100メートル走の記録を左右する風
0.01秒を争う100メートル走。無視できないのが風です。それも、強風ではなく、人がわずかに感じるくらいの微風が記録を左右します。
微風を測る超音波式風向風速計
陸上競技では、追い風が平均風速2.1m/s以上だと、100メートル走などは風によって記録が伸びたとされて「追い風参考記録」となり、正式な記録としては認められません。
風速2m/sというと、木の葉が少し揺れたり、人が顔に当たるのを感じる程度の風です。
そんな、かすかな風を測るのが「超音波式風向風速計」。突起と突起の間に超音波を発生させ、その部分が風を受けることによって生じる伝播時間のズレを測定して、風向と風速を測定します。
100メートル走では50メートル付近のコースすぐ横に設置してあって、スタートと同時に1秒ごと10秒間を計測し、平均風速を出します。
たった1m/sの風が記録を伸ばす
日本陸上競技連盟によると、100メートル走の場合、体型などにもよりますが、追い風が1m/sで、タイムが0.05秒~0.1秒ほど速くなると言われるそうです。
国内の記録を調べてみると、歴代トップ5のタイムのうち4つは、追い風1.4~2.0m/sの好条件で出ています。残りの1つは、今年4月に桐生祥秀選手が出した10秒01。これは追い風0.9m/sでの記録ですので、追い風があと1m/sほど強い状況でレースをすれば…と期待してしまいます。(なお、この時の風向風速計は機械式)
ちなみに、ウサイン・ボルト選手の世界記録9秒58も、追い風0.9m/sでしたので、もし追い風が2m/s近い中でのレースであれば、さらに記録は伸びていたのでしょう。
五輪や世界陸上での風は?
ところで、2m/sくらいの風なら頻繁に吹いてもおかしくないのに、近年のオリンピックや世界陸上で、「世界新記録が出たけど、追い風参考記録でした」ということは聞きません。これは、スタジアムが大きいため、外の風がダイレクトに入ってこず、中は風が弱いことが一因だそうです。
ただ、そうは言っても、近くを発達した低気圧が通過すれば、簡単に強風は吹いてしまいます。今回のモスクワの世界陸上は、発達した低気圧が通過することはなく、強風が吹き荒れるような天気はなさそう。競技に微風がどんな演出を加えるのか、注目してみようと思っています。