日本国籍リナ・サワヤマさんが英音楽賞の有資格者に「イギリスらしさ」を見直した英レコード産業協会
[ロンドン発]4歳の時にイギリスに移住したシンガーソングライター、リナ・サワヤマさん(30)が英国籍でないことを理由にイギリスとアイルランドで毎年最も優れたアルバムに贈られる「マーキュリー賞」の最終候補に選ばれなかった問題で、リナさんが24日、インスタグラムでルールが変更されたと報告した。
「今年から英国籍がなくてもマーキュリー賞やブリットアワードの候補に選ぶことができるように英レコード産業協会(BPI)が国籍条項を変更することを決めました。イギリスで居住権を得て5年経てば資格が生じることになりました。BPIと何度も話し合い、このニュースをみなさんと共有できることはこの上ない幸せです」
英BBC放送が選んだ昨年のベストアルバムでリナさんの『SAWAYAMA』は11位。新しいルールでは次のいずれかを満たしていれば有資格者になるという。
(1)イギリス生まれ
(2)イギリスのパスポート保有者(二重国籍でも可)
(3)5年以上、イギリスの永住権を保有(筆者注・イギリスの市民権を申請する資格があるということ)
昨年、リナさんの『SAWAYAMA』はビッグスター、エルトン・ジョンが「今までのところ1年で最も有力な1枚」と一押ししていたにもかかわらず、日本国籍を保有するイギリス永住者のリナさんは英国籍ではないため、所属するレコード会社はBPIに問い合わせた結果、申請を見送った経緯がある。
「マーキュリー賞」のバンド部門はメンバーの半数以上がイギリス在住で、30%が英国籍かアイルランド国籍であれば受賞できる。英国籍さえ持っていれば実際にはアメリカに居住していても受賞が認められたケースがあった。他の英作曲家賞は直近の1年間イギリスに住んでいたことを証明できれば受賞資格を満たす。
「マーキュリー賞」の受賞を目標にしていたリナさんは当時、米ヴァイス・メディアの独占インタビューにこう答えている。「本当に胸が痛みました。人生の全てをここで過ごしました。少なくとも祝福される資格があると思う方法でイギリスに貢献してきたと感じていました」
BPIが意図的に国籍条項を設けて外国籍のアーティストを排除したというより、イギリスは二重国籍を認めているため、これまであまり問題にならなかったのが実情だ。しかし日本が二重国籍を認めていないため、リナさんは日英の「国籍の谷間」に落ち込む形になってしまった。
イギリスには10歳になるとトップ5%の才能を育成するプログラムがあり、音楽一家に生まれたリナさんはダンスの特待生に選ばれた。歌が大好きで、2歳半の頃には20曲のレパートリーを持ち、高校、大学時代はバンドのボーカルとして活動。
英ケンブリッジ大学時代は、保守的な学生からひどいいじめや嫌がらせも経験した。そんな時、大学からのサポート、LGBTの友人たちに助けられた。大学卒業後、プロの歌手として活動を始めたものの、全く食えず、店員のアルバイトやモデルをして生活していた。
リナさんは若いクリエイターたちとのコラボを重ね、3年ぐらいかけて1枚目のアルバムを制作。作詞作曲のみならず、プロデュース、演出、衣装も手掛けた自作アルバムは英米のメディアでその独創性が高く評価され、10カ所全てを満席にする英米ツアーも行った。
リナさんが国籍条項を理由に選考対象にならなかった今回の一件はイギリスの多様性を問い直しているだけでなく、日本が二重国籍を認めていないため日本人の優秀な才能が海外で活躍する機会を奪っている現実を改めて私たちに突き付けているのではないだろうか。
(おわり)