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マンチェスター・ユナイテッドの迷走状態が続く最大の原因は何か? 悪夢はモイーズ時代から始まった

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

チャンピオンズリーグ出場権を逃す

 プレミアリーグ最終節のクリスタル・パレス戦で黒星を喫し、今シーズンを6位で終えることになったマンチェスター・ユナイテッドは、昨シーズンの2位から大きく後退し、来シーズンのヨーロッパリーグ出場権を確保するにとどまった。

 今シーズンのユナイテッドは、就任4シーズン目のオーレ・グンナー・スールシャール監督が昨年11月に成績不振により解任されると、マイケル・キャリック暫定監督を経て、ラルフ・ラングニック暫定政権が誕生。同時に、ラングニックは来シーズンからのチームコンサルタントに就任することが発表されるなど、先行き不透明なシーズンを送っていた。

 結局、来シーズンからは現アヤックス監督エリック・テン・ハフの就任が発表されたが、チームコンサルタントのラングニックは、今シーズン終了後にオーストリア代表監督に就任することが決定。同職と兼任する格好となり、相変わらずの迷走状態が続いている。

 27年も続いたサー・アレックス・ファーガソン時代の終焉から、もう9シーズンが経過した。

 この失われた9年間で、ユナイテッドに何が起こったのか。中長期的なチーム強化を目指すテン・ハフ政権で完全復活するためにも、あらためてその時代を振り返ってみたい。

モイーズ、ファン・ハールの時代

 ボタンの掛け違いは、ファーガソンから直々に後継者指名を受けたスコットランドの同胞、デイヴィッド・モイーズ(現ウェストハム監督)時代にさかのぼる。

 当時のモイーズはエバートンで長期政権を敷き、高い評価を集めていた。だが、夏の移籍市場で思うような補強が実現せず、目立った即戦力はエバートンから獲得したMFマルアン・フェライニ(現・山東魯能)のみ。それが、ケチのつきはじめだった。

 もっとも、当時のユナイテッドには、FWロビン・ファン・ペルシ(2019年引退)、FWウェイン・ルーニー(現ダービー監督)、DFリオ・ファーディナンド(2015年引退)をはじめとする黄金期の主軸が残留し、十分にタイトルを狙えるだけの陣容は整っていた。

 ところが、序盤から波に乗れないまま勝ち点を失い続けると、クロスボールに偏った戦術が限界を露呈。リーグ中位をさまようなか、わずか10ヶ月足らずでモイーズは解任の憂き目に遭った。

 結局、ファーガソンがいなくなった初年度は、当時選手兼任コーチだったライアン・ギグスが最後の4試合を暫定的に指揮。リーグ7位でフィニッシュし、CL出場権を逃すという最悪の結末となった。

 翌2014--15シーズンからの2年間は、オランダの名将ルイ・ファン・ハール(現オランダ代表監督)時代だ。

 とりわけ初年度の夏には、FWアンヘル・ディ・マリア(現パリ・サンジェルマン)を筆頭に、DFルーク・ショー、DFマルコス・ロホ(現ボカ・ジュニアーズ)、MFアンデル・エレーラ(現パリ・サンジェルマン)、DFデイリー・ブリント(現アヤックス)、そしてローンでFWラダメル・ファルカオ(現ラージョ・バジェカーノ)といった即戦力を大量補強。総額約1億7600万ポンド(現在のレートで約284億円。以下同)の大金を投資した。

 その一方で、ファーディナンド、DFパトリス・エヴラ(2019年引退)、DFネマニャ・ヴィディッチ(2016年引退)、FWダニー・ウェルベック(現ブライトン)、MF香川真司(現シント・トロイデン)らを放出。ユナイテッドはチーム大改革に乗り出した。

 しかし、短期決戦のブラジルW杯でオランダ代表らしからぬ3バックのカウンタースタイルで3位に導いたファン・ハールのサッカーが、プレミアリーグでそのまま通用するはずもなかった。

