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触ってわかった新型iPhoneの進化。著しく向上したカメラの画質と使いやすさ

本田雅一フリーランスジャーナリスト
iPhone 11 Proについて言及するアップルCEOのティムクック氏(写真:ロイター/アフロ)
発表会後に行われたハンズオン会場の様子。ウェブには掲載されていない情報も多い
発表会後に行われたハンズオン会場の様子。ウェブには掲載されていない情報も多い

アップルは米カリフォルニア州クパチーノの本社で新型iPhoneを発表した。

新型iPhoneは「iPhone 11」および「iPhone 11 Pro」、「iPhone 11 Pro Max」で、それぞれiPhone XR、XS、XS Maxに相当するディスプレイサイズと外形サイズ、位置付けを担っている。

11を基本モデルとした上で、11 Proシリーズが最上級の製品とアナウンスしてるように、アップルは一連の新製品において廉価版、あるいは普及モデルといった製品を持たない方針を名称の面でもハッキリさせたかったようだ。

新しいiPhoneのラインナップと価格
新しいiPhoneのラインナップと価格

その代わりに(従来もそうだったが)旧型モデルの価格を改訂して購入しやすくしている。iPhone 8およびiPhone XRが購入しやすいバリューモデルとして、その位置付けが見直された。iPhone XRはすでに新型発表前から実勢価格が下がり、米国での売れ行きが伸びていたこともあり、順当なラインナップの刷新と言うことができるだろう。

すでに日本での価格や細かなスペックなども公開されている。価格はやや買いやすくなっており、円高の影響もあって昨年よりも日本では購入しやすくなっているようだ。しかし、ウェブの情報からは見えにくい情報もあるため、発表会場でのハンズオンで確認した新型の注目点をまとめて紹介することにする。

単なる画角違いだけではない”超広角”カメラの使い方

iPhone XRでは35ミリフィルム換算で26ミリ相当の広角カメラ、iPhone XSシリーズには52ミリ相当の望遠レンズも搭載したデュアルカメラ構成になっていたが、新型iPhoneでは13ミリ相当F2.4の超広角レンズを採用するカメラが追加搭載された。画素数は1200万画素と他の画角と同じだ。

iPhone 11 Proシリーズには画角が120度に達する超広角カメラが搭載された
iPhone 11 Proシリーズには画角が120度に達する超広角カメラが搭載された
6色で展開するiPhone 11
6色で展開するiPhone 11

このためiPhone 11はデュアルカメラ、iPhone 11 Proはトリプルカメラとなる。画角は実に120度で、うっかりすると自分の指や足が入ってしまうほどの広角だ。

この画角を応用し、風景写真、あるいはワイドマクロでの特徴的な写真など、撮影の幅が拡がることもたしかだが、実は機能や使いやすさの面にも貢献していた。

撮影班以外の情報も残しておくと、超広角カメラでの撮影情報を使った画角や傾きの補正が可能となる。中央の明るい部分が広角レンズの撮影範囲。
撮影班以外の情報も残しておくと、超広角カメラでの撮影情報を使った画角や傾きの補正が可能となる。中央の明るい部分が広角レンズの撮影範囲。

「写真のフレームの外側を含めて撮影」というオプションを選択しておくと、超広角カメラで捕らえておいたフレーム外の画像情報も同時記録。iPhone内で傾き補正をしたり、あるいは見切れてしまっていた像をあとから取り戻すなど、撮影後の編集で超広角画像のデータを活用できる。

新しいズームのインターフェス。同時にフレーム外の情報も見えるのがわかる
新しいズームのインターフェス。同時にフレーム外の情報も見えるのがわかる

また、広角から望遠にかけての撮影では、超広角レンズから得た像をフレーム外に暗めにオーバーレイ表示してくれるのも便利だ。フレーム外の情報がiPhoneのワイド画面両端に見えるため、フレーム外の状況変化を感じ取りやすく、フレーミングでも有利だからだ。

この利点はビデオ撮影ではさらに顕著。フレーミングの外にある被写体の位置や動きを把握しながら動画撮影できるからだ。

また超広角カメラが追加されたことで、広角以上の画角でポートレートモードが使えるようになっている。昨年のiPhone XSシリーズは望遠カメラでしかポートレートモードが使えなかったが、iPhone 11 Proは望遠カメラと広角カメラの両方でポートレートモードが利用できる。

