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トップチームに挑み続ける京都・浜口炎HCが標榜する選手自らが考えるバスケ

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
京都ハンナリーズを率いて7年目のシーズンを迎える浜口炎HC

 先週末に行われた天皇杯・皇后杯前日本バスケットボール選手権第3ラウンドで、京都ハンナリーズが強豪アルバルク東京を70-66で下し、初のベスト8入りとなる決勝ラウンド進出を決めた。

 東京は日本代表としてFIBAワールドカップ2019アジア地区1次予選に出場するため、竹内譲次選手、田中大貴選手、馬場雄大選手の主力3選手が欠場する苦しい布陣での戦いを余儀なくされた一方で、京都もディフェンスの要であるマーカス・ダブ選手、控えPGの綿貫瞬選手を負傷で欠くという、決して盤石な布陣でない中での勝利だった。

 「(東京戦での勝利は)いい経験になったと思いますし、自信にもなりました。3人いなくてもいいチームでいいタレントが揃っているというのは間違いなくて、ただバスケットは5人のスポーツで、いくらいい選手が5人いてもボールは一つでシュートを打てるのも1人だけです。うちもマーカスがいなかったり、そうした状況の中で東京さんがどういう理由にせよ、チームとして1つステップアップしてオールジャパンのベスト8に入れたというのは単純に嬉しいです」

 京都の浜口炎HCは素直に勝利を喜んだ。今シーズンはBリーグの公式戦でもここまで9勝8敗と西地区2位につける健闘を続ける。昨シーズンは25勝35敗で同地区5位に終わったことを考えれば、チーム力は確実に上がってきている。浜口HCの言葉を借りるまでもなく、東京の勝利はさらにチームに自信を加えることになっただろう。

 浜口HCにとって今シーズンは京都を率いて7年目となる。bjリーグからBリーグに乗り込んだ昨シーズンは、企業主体の元NBLチームとのチーム格差の前に如何ともすることができなかった。現在も予算が潤沢な東京のようなトップチームとは大きな差が歴然としている中で、浜口HCはチャンピオンシップに進出できるリーグ8強入りを目指してトップチームに戦いを挑んでいる。

 「旧bjと旧NBLの差がある中で、何とか上位のチームに食らいつくようなチームにしたいというのが最大の目標です。去年はB1に定着するようなチームをつくることが目標だったんですけど、今年はそれがワンステップ上がって何とか8つ(リーグ8強)に入ろうという目標にステップアップできています。

 なかなかすべてのポジションに自分の気に入った選手を獲得できるような状況ではないですけど、ただこのリーグを1年間戦って4番、パワーフォワードのポジションがこのリーグを勝ち抜くためのキーポイントだと思っていて、昨年8つに入ったチームは琉球さん以外(そこに)帰化選手がいるか、2メートル以上の日本人選手がいるという状況でした。そういった中で今年はそこのポジションに佑也(永吉選手)が来たというのは非常に大きいと思います」

 永吉選手の加入で今シーズンはようやくトップチームと対抗できる布陣が揃った。しかし限られた予算内ではスター選手やNBAで活躍したような実績ある外国人選手を獲得するのは難しい。どうしても個人の能力ではなくチームの総合力で対抗するしかない。しかしチームスタッフは浜口HC以外AC1人、トレーナー2人だけ。しかもチームは昨シーズンから7人が入れ替わっており、すべての選手に目を行き届かせるのは簡単ではない。そんな中でシーズン開幕から好調なスタートを切れた秘密はどこにあるのだろうか。

 「バスケットはどちらかと言うと自由にプレーさせて彼らの良さを最大限に引き出させるような“let them play(選手自らにプレーさせる)”というケースが多いです。東京さんみたいにパスしたら3歩こっちに動いてというのではなくて、彼らの長所を生かしながら(プレーさせる)という考え方です。

