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フリック新監督が率いるドイツ代表の現在。森保ジャパンはW杯初戦で勝ち点1以上を獲得できるか?

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

近年におけるドイツ代表の紆余曲折

 日本がグループリーグ突破を果たした過去3度のW杯初戦の成績は、2−2の引き分け(2002年/ベルギー戦)、1−0の勝利(2010年/カメルーン戦)、2−1の勝利(2018年/コロンビア戦)と、いずれも勝ち点1以上を獲得することができていた。逆に、グループリーグ敗退となったそれ以外の3大会は、すべて黒星スタートだった。

 つまり、過去の例にならうなら、カタールW杯で日本がグループリーグ突破を果たすためには、最低でも初戦で引き分け以上の成績が求められる。それを考えると、今回の初戦の相手に決まったドイツは、できれば避けたい相手だった。

 周知のとおり、ドイツは過去4度のW杯優勝を誇る強豪中の強豪だ(西ドイツ時代含む)。

 かつて1990年W杯でドイツに敗れたイングランドの名手ガリー・リネカーは、「サッカーはシンプルだ。22人の男たちがボールを追いかけ、最後はドイツが勝つ」という名言を残したが、たしかにその大会で通算3度目の優勝を果たしたドイツは、ヨーロッパの列強のなかでも一目置かれる存在であり続けた。

 ただし、近年のドイツ代表チームの歩みを振り返ると、そこには光と影が入り混じった紆余曲折の跡を垣間見ることもできる。

 1990年W杯以降、ドイツはユーロ96で優勝を果たし、2002年W杯では準優勝という好成績を残しているが、その間には、2000年のユーロでグループリーグ敗退を喫するという"どん底"を味わった。

 そこで、ユーロ2000後にドイツサッカー連盟は抜本的改革に着手した。

 すると、ユーロ2004ではグループリーグ敗退の屈辱を味わったが、改革開始から6年後の2006年には、自国開催の2006年W杯で3位を確保。大会後にユルゲン・クリンスマンからバトンを受けたヨアヒム・レーヴ監督の下で、その後も右肩上がりの成長を持続した。

 そして育成も含めたドイツサッカー大改革の成果は、2014年W杯優勝というかたちで実を結ぶこととなった。

 ところが、それをピークにドイツ代表は再び下降線を辿り始め、2018年ロシアW杯では屈辱的なグループリーグ敗退。さらに、15年目のレーヴ監督が最後のビッグトーナメントとして臨んだ昨夏のユーロでも、決勝トーナメント1回戦でイングランドの前に散っている。

 そういう意味で、現在のドイツは再び上昇気流に乗るべく、チーム再建を始めて間もない時期にあたる。その大役を任されたのが、レーヴ監督の右腕として2014年W杯優勝を経験したハンス=ディーター・フリック現代表監督だ。

フリック監督が率いる現在のドイツ

 昨年のユーロ後に就任したフリック監督の名が広く知れ渡るようになったのは、2019年秋、ニコ・コヴァチの後任としてバイエルン・ミュンヘンの監督の座に、アシスタントコーチから昇格して以降のこと。

 当初は暫定監督としての指揮だったが、フタを開けてみると、コロナ禍のなかで行なわれた2019-20チャンピオンズリーグで圧巻の全勝優勝。国内リーグと国内カップも制して三冠を達成したフリックは、一躍注目の監督として脚光を浴びるようになった。

 そのフリック監督が率いる現在のドイツは、昨年9月3日に行なわれたW杯予選のリヒテンシュタイン戦を皮切りに、これまで予選8試合と親善試合1試合の計9試合を戦って、通算戦績は8勝1分け無敗。

 失点がルーマニア戦(W杯予選)とオランダ戦(親善試合)の1点ずつしかないうえ、破壊力十分の攻撃力も際立っている。

 フリック監督が採用する基本布陣は、バイエルンでも多用していた4−2−3−1だ。ダブルボランチが起点となって攻撃を活性化させ、ボールを奪ったあとは両ウイングのスピードと突破力を起爆剤に、縦に速い攻撃を見せるのが特徴だ。

 とりわけ前線の人材は豊富で、1トップの一番手はティモ・ヴェルナー(チェルシー)だが、1トップ下にはカイ・ハフェルツ(チェルシー)、マルコ・ロイス(ドルトムント)、イルカイ・ギュンドアン(マンチェスター・シティ)、そしてベテランのトーマス・ミュラー(バイエルン)などがひしめき、ハフェルツやミュラーはサイドや1トップでもプレーできる。

 チーム最大の武器は、右にセルジュ・ニャブリ(バイエルン)、左にレロイ・サネ(バイエルン)を配置する両ウイングで、彼らふたりのスピードとドリブルテクニックは、対峙するSBにとっては大きな脅威となる。

 彼らに効果的なボールを配球するダブルボランチにも、ヨシュア・キミッヒ(バイエルン)、レオン・ゴレツカ(バイエルン)、あるいはギュンドアンといった日本でもお馴染みのタレントが揃っている。

 不安材料をあげるとすれば、時折不安定さを露呈する最終ラインか。

 CBのレギュラー候補はニクラス・ジューレ(バイエルン)とアントニオ・リュディガー(チェルシー)だが、複数ポジションでプレーできるティロ・ケーラー(パリ・サンジェルマン)の評価も上昇中で、両SBについてはまだ定まっていないのが現状だ。

 それもあってか、フリック監督はW杯予選突破後に、オプションとして3−4−2−1の構築にも着手しており、本番では複数の戦術を使い分ける可能性が高いと見られる。

 ただ、どの布陣で戦うにしても、このチームでカギを握るのは、GKマヌエル・ノイアーをはじめ、ジューレ、キミッヒ、ニャブリ、ミュラー、あるいは若手のジャマル・ムシアラといったバイエルンのメンバーになるだろう。

 フリック監督が率いたバイエルンの戦術を代表チームで機能させるには、彼らの存在が極めて重要な意味を持つ。

 そしてもうひとつ、日本にとって注意しなければならないのが、コーナーキックやフリーキックといったセットプレーだ。

 フリック体制下では、この分野のレベルアップにも取り組んでおり、すでにその成果も出始めている。たとえ引いて守ろうとしても、セットプレーの脅威は拭いきれないと考えて、しっかり準備しておくべきだろう。

 いずれにしても、1−1のドローで終わった親善試合のオランダ戦を除けば、これまで強豪と呼べるチームとの対戦がなかっただけに、現チームの評価を下すのはまだ早計と言えるだろう。

 今年6月と9月の代表ウィークで、ドイツはイタリア、イングランド、ハンガリーとネーションズリーグの6試合を戦う予定。そのなかでも、イタリア戦とイングランド戦では、フリック監督が目指すサッカーがはっきりと見て取れるはずだ。

 初戦で引き分け以上の結果を目指す日本としては、見逃せない試合になる。

(集英社 Web Sportiva 4月5日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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