心優しい人物で、いくつもの勲章を得ていましたが・・・ある日のこと、自分の研究が「光の国」と別の星(触覚宇宙人バット星人)との間で戦争の火種になってしまったことを機に、心を痛めた彼は、長官という役職を辞退して宇宙の長旅に出ることにしました。
そんな旅の最中に降り立ったのが「惑星アーブ」と呼ばれる、生命溢れる美しい星。心優しきアーブの住民と触れ合ったヒカリは、この星で生きることを決意します。しかし、アーブの住民は「それはなりません」とヒカリの決意を拒否します。それは、宇宙の捕食者ともいえる怪獣ボガールが惑星アーブにやって来て、近い未来に自分達が滅ぼされることを予期していたからでした。
これを受けヒカリは自らが強くなるために、「とある人物」に会うために別の惑星へと向かいます。その人物に会えば大いなる力を与えられ、滅び行く運命にあるアーブを守ることが出来ると考えたからです。
やっとの思いでヒカリはその人物に会うことができ、ヒカリは大いなる力(ナイトブレス)を授けられます。そのナイトブレスを与えた人物こそ、ウルトラマン一族にとって伝説の長老であり、歴代ウルトラマンの窮地を幾度も救ってきた超人「ウルトラマンキング」でした。
キングから大いなる力を得たヒカリは「惑星アーブ」へと戻りますが、既に宇宙の捕食である怪獣ボガールがアーブへと降り立ち、住民達を食い殺していました。怒りに震えたヒカリはボガールに立ち向かいますが、怒りや憎しみに理性を失ったヒカリは上手く戦うことが出来ません。せっかくキングから授かったナイトブレスを使いこなすことが出来ず、ボガールを逃がした上、惑星アーブは滅亡してしまったのでした。
惨劇の後、荒野の中で絶望したウルトラマンヒカリは自分の無力さを嘆きます。そんな時、まるでヒカリに自らの苦しみを訴えるかのように、滅ぼされたアーブの住民達の怨念が迫ります。怨念はヒカリの体を包み込み、「復讐の鎧」と呼ばれる冷徹な姿「ハンターナイトツルギ」へとウルトラマンヒカリは変えられてしまいました。
復讐鬼となったツルギ(ヒカリ)は宇宙を放浪し、憎きボガールが地球にいることを突き止めます。地球ではウルトラマンメビウスと呼ばれるルーキーウルトラマンと、彼の活躍を補佐する防衛チーム「CREW GUYS」が悪い怪獣や宇宙人と戦っていました。
ツルギは歴代のウルトラマン達が地球人に一心同体となって(悪く言えば、なりすまして)、地球に滞在しているように、行方不明になった「CREW GUYS」のセリザワ前隊長に取り憑き(一心同体となり)、地球に滞在します。
地球に滞在したツルギはウルトラマンメビウスの前に現れますが、その性格は無慈悲。躊躇なく建造物を光線技で破壊した上、復讐のためには犠牲も厭わない冷酷な存在でした。故にウルトラマンメビウスとは衝突しますが、冷徹だったツルギの心境は少しずつ変化していくようになります。
それは、セリザワ前隊長を心から慕っていたCREW GUYS隊員のリュウでした。リュウは死んだと思っていたセリザワ前隊長が生きていたことに驚き、その再会を喜びますが、当然ながらツルギはリュウのことを知りません。ツルギは「誰だお前」とリュウを一蹴した上、リュウに対してセリザワを「入れ物」呼ばわりさえする始末。事態は悪化していくかと思いきや、メビウスやリュウ達との交流を通じて、次第にウルトラマンの心を取り戻していきます。
一方、復讐の対象であるボガールは、地球で怪獣達を捕食し続けてきたことでますます強大化し、パワーアップ形態である「ボガールモンス」へと姿を変えます。その上、捕食を繰り返したことでエネルギー満タンのボガールモンスはいわば「歩く火薬庫」。下手をすれば周囲を巻き込む大爆発を引き起こすような化け物を相手に、メビウスとツルギは命がけの戦いを強いられることになります。
志は違えど、同じウルトラマンであることを認識したメビウスとヒカリは共闘する決意を固め、「CREW GUYS」のサポートを受けながら、ついに復讐の対象であったボガールモンスを葬ります。しかし、決死の戦いで力を使い果たしたツルギは地面に倒れ伏せ、メビウスに手を握られながら息を引き取ります。
しかしそんなツルギの体は、突然現れた光に導かれ、大きな光の空間の中に吸い寄せられます。その光は温かで、まるで「母」のように包み込む優しいものでした。
ツルギを光の中に導いたのは、ウルトラマンタロウの母親であり、光の国の医療集団「銀十字軍」隊長であるウルトラの母(本名:ウルトラウーマンマリー)でした。