 ただ他の部分で規律であったりチームのルールにはすごくうるさいコーチです。ここに来た1年から同じことを続けていて、バスケット以外のことでしっかりチーム・カルチャーをつくっていくということに力を入れています。僕とチームトレーナーの北川(雄一)くんとは10年以上一緒にやりながらチームをつくってきたんですけど、毎年選手が変わりながらも優介(岡田選手)や内海(慎吾選手)だったり残った選手が続けて継承してくれているので、チーム・カルチャーやチームがやりたいことを継続できています」

 浜口HCの根本にあるのは、“コーチング”よりも“ティーチング”だ。コート上で優れたパフォーマンスを求める以前に、まずチームの中で選手としての自覚、責任をしっかり認識してもらうことだ。例えば今シーズン行ったミーティングでは、スタッフを含め全員に紙を渡して「この職業を選んで何を達成したいのか」を書かせ、それぞれにチームに来た目的・理由を明確にさせることで選手としての自覚を促すような作業を実施している。

 「最近の若い選手は学生から直接プロに入ってきて社会人経験がなくていろんなことが分からない子が多いので、人間教育というか、考え方というのを教えていかなきゃいけないなとすごく思っています。やはりその後(引退後)の人生の方が長くて大切なので、そういうことができるチームにしたいなというのを目指しながらチームづくりをしています。

 テクニカルな部分は、外国人選手も含めて実際はNBAのコーチに教えてもらったり、UCLAのコーチに教えてもらったりで、アジア人の背の低いコーチに教えてもらいたくないでしょうから(笑)。そういう部分というのは自由なやり方にしています」

 浜口HC指揮下で4シーズン目を迎えるキャプテンの内海選手は、以下のように同HCのバスケについて説明してくれた。

 「炎さんのバスケットは、基本的にプレーしているのは選手、コートに出て戦っているのは選手というのがあります。まずコートに立つ選手がどういうバスケットをしなければいけないのかを深く理解しないとコートに立てません。その中で今のチームは昨シーズンのチームよりも平均年齢が大分若くなりまして、得点をとるとか、スティールをする、リバウンドをとるというスタッツに現れる部分で活躍をしたとしても、それが大前提ではあるんですけど、それが本質ではないんです。

 実はスコアに現れない部分でディフェンスでコート上でプレーしている最中に正すことができたりだとか、今オフェンスで何をしなきゃいけないのかというのをプレー中にチームに指示できる選手っていうのを炎さんは必要しているというか、もしくはチーム全員がそうなれたら最高なんだと思います」

 内海選手の説明にもあるように、京都の選手たちは浜口HCを介さなくても、コート上でもベンチでも常に対話を重ねている。内海選手以外でも岡田選手、ダブ選手、ジュリアン・マブンガ選手らベテランが積極的に声をかけて、チームとしてどんなプレーをするべきか意思統一を図っている。これこそが浜口流バスケの神髄なのだろう。

 シーズン開幕戦を終えた直後に内海選手は「まだ自信はないが、面白いチームになると思う」と話してくれた。果たして現時点で自信は増しているのだろうか。

 「まだ自信はないです。たぶんこのチームに初めて自信が持てるとしたら、若い選手が活躍し、躍動してくれて、自分が見ていて楽しくなるような…。自分が絶対できないようなプレーをたまに若い選手はするんですよ。すごく跳んだりとか、すごく速いとか。そういうプレーがどんどん出てきてくれると僕も『このチーム強いな』と自信が持てると思うんですけれども、今は若い選手がバスケットを勉強している最中で彼らがそれを経てこれから(プレーに)どう出していけるかが見えてくれば、僕も自信を持っていいチームになったと感じるんじゃないかと思います」

 京都はまだまだ完成されたチームではない。だが浜口HCが選手たちの資質を高め、そして選手たちはベテランが若手に指示を出しながら自らの考えでチームとしてのレベルアップを日々目指し続けている。そして内海選手が話すように、浜口HCの意思を理解したベテランと若手が完全に融合した時こそ、トップチームと互角の戦いができるチームへと進化し、リーグ8強入りを実現できるようになるのだろう。

 浜口HCの挑戦はまだまだ続く…。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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