福島瑞穂氏の質疑で露わ"国連組織より自分達は上"西山入管次長の傲慢さ・法を理解しない愚かさ
現在、参議院で審議されている入管法改定案*1に対しては、国連の人権の専門家達から、重大な人権侵害となることや、国際法に反することが懸念されており、その内容を大幅に見直すべきだと勧告されている。今月9日の参院法務委員会では、福島瑞穂参議院議員(社民)の質疑が、あたかも自分達は国連組織や国際法より上の存在であるかのような、出入国在留管理庁(入管庁)の西山卓爾次長の傲慢さを露わにさせた。
〇法の原則を無視する西山次長
衆院を通過し、現在、参院で審議されている入管法改定案。同法案をめぐっては、先月21日、国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会、移住者の人権に関する特別報告者、宗教または信条の自由に関する特別報告者が「国際法に違反する」と指摘、「徹底的に見直すことを強く求める」と勧告する共同書簡を公開した。
https://www.amnesty.or.jp/news/2023/0426_9910.html
同共同書簡が指摘する入管法改定案の問題点はいくつかあるが、そのうちの一つが、入管が、非正規滞在者を入管施設に拘束(収容)する際に、どの程度の期間まで収容できるかの限度を定めていないことであった。上述の共同書簡は、期間を定めず、実質的に無期限の収容を可能とすることが、日本も締約している国際条約である自由権規約の9条第1項で禁じられている「恣意的拘禁」にあたると指摘しているのだ。また、これは過去、国連の人権関連の各組織から再三指摘され続けてきたものである。
こうした国連組織からの勧告について、福島議員は今月9日の参院法務委員会で取り上げ、「(これらの勧告を)どのように検討したのか?」と問いただした。これに対する、入管庁の西山次長の答弁は、実に驚くべきものだった。
「収容期間を設けた場合、その上限まで送還を忌避し続ければ、逃亡の恐れが大きい者を含め全員の収容を解かざるを得ず、確実迅速な送還の実施が不可能となるため、収容期間に上限を設けることは相当でないと考えたところである」(西山次長)*2
つまり、自由権規約に基づく国連組織の勧告の内容を十分知りながら、入管庁の論理で、それを受け付けなかった、というのである。これは法治国家として、重大な問題だ。なぜなら、法の原則として、より上位にある法は、下位の法に優先するというものがある。法学の基礎であるが、国際法は入管法含め一般的な国内法より、上位の法とされる。つまり、西山次長の答弁は、法の原則に反しているのだ。また、日本国憲法第98条2項は「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」とあり、これに対しても西山答弁は反している。それは、日本国憲法第99条の「公務員の憲法擁護義務」に反し、西山次長の公務員としての資質が問われるものでもある。
〇日本の外交努力に泥を塗る西山次長
また、もう一つ、看過できない西山次長の答弁内容として、国連組織の勧告について「我が国に対して法的拘束力を有するものではないと承知している」と述べていることがある。福島議員が取り上げたのは、自由権規約委員会の総括所見(2022年10月)で、これは日本の入管制度について、「収容期間の上限導入」も勧告している。これに対し、西山次長は、あたかも、勧告に強制力はないから従わなくても問題がないかのように答弁しているのだ。
だが、勧告の根拠となっている国際条約である自由権規約は日本も締約しており、同規約は法的拘束力を有する。また、外務省がアピールしているように、自由権規約委員会には、日本も積極的に関わっており、西山次長の答弁は、こうした国際社会における「法の支配」のための制度および、それに関わる長年にわたる日本の外交努力に泥を塗るような、許し難い暴論なのだ。本来なら、更迭されてもおかしくないレベルの言動を西山次長葉くり返しているのだが、齋藤健法務大臣も、法を理解していないのか、或いは遵法精神がないのか、西山次長に答弁させ続けている。
〇入管法改定案か、野党対案か
福島議員に対する西山次長の一連の答弁は、彼個人の意見だけではなく、入管側がこれまでくり返してきた主張でもある。そうした入管の国際法や人権軽視の姿勢は、他の先進国に比べ桁違いに低い日本の難民認定率にも表れているのだが、入管法改定案は、そうした「難民鎖国」ぶりを改善しない一方、難民認定申請を3回行った人を強制送還できるようにするとしている。実際には3回目以降で難民認定されるケースも多々ある上、難民認定申請者の送還しようとすること自体、国際法に反するとこれまで国連組織から指摘され続けてきたことだ。
参院の野党(立憲、共産、社民、れいわ、沖縄の風)は、国際人権基準に沿った対案として「難民等保護法案・入管法改正案」を国会に提出している。日本が国際社会の中で尊敬されるような国であるためには、政府与党による入管法改定案(上述のように違憲無効の可能性大)か、野党対案か、どちらが良いものなのか、大いに議論されるべきだろう。
(了)
*1 今回の法案は「改正ではなく、むしろ改悪」との批判も高まっているため、本稿では「入管法改定案」と表記する。
*2 西山次長は「収容の長期化を防ぐため、速やかな送還を行う」とも答弁しているが、上述の様に難民認定申請者の強制送還は国際法違反。また、西山次長が収容長期化を防ぐものとしてあげた、監理措置、3か月毎の収容の是非を入管側が確認するといったものも、上述の共同書簡の中で、国際人権規約に沿うものではない、と論破されている。