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1万円札の流通量は高いが、新規印刷分は過去最少の謎

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

 新たに刷る1万円札の需要が細っている。日銀は2021年度に国立印刷局に発注する1万円札を9億枚とする。前年度から2千万枚減り、4年連続の減少になる。現行紙幣の発行が始まった2004年度以降では過去最少だ。新型コロナウイルス禍でキャッシュレス決済が一段と普及したほか、タンス預金の拡大も影響していると、18日に日本経済新聞が報じた。

 これに対して、日本銀行の統計によると、家庭や企業に出回る紙幣・貨幣は2020年末に約123兆円分。単純計算だと国民1人平均100万円弱。うち1万円札の流通量を年末ごとに比べると、近年は2~4%台の増加だったが、昨年は15年末以来の5%超の高い伸びになったと、こちらは21日に朝日新聞が報じていた。

 昨年は1万円札の流通量は大きく伸びたものの、新規に発注される福澤先生の1万円札については過去最低となる。これはなかなかの「謎解き」となりそうである。

 すでに発行額が積み上がり、国民1人平均100万円弱の現金が保有されていてるはずだが、キャッシュレス化によって使われる1万円札そのものの需要は減少しているため、新規に印刷される1万円札は減少する。コロナ禍にあってお札にあまり触れたくないということもあろうが、それだけタンス預金が積み上がっていたということであろうか。

 そのタンス預金もピークアウトしつつあり、ネット通販の増加などによるキャッシュレス決済の増加によって、新規に必要な分は減少しつつあるということなのであろうか。

 日本人の現金志向は大変強いものがある。新型コロナウイルスもある意味、災害のひとつといえようが、地震や洪水などの自然災害も日本では多い。そのときに必要となるのは現金というのは実感としてわかっている。先日の福島沖を震源とする地震の際に停電が起きた。あのときは朝が来る前に我が家あたりは復旧していたが、東日本大震災のときには数日間復旧せず、コンビニやガソリンスタンドでの決済は現金とならざるを得なかった。

 今後もし自然災害等で電気が止まれば、キャッシュレスも止まるとみられる。キャッシュレスはどうしても電気に依存せざるを得ないことが、特に日本では大きな欠点となりうる。

 それとタンス預金のなかには税金が意識されたものがあると予想される。一部犯罪に使われるものもあるかもしれない。しかし、日本人の現金至上主義はそう簡単には変えられないものだと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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