画質も”リアリティを伴う形で”向上

A13 Bionicは機械学習性能の向上と電力効率向上を目指して開発。きめ細かな電源・クロック制御で省電力化が図られている
A13 Bionicは機械学習性能の向上と電力効率向上を目指して開発。きめ細かな電源・クロック制御で省電力化が図られている

もっとも「便利になった」だけではない。

新型プロセッサのA13 Bionicは、CPU、GPU、Neural Engineともに、A12 Bionicよりも20%高速化されつつ15〜40%(機能パートによって異なる)の省電力化が図られているが、中でもCPUには新しい演算器が追加されている。

A13 Bionicでは機械学習の処理能力を高める行列乗算が6倍に高められており、1秒間に1兆回の演算が可能になったという。これによって自然言語処理や映像認識の速度や精度が向上するため、これまでも行われていた高画質処理がさらに改善されているからだ。

iPhoneは多様なレイヤで画像を認識、機械学習での処理を行っている
iPhoneは多様なレイヤで画像を認識、機械学習での処理を行っている

たとえば顔認識だけではなく、顔の中にあるパーツの配置や形状の認識、背景と被写体の分離、被写体の形状認識などだが、それらがより進化したのだろう。画質の詳細な評価は製品レビューまで待ちたいが、プロが撮影したという画像を見る限り、昨年よりもさらにリアリティ指向の高い、ディテールや色の深さが印象的だった。

AI的に”この被写体はこう写ってほしい”といった画像処理を行うのではなく、あくまでも写真としてのリアリティを高める方向で、被写体ごとの画像処理を最適化するというアプローチは、ファーウェイなどが行っている方向とは(善し悪しではなく)異なる。

その最たるものが、この秋にアップデートでiPhone 11と11 Proで利用可能になるDeep Fusionという撮影モードだ。

9枚の画像を合成し、深みのある色とディテールを引き出すDeep Fusionが秋にアップデートで追加される予定
9枚の画像を合成し、深みのある色とディテールを引き出すDeep Fusionが秋にアップデートで追加される予定

Deep Fusionでは最大9枚のイメージを内部に保持し、すべての画素をNeural Engineで比較分析し、最適な画素を創り出す処理を行うという。

あくまで「チラ見せ」のためハンズオンでは試すことができなかったが、明らかに写真としての質は向上して見えた。どのような仕上がりになるか興味深い。なお「モード」と表現しているが、実際には自動的に処理が行われるため利用者が使いこなす必要はない。

こうした複数枚のイメージを同時処理する機能は他にもあり、暗い場所でのノイズを減らし明るく見せるナイトモードは、数秒間の画像を合成することで暗所での撮影を可能にするものだ。こちらも設定不要で利用できる。

大きく向上したビデオ画質

Cinetic Proを使ったワイプ映像のデモ
Cinetic Proを使ったワイプ映像のデモ

このように静止画だけでも違いを感じられた新型iPhoneだが、実はビデオ画質の方が進歩しているように見えた。

また4K/60Pでの記録が可能なビデオ撮影機能は、シネマライクなシミュレーション機能などが加えられているが、何より画質面での改良が顕著に見られた。発表会場では実際にiPhone 11 Proシリーズで撮影された4K映像が披露されたが、後編集でプロが制作したかのようなリアリティの高い映像になっている。

iPhone 11 Proシリーズが搭載するディスプレイは、見た目にもiPhone XSシリーズのものよりも明るくなっていたが、そのダイナミックレンジが拡がったディスプレイに最適化した映像が撮影できる。

発表会場のスティーブ・ジョブズ・シアターに設置された巨大なスクリーンでも映像のアラが見えない。また3つの画角カメラを動画撮影中に切り替えると、まるで電動ズームでも画角を切り替えているかのようにスムースに画角が変化する。

プロセッサ性能の向上もあり、写真編集と同じように露出や色合いなどの調整、トリミング処理などを動画に対しても特別な編集ツールなしに行えた。

4つのビデオストリームを同時処理する性能

三つのカメラなんて必要なのか?という疑問もあったが、確実に商品性へと反映されていた。
三つのカメラなんて必要なのか?という疑問もあったが、確実に商品性へと反映されていた。

