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ダルビッシュの専属捕手として爪痕を残したテイラー・デービスは遅咲き29歳ルーキーという苦労人

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
5月4日のカージナルス戦で満塁本塁打を放ったテイラー・デービス選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【故障者選手復帰でマイナーに降格した第3の捕手】

 カブスは16日のレッズ戦前に選手の入れ替えを行い、左手有鉤骨骨折のため戦線離脱していたビクター・カラティニ捕手を故障者リスト(IL)から外すとともに、彼の代役としてメジャー昇格していたテイラー・デービス捕手を3Aに降格させた。

 どのチームでもシーズン中に起こるごく普通の入れ替え措置で、第3の捕手であるデービス選手がマイナーに戻るのは既定路線といっていい。だが穴埋めを任された彼にとって今回のメジャー帯同1ヶ月間は、あまりに大きな意味を持つものになった。

【4月下旬からダルビッシュの専属捕手に抜擢】

 先月12日にメジャー昇格した当初は出場機会に恵まれなかった。正捕手のウィルソン・コントレラス選手が今やカブスの主軸打者を任せられる存在になっており、彼に代わって出場するのは容易ではなかった。

 だがその一方で、疲労を考慮すればコントレラス選手を捕手として毎試合先発させるのは得策ではない。そこでジョー・マドン監督が考案したのがデービス選手をダルビッシュ有投手の専属捕手として起用することだった。

 今シーズンに完全復帰が期待されているダルビッシュ投手だったが、シーズン開幕から決して安定した投球はできていなかった。そうした彼に気分転換させる意味でも、捕手を変えてみるという狙いもあったはずだ。

 そして4月27日のダイヤモンドバックス戦で初めて先発で起用されると、それ以降ダルビッシュ投手が投げる試合ですべて先発マスクを被るようになった。

【指揮官の思惑がズバリ的中!ダルビッシュに変化】

 このマドン監督の思惑は見事に的中した。デービス選手とコンビを組んでからのダルビッシュ投手は、着実に上向き傾向にあるといっていい。

 コントレラス捕手と組んだ最初の5試合の成績は1勝3敗、防御率5.97。チームも1勝4敗の状態だった。ところがデービス選手と組んでからの4試合は1勝0敗、防御率4.20と改善しているのだ。

 しかも今月4日のカージナルス戦で4回を投げ5失点された試合を除けば、それ以外の3試合の防御率は2.35まで下がっている。デービス選手と組んでからも制球難に苦しんでいる部分は否めないが、最後のコンビとなった15日のレッズ戦では6回途中まで今シーズン最多の11三振を奪うとともに、無四球、2失点の好投を演じている。

【2人の相性は抜群?デービスの満塁本塁打がダルビッシュの黒星を帳消しに】

 これは偶然が重なっただけかもしれない。ダルビッシュ投手の調子が上向いてきた時期に合わせて、たまたまデービス選手とコンビを組むようになったという見方もできる。だが2人の相性は決して悪くなさそうなのだ。

 前述のカージナルス戦で、ダルビッシュ投手が4回に降板したその裏に同点の満塁本塁打を放ち、ダルビッシュ投手の黒星を帳消しにしたのがデービス選手だった。しかもこれが彼にとって記念すべきメジャー初本塁打だったのだ。こんな素晴らしい巡り合わせはないだろう。

 MLB公式サイトが報じたところでも(すでに記事はサイトから削除)、マドン監督は2人がしっかりコミュニケーションをとっている様子を説明するとともに、定期的にコントレラス捕手に休養を与えられるデービス選手の専属捕手起用に満足していた。

【メジャーでは珍しくない専属捕手制】

 今回のように、ある特定の投手に専属捕手を採用するというのはメジャーでは決して珍しいことではない。特に有名なのが、メジャー通算355勝で殿堂入りも果たしているグレッグ・マダックス投手だ。

 ブレーブス時代の彼は、ハビー・ロペス選手という当時としてはリーグ屈指の名捕手がいたにもかかわらず、エディー・ペレス選手など控え捕手が専属捕手として彼の球を受けていた。

 また最近までカブスでは、デビッド・ロス選手が引退するまで、左腕エースのジョン・レスター投手の専属捕手という役目を担ってきたのも有名だ。

【MLBデビューは2年前!29歳で新人資格を有する苦労人】

 これまでのデービス選手は、野球選手としてずっと日陰を歩いてきた存在だ。2008年ドラフトでマーリンズから49巡目(最後から2番目)で指名を受ける。結局マーリンズとは契約せず、3年後の2011年にアマチュアFA選手としてカブスと契約する。そこからルーキーリーグからスタートし、少しずつレベルを上げていきメジャーまで辿り着いた苦労人だ。

 しかも9月のロースター枠拡大で自身初の40人枠入りを果たした2017年は、シーズン終了後に40人枠から外すため一旦は解雇され、そこからマイナー契約でカブスと再契約。しかし2018年に再び9月に40人枠入りを果たし、そして今シーズンは自身初めて40人枠入りして開幕を迎えることができた。

 つまりデービス選手にとってロースター枠拡大前にメジャー昇格したのは今回が初めてのこと。チームは今シーズンもポストシーズン進出の呼び声が高く、今後の彼次第でポストシーズンに出場できる資格を得たのだ。

 その意味でも首脳陣にダルビッシュ投手の専属捕手として効果的な仕事ができるという印象を与えただけでも、十分に爪痕を残すことができたはずだ。

【すでに3Aでは超人気選手!ムネリンもお気に入りだった人情派】

 実はデービス選手は3Aではかなりの人気選手として知られている。チームがYouTube上に公開した彼のコミカル動画は、その再生回数が60万回を超えるほどだ。

 2016年に川崎宗則選手を取材していた際、個人的にもデービス選手と交流を持つことができたのだが、日本人から見ても本当に心優しいナイスガイであり、川崎選手とも非常に仲がよかった選手の1人だった。

 その時のエピソードを紹介しておくと、ある遠征先で川崎選手が音頭をとり、彼の誕生日パーティという名目で選手たちを日本食レストランに食事に誘ったのだ。選手全員が出席したわけではなかったが、デービス選手は出席者の1人だった。だが彼は数々の料理が並んでいても、ほとんど手をつけようとしなかった。

その理由を聞くと、実は「生の魚が食べられない」ということだった。日本食レストランでの食事だから、寿司や刺身が出てくるのは重々理解していただろう。それでも川崎選手から誘われたからと、律儀に顔を出したということだった。こんなことからも彼が愛すべき性格だということが分かってもらえるだろう。

【デービスの再昇格は?日本での人気拡大に期待】

 もちろん現在のカブスのチーム事情を考えれば、デービス選手のメジャー再昇格は簡単なことではない。だが今後のダルビッシュ投手の投球次第では、再び彼に白羽の矢が立つ可能性は十分にあるだろう。

 その際はダルビッシュ投手の専属捕手として日本でも注目されることになり、彼のキャラクターが脚光を浴びる日が来るかもしれない。

 いずれにせよ、デービス選手が再びメジャーのグラウンドに立つ日を待ち侘びている。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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