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「3:1の法則」で心を元気に ポジティブサイコロジーでうつ予防

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
写真はイメージです。(写真:Fumiy/イメージマート)

コロナ禍がさらに深刻になっている今、気持ちがすっきりしない方が増えています。病気ではないけれど楽しいことがない、イライラが続く時は、そこからうつスパイラルに入らない対策が不可欠です。そこでポジティブサイコロジーという心理学のアプローチを使い、うつ予防を行う方法についてご紹介したいと思います。

ポジティブサイコロジーは1990年代からアメリカで始まった研究分野です。身体的だけでなく精神的・社会的な側面もふまえた健康、であるウェルビーイングを高めるエビデンスに基づいた心理学で、他の多くの心理学の分野のアプローチとはかなり異なります。

他の心理学が使う疾患モデル(マイナス尺度)ではなくプラス尺度に焦点をあてるものです。簡単に言うとうつ気分を直す、欠陥の克服というように、マイナスをゼロにするという考え方ではなく、幸福感を増やす、つまりプラスの感情を増やすことによりマイナス感情を軽減させていくというものなのです。

「ポジティビティ比」を活用してうつスパイラル予防

昨年は海外における研究で、こうしたポジティブサイコロジーの理論を活用することでうつ予防に役だったという論文も報告されています。そこでポジティブサイコロジーの手法の中から、「ポジティビティ比」を機能してうつスパイラルを予防することについてお話ししようと思います。

3:1の法則

ポジティビティ比は、ウェルビーイングの観点から明らかになった最も重要な発見といわれています。それは憂うつな感情の体験1に対し、気分が高揚する幸せな感情の経験を3にすると気分はうつスパイラルに入らないというものです。ポジティブ感情:ネガティブ感情比が3:1以上なのか、3:1以下かがウェルビーイングを保てるかどうかの大事なカギとなります。

うつ状態にある時のポジティビティ比は1:1未満といわれています。うつスパイラルに入るのを防ぐには、ネガティブな感情を1回経験したら、ポジティブな感情を3回経験してポジティビティ比を保つことが必要です。ポジティブ感情は「心のリセットボタン」とも呼ばれていて、ポジティブ感情により心臓血管系のストレス反応を制御するとされています。ポジティブ感情については、「すごくいいこと」を目指さなくていいとされ、それよりも頻度と回数、分析せずにそれを十分味わうことが大事とされています。

ポジティブ感情で嫌な記憶を上書きする

ポジティブ感情とは

ポジティブ感情の代表的なものは、

  1. 充実感
  2. 感謝
  3. 好奇心や興味
  4. 創造性
  5. 希望
  6. 安らぎ
  7. 信頼
  8. 喜び

などとされています。

嫌な思いをした後に友達や信頼できる人と良い会話ができてほっとする

ハーブティーの香りで気持ちを落ち着ける

きれいな空を見て力を抜く

花を生ける

猫と話す

音楽を聴く

などちょっと心をリセットするボタンを押しておくことが大事です。

私は産業医をしていて面談で上司に嫌味を言われたりして落ち込んでいる方には、すぐ「記憶の上書き」をしてしまいましょう、とお伝えしています。こうして常に3:1の割合にキープすることが大事なのですね。

一般の方も参加いただける10月の学術集会

さてポジティブサイコロジーの研究は日本では10年前に医学会が設立され毎年医学学術集会が開催されています。今年10月にはオンラインで、初の試みとして医師や研究者だけでなく一般の方も視聴いただける形で開催します。ご興味がある方はチェックしてみてください。ポジティブサイコロジーを活用した引きこもり支援や健康経営、スポーツや音楽とポジティブサイコロジー、禅の呼吸とポジティブサイコロジーなど多分野にわたる講演が行われます。

http://jphp.jp/shukaisemi.html

※お申し込みフォームのほか、プログラム詳細や参加費をご案内しています。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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