私見だが、過去のiPhone内蔵カメラの進化でももっとも大きなものだ。

簡単には紹介しきれないが、たとえばポートレートモードに追加されるハイキーモノでは、ハイコントラストなモノクロポートレイトを撮影できるだけでなく、背景を真っ白に飛ばしてくれる。白いバック紙を降ろした上で、大型ストロボを背景に当てて飛ばしたような写真が簡単に撮れる。

また、顔認識の数も明らかに増えており、会場でカメラをテストしていると、実に多くの顔が同時に認識され、広角ポートレイトモードでも同じ数の顔を認識していた。望遠カメラだけでなく、広角カメラでも本格的にポートレートモードを活用できるようになれば、より使い方の幅も拡がっていくだろう。

またインカメラに関しても画質が向上しているだけでなく、スローモーション撮影などが加わった。

またiPhone本体の処理性能が向上したことで、サードパーティーのアプリでもより多くのことが可能になっている。A13 Bionicに最適化する形で開発されているというCinetic Proというアプリは、三つのアウトカメラのストリームを同時に記録しながら、映画のような映像調整処理をリアルタイムで行える。

また二つのカメラを選び、片方をワイプ映像として合成記録するといったことも可能だ。

内蔵カメラの進化という意味では、必ずしも先頭を走っていたわけではないiPhoneだが、派手に見せるのではなく、あくまでも「カメラとしての高性能」として魅力を高めている。

大幅に伸びたバッテリ駆動時間

もうひとつ印象的だったのは、バッテリ駆動時間だ。

iPhone 11はXRに比べて1時間、iPhone 11 ProはXSに比べて4時間、iPhone 11 Pro Maxに至っては5時間、バッテリ駆動時間のスペックが伸びるという。

この駆動時間の延長には、iOS13でダークモードが導入されたこととは無関係ではないと思ったのだが(OLEDは黒の面積が多いほど電力消費が少ない。Proの方がバッテリ駆動時間のスペック向上幅が大きい理由でもありそうだ)、通常モードでこれだけの差があるという。

まあず、A13 Bionicの省電力性能が高くなった。

Neural Engineこそ15%の電力効率向上だが、低負荷時に動作する高効率CPUコア、高負荷時の高性能CPUコア、GPUコアは、いずれも30〜40%も効率が向上している。

基調講演では実にアッサリと紹介されただけだが、アップルは7ナノメートルプロセスで設計・製造されるA13 Bionicは、38億トランジスタを用いた回路を細かなブロックに分割し、それぞれに異なる電圧で動かし、また動作クロックを可変にできる領域も多数あるという。

つまり、動いていないパートは休ませ、性能が求められない場合は電圧を下げる。よく用いられる設計手法だが、それを極めて多くのドメイン分割で実現させているようだ。

その上でバッテリ容量も大幅に増加。その影響で11 Proと11 Pro Maxは、いずれも本体重量が増えているが、省電力化と合わせて大幅なバッテリ駆動時間の延長が実現された。

もちろん、アップル自身が言っていたように、性能やディスプレイの質も改善されている。

iPhone 11のレンズ部。ベゼル部と背面ガラスは一体でつなぎ目がない。
iPhone 11のレンズ部。ベゼル部と背面ガラスは一体でつなぎ目がない。

工業製品としての仕上がりも高く、iPhone 11、iPhone 11 Proシリーズともに背面ガラスはカメラ部の立体造形は一体構造で境目がない。iPhone 11はカメラベゼル部分、iPhone 11 Proシリーズはカメラベゼル以外(背面全体)がマット(つや消し)処理になっているなど、細かく高級感を演出する作りになっていた。

デザインの面で大きな変化は見られなかったが、iPhone Xでつけた道筋を進化させ、ここ数年取り組んできたカメラ性能の改良に関して、ひとつのマイルストーンに達したとは言えそうだ。

フリーランスジャーナリスト

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、モバイル、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジとインターネットで結ばれたデジタルライフと、関連する技術、企業、市場動向について解説および品質評価を行っている。夜間飛行・東洋経済オンラインでメルマガ「ネット・IT直球レポート」を発行。近著に「蒲田 初音鮨物語」

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