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日本人宇宙飛行士の月面着陸と「アルテミス計画」-実現はいつになるのか-

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
Credit: NASA

2022年5月23日、日本の岸田文雄総理大臣、米国のジョセフ・バイデン大統領は日米首脳会談で将来の日本人宇宙飛行士の月面着陸に言及した。2025年にNASA宇宙飛行士による有人月面着陸の再開を目指す国際宇宙探査計画「アルテミス計画」に日本も参加し、将来ミッションで国際パートナーである日本人宇宙飛行士による月面着陸が可能になる。

5月23日ホワイトハウス発表文書(抜粋)

5月24日NASA発表文書とバイデン大統領コメント(抜粋)

「ゲートウェイや人間、ロボットによる月面ミッションに日本人宇宙飛行士を含めるという双方の共通の意図を再確認」とある。「アルテミス計画の下で月面へのミッションに参加する最初の日本人宇宙飛行士を楽しみにしています」との表明もあり、アルテミス計画に日本人宇宙飛行士が参加し月面着陸を行う意図が確認されたといえる。

5カ月前、岸田首相は2021年12月28日に開催された宇宙開発戦略本部の後で、「月において有人活動などを行うアルテミス計画を推進し、2020年代後半には、日本人宇宙飛行士の月面着陸の実現を図ってまいります。」と述べている。ここでは2020年代後半という時間的目標が示されているが、2022年5月の日米首脳会談では実施時期に関する文言はなかった。では、目標通り2020年代の実施はあるのだろうか。

結論からいえば、2020年代中の日本人宇宙飛行士の月面着陸は難しいと考える。それは、アルテミス計画の進捗によるところが大きい。現在の計画では、新型宇宙船「オライオン」と打ち上げロケット「SLS」の組み合わせで無人打ち上げ試験(アルテミス1)と有人月周回(アルテミス2)を行い、2025年に月面着陸再開ミッションである「アルテミス3」を行うとなっている。しかし2021年11月には、NASAの監察総監室(NASA OIG)が計画のマネジメント問題に関する報告書で懐疑的な見方を発表した。

NASA有人月着陸「アルテミス計画」はどれほど遅れるのか。打ち上げコストはJAXA予算の2倍以上』では、NASA OIGの文書をもとに月面着陸システムや宇宙服を始め複数の必須ハードウェア開発の大幅な遅れと、スペースXが開発を担当する月着陸船「スターシップ」の開発状況、そして1回で41億ドル(約4700億円)もの巨額の費用がかかるオライオン/SLSのコスト問題から、有人月着陸再開は2026年以降の可能性があることを解説した。

さらに2022年1月には、宇宙飛行士のマネジメントと訓練に遅延の可能性があるという報告書が発表された。有人月探査ミッションには新型宇宙船や月着陸船、新型宇宙服の訓練が必須だが、開発中の要素が多くある。となるアルテミス2、アルテミス3のミッション詳細が決定していないため、2年かかる訓練を始められないという。

2022年3月には、NASA OIGの担当者が議会で「アルテミス3は2026年以降になる」という見解を示した。特に新しい事実が判明したというよりは、指摘された遅延が解消できないことによるものだろう。当初の予定では今年2月だったオライオン/SLSの最初の打ち上げ試験であるアルテミス1の打ち上げはまだ実現しておらず、5月17日には、「打ち上げ機会は12月23日まである」とNASAは発表した。2022年末まで打ち上げが行われない可能性さえある。

アルテミス計画での月面着陸再開が2026年以降になった場合、国際パートナーである日本人宇宙飛行士が参加するアルテミスミッションはいつになるのだろうか。2020年9月に発表されたアルテミス計画の概要では、アルテミス計画には「Sustainable」というフェーズがあり、日本を含む国際パートナーがが恩恵を受けるのはこの段階であると読み取れる。そしてサステナブル・フェーズの実現にはゲートウェイ構築が含まれる。

4月4日付けの米宇宙開発専門誌Spacenews.comによれば、NASAのパム・メルロイ副長官がサステナブル・フェーズに達するのは「アルテミス3での月着陸後の10年の後半」と述べたという。総合して考えると、日本を含む国際パートナーが月面ミッションを達成できるのは、アルテミス3実現から5年以上後ということになる。アルテミス3が2026年ならば2031年以降だ。

ゲートウェイの位置付けはアルテミス計画の中で二転三転してきた経緯もあり、実現の遅れも指摘されている。日本は生命維持装置や電源などの機能を提供し、物資補給も行う予定になっている。日本の宇宙飛行士が月面着陸を達成するには、ゲートウェイの詳細と米国側の進展を注視し、実現を後押ししていく必要がある。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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