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湿疹やアトピー性皮膚炎と類似した皮膚悪性腫瘍 - セザリー症候群の症状と最新治療法

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

セザリー症候群は、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の一種で、比較的まれな疾患です。CTCLの中でも、菌状息肉症に次いで2番目に多いのがセザリー症候群です。セザリー症候群は、全身の皮膚に紅斑(発赤)が広がり、リンパ節が腫れ、血液中に異常なT細胞が出現する特徴があります。

CTCLの発症頻度は年々増加傾向にありますが、依然としてまれな疾患であるため、診断の遅れが課題となっています。セザリー症候群の皮膚症状は、湿疹やアトピー性皮膚炎など一般的な皮膚疾患に似ているため、見過ごされやすいのです。早期発見と適切な治療が予後改善につながるため、皮膚症状が長引く場合は皮膚科専門医への相談が大切です。

本記事では、セザリー症候群の原因や症状、最新の治療法について解説します。皮膚の異変を感じたら、ためらわずに専門医に相談しましょう。

【セザリー症候群の原因と症状】

セザリー症候群の正確な原因は分かっていませんが、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)や特定の薬剤が発症の引き金になると考えられています。

セザリー症候群の主な症状は以下の通りです。

  • ・全身の皮膚の発赤(紅斑)と痒み
  • ・リンパ節の腫れ
  • ・血液中の異常リンパ球(セザリー細胞)の増加

これらの症状は、一般的な皮膚疾患(特に湿疹やアトピー性皮膚炎)と似ているため、診断が難しいことがあります。確定診断には、皮膚生検や血液検査が必要です。

【セザリー症候群の診断基準】

セザリー症候群の診断基準は、国際皮膚リンパ腫学会(ISCL)によって定められています。以下の5つの基準のうち、1つ以上を満たす場合にセザリー症候群と診断されます。

  • 1. 血液1mm³あたりのセザリー細胞が1,000個以上
  • 2. CD4/CD8比が10以上
  • 3. フローサイトメトリーでのT細胞マーカーの異常発現
  • 4. 血液中のT細胞クローンの増加
  • 5. 染色体異常を伴うT細胞クローンの存在

【セザリー症候群の治療法】

セザリー症候群の治療は、皮膚科、血液内科、放射線科など複数の診療科が連携して行います。治療法は病期や症状に応じて選択されますが、一般的には以下のような方法が用いられます。

  • ・皮膚への治療(ステロイド外用薬、光線療法など)
  • ・全身療法(レチノイド、分子標的薬、抗体薬など)
  • ・化学療法
  • ・造血幹細胞移植

近年、セザリー症候群に対する新たな治療薬の開発が進んでいます。例えば、CCR4抗体薬のモガムリズマブは、再発・難治性の皮膚T細胞リンパ腫に対して高い効果が報告されています。また、PD-1抗体薬のペムブロリズマブも、再発・難治性のセザリー症候群に対する有効性が示されています。

セザリー症候群は進行が速く、予後不良な疾患ですが、早期発見と適切な治療により生存期間の延長が期待できます。皮膚の異常が長引く場合は、皮膚科専門医への相談をおすすめします。

参考文献:

1. Cai ZR, et al. JAMA Oncol. 2022;8(11):1690-1692.

2. Miyashiro D, Sanches JA. Front Oncol. 2023;13:1141108.

3. Olsen E, et al. Blood. 2007;110(6):1713-1722.

4. Cureus. 2024 Apr 18;16(4):e58570. doi: 10.7759/cureus.58570.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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