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アップルCEOがiPad miniで強調した、ふたつの数字

本田雅一フリーランスジャーナリスト
iPad miniを発表するアップルCEOのティム・クック

10月23日に行われたアップルのスペシャルイベントにおいて、同社CEOのティム・クック氏は二つの数字を強調した。ひとつは「91%」、もうひとつは「27万5000本」だ。いずれも、前者はタブレット端末からのウェブアクセス全体に対するiPadの比率、後者はiPadの画面に適したデザインにカスタマイズされたアプリケーションの本数で、アップルが以前から繰り返しメッセージの中に盛り込んできた項目である。

今冬は7インチ前後の画面サイズを持つ、タブレット型端末に関連して多くの大型ニュースが続いている。グーグルが最新スペックのプロセッサを搭載した7インチタブレットNexus 7を、日本でも常識を破る低価格で発売。先日もアマゾンが日本市場への参入を明らかにしたばかりだ。

これらの背景にあるのが、9.7インチ版iPadの急成長だ。クック氏によるとiPadの販売数は1億台を突破したという。2012年第2四半期に出荷されたiPadは、パソコンシェアトップのヒューレット・パッカードが出荷したパソコンの総出荷台数を大きく超えている。

これだけでも大きな数字だが、実はタブレットの普及は北米が圧倒的に進んでいる。日本でもiPadはそれなりの存在感を示しているが、北米におけるiPadの存在感は、日本でのそれをはるかに上回っている。

iPadはパソコンを越える台数を四半期統計で出荷
iPadはパソコンを越える台数を四半期統計で出荷
iPadは10月20日に1億台販売を達成した
iPadは10月20日に1億台販売を達成した

今年6月に行われたIFA Global Press Conferenceでは、調査会社のGfkがタブレット市場の拡大が北米で突出しているとのデータが示された。このグラフでは日本が含まれていないが、Gfkのアナリストによると「西欧の実績よりも東欧に近い」数字とのことだ。

北米での急速なタブレット市場拡大だが、大多数がiPad。今後はまず西欧でiPadが北米並に伸び、その後、日本や韓国などに拡がるだろうとの予測である。また、スマートフォンにおけるAndroid比率が高いアジア新興国市場においては、Androidタブレットにそのチャンスがあるとの見解が示されてた。

タブレット市場は北米が突出して素早く立ち上がっている
タブレット市場は北米が突出して素早く立ち上がっている

これらの数字からも、北米でのタブレット端末の存在感が、日本のそれよりも大きいことがわかるだろう。米国に取材に来ると、取材相手や取材を共にする米国内のジャーナリストと触れるたび、肌感覚で日本よりもiPadの存在感が大きいことが感じられる。

”個人が所有するコンピュータ”という意味でのパーソナルコンピュータの定義を書き換える勢いが、北米でのiPadにはある。市場全体を俯瞰すると10インチ前後の”ポストPC”としてのiPadと、4インチ前後のスマートフォンの間、7インチ前後の画面サイズに市場が残っている。

ポストPCという位置づけの端末ではiPadによる寡占と市場の急拡大が進んでいるため、市場への参入余地が小さくなってきている。実際、10インチクラスではiPad以外の成功例はない。

デジタル製品は画面サイズごとに異なる製品が使われている
デジタル製品は画面サイズごとに異なる製品が使われている

そこで、7インチ前後のミニタブレット市場に食い込むことで、市場にある隙間を埋めようと業界がなだれ込んでいったことが、昨今のミニタブレットブームの背景としてある。

クック氏が「91%」と発表したタブレット端末からのウェブアクセス全体に対するiPadの比率は、ユーザー比率というよりも、”どの端末が実際にウェブブラウジングで使われているか”を示す指標と言えるだろう。

ほぼ単一機種で市場をカバーするiPadが、タブレットからのウェブアクセスの91%なのだから、世の中にたくさんあるタブレットの中で、本当にユーザーに受け入れられているのは我々なんだよという意思表示だ。

その結果として、iPad向けにカスタマイズされたアプリケーションが27万5000本以上ある。実際に使われ、大きな市場になっている(ユーザーが支持して端末を積極的に使っている)からこそ、これだけのiPadに最適化されたアプリケーションが生まれる、ということだ。

iPad向けに画面設計されたアプリケーションは27万5000本以上にのぼる
iPad向けに画面設計されたアプリケーションは27万5000本以上にのぼる

タブレット端末は、パソコン的なウェブブラウズ用途とスマートフォン的なシナリオベースの簡単操作のアプリケーションの両方が共に重要だ。クック氏はこうした数字を挙げることで、タブレット端末のユーザーはiPadを選んでいる。そして多数のユーザーがいるiPadにアプリケーションが集まり、エコシステムとして機能していると言いたかったのだろう。27万5000本というアプリケーション数は、1時間半に及んだ発表会において2度も登場した。

iPad miniは、そうした9.7インチiPadで培った資産、市場規模の大きさを利用した戦略だ。保守的であり、アップルが押し進めてきた”イノベーション”とは対極の位置にある。しかし、強力なiPadの後ろ盾を考えれば、ライバルに比べて高価という不利を撥ね除けて先進国市場ではiPad miniが成功する確率は高いように思う。

特に日本市場では、手軽に持ち歩ける7インチサイズと308グラムの軽さは武器になるだろう。実際に手にして、ハンドリングしてみると、まったく新しさのないハードウェアスペックの端末に、新しい使い方の可能性が見えてくる。保守的なiPad miniに対して、期待外れの声も聞かれるが、むしろ保守的だからこそ、このミニタブレット市場での成功を確信しているのだろう。

アップルの内部からは「この製品が成功すれば、タブレット市場での趨勢を決めることができる」との声も聞かれた。7インチ前後の画面サイズでiPad miniが多数派になれば、スマートフォンとパソコンの間にある隙間が完全に埋まるからだ。その行方は近く、市場=消費者が最初の判断を下すだろう。

フリーランスジャーナリスト

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、モバイル、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジとインターネットで結ばれたデジタルライフと、関連する技術、企業、市場動向について解説および品質評価を行っている。夜間飛行・東洋経済オンラインでメルマガ「ネット・IT直球レポート」を発行。近著に「蒲田 初音鮨物語」

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