「銀十字軍隊長・・・いいえ、ウルトラの母。彼の命は・・・・もう。」(メビウス)
「尽きようとしています。ですが、奇跡を起こすことが出来れば。」(ウルトラの母)
「その必要は・・・無い!ボガールを滅ぼした今、俺に生きている意味はない。」(ツルギ)
「ですが、あなたの死を・・・望まぬ者がいます。」(ウルトラの母)
ツルギの胸の上に横たわっていたのは、彼と一心同体であったセリザワでした。
ウルトラの母は手術を施し、ツルギの鎧を砕きます。憎しみや怒りと行ったマイナスの感情から解き放たれたヒカリと共に、セリザワも目を覚まします。ウルトラの母はヒカリに語りかけます。
「復讐の鎧が砕けた今、その者(セリザワ)も解き放たれました。生きるのです。ウルトラマンとして。」(ウルトラの母)
セリザワを乗っ取るのではなく、完全に心を調和させた(一体化した)ツルギは、かつてのウルトラマンヒカリの姿へと戻り、以降はメビウスとCREW GUYSの戦いのサポートにまわることになります。しかし、ボガールを追い続けた宇宙の長旅で疲弊したヒカリは、歴代ウルトラマン達を指揮する存在であるゾフィーから、光の国へ帰還するように指示されます。
ヒカリは指示を受け入れ、ウルトラマンの力に頼らずとも怪獣に立ち向かっていくリュウ達(CREW GUYS)を見届け、地球を去ることにしました。
「強くなったな・・・リュウ。メビウスを、GUYSを頼んだぞ。」(セリザワ)
「まさか・・・行っちまう気かよ。」(リュウ)
セリザワは頷き、ウルトラマンヒカリへと変身して空へ飛び立ちます。
リュウは彼の姿を走って追いかけます。セリザワからかつて学んだ5つの教訓である「ウルトラ5つの誓い」をGUYSの仲間達と共に叫びながら。
ウルトラ5つの誓い・・・1つ。腹ぺこのまま学校へ行かぬ事。
1つ。天気の良い日に布団を干すこと。
1つ。道を歩くときには車に気をつけること。
1つ。他人の力を頼りにしないこと。
1つ。土の上を裸足で走り回って遊ぶこと。
「聞こえるかぁ?ちゃんと言うんだぜ!ウルトラマンの言葉は、しっかり伝わってるってな!」(リュウ)
リュウ達に見送られて地球を去ったヒカリは、ゾフィーによって歴代のウルトラマン達が所属する宇宙を守る平和組織「宇宙警備隊」の隊員として抜擢されます。ヒカリは「宇宙警備隊」の隊員となった後、地球に度々訪れ、メビウスやGUYSの活躍をサポートすることになります。
自分がかつてツルギだった頃、復讐のために躊躇無く街を破壊し人間達の信頼を失ったこと、そしてこれまで地球にやって来たウルトラマン達の多くが赤い体色であったことから、青い体色である自分が改めて、地球人達に自分がウルトラマンのひとりであることを認めてもらうために、ヒカリは全力で戦いました。その結果、ヒカリは復讐の鎧に替わる「勇者の鎧」を着装する力を身につけた上、かつてウルトラマン達の故郷である「光の国」に大戦争を仕掛けた暗黒宇宙大皇帝エンペラ星人を、メビウスやGUYSと協力して討ち滅ぼすことが出来たのでした(このエンペラ星人との戦いにつきましては、過去のウルトラマンメビウスの記事で詳細に解説しておりますので、宜しければご覧ください)。
「大丈夫。地球はもう、俺達の手で守っていける。」(リュウ)
ヒカリは頷き、メビウスと共に地球を去ることにしました。ヒカリやメビウスが「光の国」へと帰って行く姿を見届けたリュウはその後、セリザワ前隊長をはじめとする歴代の隊長の意志を継ぎ、CREW GUYSの隊長に就任しました。
隊長としてのリュウの活躍が描かれるのは、上述してきた『ウルトラマンメビウス』とは別の物語。またの機会にゆっくりお話できたらと思います。
いかがでしたか?
今回は2人の青いウルトラマン達をご紹介してきました。彼らに共通している点は多々ありますが、とりわけ魅力的なのは赤いヒーローを補助する「サポートヒーロー」であるという点です。それ故、ウルトラマンアグルが登場した『ウルトラマンガイア(1998)』、ウルトラマンヒカリが登場した『ウルトラマンメビウス(2006)』は、あくまで赤いヒーロー達の名を冠した番組のタイトルになっています。
しかし「サポートヒーロー」であったからこそ、赤いヒーローとは異なるアプローチで彼らの内面が深く掘り下げられ、青いウルトラマンであるが故の悩み、そして感情を拗らせる姿が共感を呼び、さらに苦しみから立ち直って赤いヒーローと和解する姿が大衆的な支持を得てきたのだとも感じます。
最後までご覧頂きまして、誠にありがとうございました。