 案の定、新生ユナイテッドはスタートダッシュに失敗。布陣を4バックに代えてフェライニを軸とする戦術に転換したことが奏功し、最終的に4位に食い込んでCL出場権を確保したが、期待のディ・マリアやファルカオが不発に終わり、最低限の結果しか残せなかった。

 2年目も、MFバスティアン・シュバインシュタイガー(2019年引退)、MFモルガン・シュナイデルラン(現ニース)、FWメンフィス・デパイ(現バルセロナ)、FWアントニー・マルシャル(現セビージャ)らを総額約1億4000万ポンド(約226億円)の投資で迎え入れるも、金額に見合った活躍を見せることはできず。批判の矢面に立たされたファン・ハールは、5位で終わったそのシーズンを最後に退団した。

大金を投資したモウリーニョ時代

 低迷が続くなか、2016--17シーズンから指揮を任されたのが、過去に率いたクラブでことごとくリーグタイトルを手にしてきたジョゼ・モウリーニョ(現ローマ監督)だった。

 フロントもモウリーニョの要望どおりに、初年度からMFポール・ポグバ、MFヘンリク・ムヒタリアン(現ローマ)、DFエリック・バイリーの補強に総額約1億6650万ポンド(約268億円)を投入。さらにフリートランスファーでFWズラタン・イブラヒモビッチ(現ミラン)も獲得し、万全の陣容を整えた。だが、大金を使った肝心のポグバが鳴かず飛ばずで、結局は前年を下回る6位でシーズンを終えた。

 ただし、ヨーロッパリーグを制してCL出場権を獲得したほか、リーグカップも獲得したことは、さすが優勝請負人。モウリーニョの初年度は及第点の出来だった。

 長年エースを務めたルーニーが退団したモウリーニョの2シーズン目も、夏の市場で総額約1億4800万ポンド(約238億円)を使ってFWロメロ・ルカク(現チェルシー)、MFネマニャ・マティッチ(今季退団)、DFヴィクトル・リンデロフを補強。冬の市場でも約3000万ポンド(約48億円)を投じてFWアレクシス・サンチェス(現インテル)を獲得した。

 最終的にリーグ2位でフィニッシュしてCL出場権を獲得したが、優勝を果たしたペップ・グアルディオラ監督が率いるマンチェスター・シティとの勝ち点差は19ポイント。到底満足のいくシーズンとは言えず、指揮官に対する懐疑的な声も聞かれ始めていた。

 その不穏な空気が現実のものとなったのが、2018--19シーズンだ。それまでの2シーズンで550億円以上も投資したフロントだったが、その夏は指揮官の要望に応えられず。MFフレッジ、DFディオゴ・ダロト、GKリー・グラントに約7500万ポンド(約120億円)の投資をするにとどまり、そこからモウリーニョとフロントの関係性は崩れ始めた。

 そして、モウリーニョとポグバの対立が表面化したことが決定打となり、シーズン途中でモウリーニョは解任の憂き目に遭った。そして、そのあとを引き継いだのが、今シーズンの途中まで続いたスールシャール政権である。

 その間の成績は、途中就任の初年度が6位、2年目が3位、3年目は2位と、着実に成績を浮上させることには成功した。しかし、スールシャールにシティのグアルディオラやリバプールのユルゲン・クロップと肩を並べるほどの手腕を期待できるはずもなく、最終的にはその経験不足が限界を露呈したのが今シーズンだったと言える。

 結局のところ、ポスト・ファーガソン時代の顕著な問題は、選手獲得に大金を投じてもその多くが投資に見合った活躍をできていないことにある。

 そして何より、チーム成績やサッカーの内容よりもビジネス的マネーゲームがフロントの目的に見えることが、サポーターの不満を爆発させている最大の原因と言えるだろう。

 彼らグレイザー・ファミリーが経営権をにぎる間、果たしてユナイテッドはプレミアの頂点に返り咲くことができるのか。迷走状態からの脱却を目指す来シーズンも、その動向に注目が集まる。

(集英社 Web Sportiva 5月19日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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