ガラケーからスマホへ、さらにその中身も…有料音楽配信売上の動向
日本における個人向け有料音楽配信は従来型携帯電話(ガラケー、フィーチャーフォン)への「着うた」「着メロ」の配信事業で一気に花開いた。そしてそれは携帯電話の普及形態の変化、具体的には従来型携帯からスマートフォンへのシフトに伴い、さらにはスマートフォンにおける利用形態の変化に連れ、大きな変容を遂げている。今回は日本レコード協会が2017年4月に発表した音楽業界に関する白書「日本のレコード産業2017」を基に、「着うた」「着メロ」のような従来型携帯電話向けの音源による「モバイル部門」、そしてスマートフォン向けやパソコン向けなどが主になる「インターネット部門(パソコン・スマートフォン部門)」などから構成される、有料音楽配信の「売上」実績、そして両部門の関係の変化をグラフ化し、状況の把握を行う。
直近データが開示された2016年分の音楽業界は、物理メディアの売上から構成される「音楽ソフト部門」は前年比で減退、従来型携帯電話向け・スマートフォン向けなどの音源配信で構成される「有料音楽配信部門」はサブスクリプション(期間限定の使用権や、サポート受理権利による売り上げ)方面を中心に大きく飛躍、結果として総売り上げは前年比でマイナスを計上する形となった。
それではそれらの「有料音楽配信の売上」はどのような金額推移を見せているのか。そのメディア別「パソコン・スマートフォン部門」「モバイル部門(従来型携帯電話)」「その他(着信ボイス、着メロ、壁紙、アプリなど。機種が特定されていないので別扱い)」における変化をグラフ化したのが次の図。さらに各項目の「有料音楽配信」売上全体に対するシェア推移もグラフにした。
「Q1」「Q2」の「Q」とは「Quarter」、つまり「四半期」を意味する。例えば「Q1」ならば第1四半期、つまり1月から3月を表す。上記グラフから分かることを箇条書きにすると次の通りとなる。
・有料音楽配信市場では「モバイル部門」が圧倒的多数を占めて「いた」。
・全体の成長率は鈍化。そして2010年で明らかに縮小方向に転じた(前年同期比が100%を割っている)。さらに減少具合は加速化。2013年頭を底とし、2014年以降は少しながらも増加に転じる。2015年Q4以降は毎四半期で前年同期の増加率が1割超えを記録。これは多分にサブスクリプションの成長によるもの。
・2010年前後から「モバイル減少」「パソコン・スマートフォン漸増」の傾向が見え、2011年以降は加速度的にその動きを進めている。
・2012年に入ってから、「パソコン・スマートフォン部門」の売上シェアは急上昇を続けている。この動きがそのまま進み、2013年Q1には「モバイル部門」「パソコン・スマートフォン部門」の売り上げ面での立ち位置が逆転した。
「パソコン・スマートフォン部門」の額面上の動きを精査すると、2005年の第2四半期から急速な伸びを見せている。これは2005年8月にアップル社のインターネット音楽配信サービス「iTunes」がスタートしたのが原因。当時はまだ「モバイル部門」と比べると額は少ないものの、その上昇ぶりは見逃せない。
また2012年では2011年に続き、「パソコン・スマートフォン部門」が大きく伸びている。この動きの最大の理由は、スマートフォンやタブレット型端末利用者の急増に伴う、iTunesStoreに代表される音楽データスタンド(ポータルサイト)の需要拡大が大きな要因(iTunes Storeの売上が今件データに反映されていることは日本レコード協会に確認済み)。
一方で「パソコン・スマートフォン部門」へ注目と資金が集まる過程で、「旧来メディア(今件では「モバイル部門」)の減少分を、新規メディア(「パソコン・スマートフォン部門」)の増加分でまかないきれない」「全体額は漸減する」との図式が確認できる。これはメディアの移行期・過渡期にはよく見られる現象。
2014年以降は全体額の前年同期比がプラスに転じているが、これは「パソコン・スマートフォン部門」の「サブスクリプション」(期間限定の使用権や、サポート受理権利による売り上げ)の増加によるところが大きい。有料音楽の聴取スタイル性向が、いわゆる「定額制の音楽聴き放題サービス」(例えばAWA、Apple Music、Google Play Music、LINE MUSICなど)にシフトしつつある状況をうかがわせる。見方を変えれば、「単品特定指名買い」から「バスケット買い」に趣向が変化しつつあると見なすことができる。「モバイル部門」、つまり従来型携帯電話ではこの様式による販売がほとんど無いため全体額もほぼ同額だが、「パソコン・スマートフォン部門」ではその少なからずがサブスクリプションによるものとなっている。
現状ではアラカルト方式(特定楽曲の買い)の成長分をサブスクリプション方式が吸収するように見える構図となっているが、今後さらにサブスクが成長を続けた場合、有料音楽配信業界全体の販売、そして収益、さらには音楽業界全体そのものにも大きな変化が生じる感は否めない。よほどの購入動機の生じる楽曲で無い限り、サブスクリプションに収録されていなければ楽曲そのものに手を出さないとの選択を行う音楽ユーザーが(今後さらに)増える可能性は十分あり得るからだ。極論としては、ある程度自分の選択が可能な有線放送的な音楽視聴スタイルで満足してしまう形である。
直近となる2016年Q4では、パソコン・スマートフォンを合わせて約125億円、そのうちサブスクリプションによる売り上げは約55億円。後者が急成長を続ける現状では、早ければ2017年中にも双方の立ち位置が逆転する可能性すら否定できまい
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