赤ちゃんの腸内細菌がアトピーを左右する?最新の科学が示す意外な関連性
【アトピー性皮膚炎と腸内細菌:意外な関係性】
アトピー性皮膚炎は、乾燥肌やかゆみ、湿疹を特徴とする慢性的な炎症性皮膚疾患です。子どもの25%、大人の7~10%が罹患する非常に多い病気で、特に乳幼児期に発症することが多いのが特徴です。
従来、アトピー性皮膚炎の原因は免疫系の乱れや皮膚のバリア機能の低下、環境の変化などが考えられてきました。しかし、最近の研究で、意外にも腸内細菌が大きく関わっていることがわかってきました。
腸内細菌は、私たちの健康に重要な役割を果たしています。アトピー性皮膚炎の進行にも、免疫機能や皮膚のバリア、さらには神経内分泌系を通じて影響を与えているのです。
例えば、アトピー性皮膚炎の患者さんでは、腸内の黄色ブドウ球菌や大腸菌、クロストリジウムといった細菌が健康な人より多く、ビフィドバクテリウム・ビフィダムという善玉菌が少ないことがわかっています。
【赤ちゃんの腸内細菌とアトピーリスク】
特に注目されているのが、赤ちゃんの腸内細菌とアトピー性皮膚炎の関係です。生後1ヶ月の時点でバクテロイデスという細菌が少なく、12ヶ月でプロテウスという細菌が少ない赤ちゃんは、将来アトピー性皮膚炎になりやすいという研究結果があります。
また、帝王切開で生まれた赤ちゃんは、腸内細菌の定着が遅れることがわかっています。通常の出産では、赤ちゃんは産道を通る際に母親の腸内細菌を受け取りますが、帝王切開ではそれが起こりません。そのため、帝王切開で生まれた赤ちゃんは、アトピー性皮膚炎を含むアレルギー疾患のリスクが高くなる可能性があります。
これらの研究結果は、アトピー性皮膚炎の予防や治療に新たな可能性を示唆しています。特に乳幼児期の腸内環境を整えることが、将来のアトピー性皮膚炎のリスクを下げる鍵となる可能性があります。
【腸内細菌を活用した新たな治療アプローチ】
このような研究成果を踏まえ、腸内細菌を活用したアトピー性皮膚炎の新しい治療法が注目されています。
プロバイオティクスやプレバイオティクスの摂取が、腸内細菌のバランスを整え、アトピー性皮膚炎の症状を改善する可能性があることがわかってきました。プロバイオティクスは生きた善玉菌、プレバイオティクスは善玉菌の餌となる食物繊維のことです。
例えば、特定のプレバイオティクスを添加した乳児用ミルクが、母乳に近い腸内細菌環境を作り出すことができるという研究結果があります。また、プロバイオティクスを外用ステロイド剤と併用することで、アトピー性皮膚炎の症状をより効果的に軽減できる可能性も示されています。
しかし、これらの治療法の有効性については、まだ議論が分かれています。アトピー性皮膚炎の予防や治療に対するプロバイオティクスやプレバイオティクスの効果は、さらなる研究が必要とされています。
今後の研究では、アトピー性皮膚炎と腸内細菌の関係をより詳しく解明し、より効果的な予防法や治療法の開発が期待されています。特に、赤ちゃんの腸内細菌がどのようにアトピー性皮膚炎のリスクに影響するのか、そしてそのリスクをどのように軽減できるのかという点に注目が集まっています。
参考文献:
Wang, Y., Wang, B., Sun, S., & Wang, Z. (2024). Mapping the relationship between atopic dermatitis and gut microbiota: a bibliometric analysis, 2014–2023. Frontiers in Microbiology, 15, 1400657. doi: 10.3389/fmicb.2024.1400657