「13億円援助しろ、情報は開示しない」の「武雄アジア大学」~地方に私立大学が新設できない日・2
◆「武雄アジア大学」構想とは?
このYahoo!ニュースエキスパートでこれまでに取り上げた「武雄アジア大学」構想の続報です。
見た目は前進しつつ、市民の間では懐疑論・否定論が強まりつつあります。
まずは、「武雄アジア大学」構想をご存じない方のためにおさらいを。
佐賀県武雄市に大学新設構想が持ち上がったのは2023年のことでした。
同年6月には佐賀女子短期大学を運営する学校法人旭学園が佐賀県武雄市に4年制大学を2025年に新設、その校名を武雄アジア大学とすることを発表します。
この時点では、現代韓国学部と次世代教育学部の2学部を予定していました。
ところが構想発表のわずか2カ月後の8月に、開設予定を2026年に延期します。
2024年2月には、次世代教育学部をやめて東アジア地域共創学部の1学部体制とすることを旭学園は発表しました。
6月には事業費30億円のうち13億円を武雄市が負担、佐賀県が6億4900万円を補助することでまとまりつつあります。
7月には武雄アジア大学の学長予定者として、国際モンゴル学会会長・国立民族博物館名誉教授の小長谷有紀氏の起用を旭学園が発表。
10月に設置認可を申請し、同時に工事を着工予定です。
◆前進と同時に財務の悪さは変わらず
一見すると、「武雄アジア大学」構想は新設に向けて前進しているように見えます。
しかし、根本的な問題は実は全くと言っていいほど、解決していません。
私が2023年10月9日に公開したYahoo!ニュースエキスパート記事「地方に私立大学が新設できない日~武雄アジア大学構想を例に考える」でも指摘したのが、運営する旭学園の財務状況、そして、競合校との競争力の弱さです。
まず、旭学園が運営する佐賀女子短期大学、佐賀女子高等学校などはいずれも定員割れとなっています(旭学園令和5年度事業報告書4ページ)。
有価証券は、なし。借入金は3.75億円(旭学園令和5年度事業報告書21ページ)。
事業報告書の「経営分析」では「貸借対照表を見ると総資産の額は徐々に低下し、資産が縮小しており、結果的には減価償却分の減額を全ては賄えていない」「貸借対照表の財務比率をみると、前受金保有率以外は、全国平均を下回っている」など、とても大学新設をする学校法人とは言えない、恐ろしい文言が並んでいます。
財務だけではありません。
次世代教育学部を取り下げたとは言え、東アジア地域共創学部は基本的には当初予定していた現代韓国学部とほぼ同じです。
韓国ないし東アジア関連の学部は福岡大学、筑紫女学園大学、九州国際大学(以上、福岡県)、長崎外国語大学、鎮西学院大学(以上、長崎県)、熊本学園大学(熊本県)と近隣の県に6校もあります。
同じ佐賀県の西九州大学は2024年にデジタル社会共創学環を新設。この中にグローバルコースがあり、広義で考えればここも競合校となります。
これだけ競合校がある中で人口が決して多いとは言えない武雄市で学生を恒常的に集められるのか、はなはだ疑問に思わざるを得ません。
◆予算可決後の説明会では問題発言を連発
7月17日には北方公民館(旧北方町)で市民座談会を実施。
このとき、すでに市議会で予算を可決したこともあってか、今村正治・佐賀女子短期大学学長、内田信子理事長が香ばしいと言いますか、問題発言を連発します。
まず、今村学長ですが、「地元周辺の高校生に取った進学希望アンケートや地元企業の卒業生受入アンケートなどは大学の設置申請に関わるものなので市民向けに公開しない」と発言。
これまでの説明会や市民向け座談会では「7月末にデータがまとまるのでそのときに公開する」と発言していましたので大幅な方向転換となります。
内田信子理事長は「武雄アジア大学の学長予定者・小長谷有紀氏が武雄市議会向けの説明で『大学の新設が文科省に不認可となるのは20のうち1つぐらい』と述べておられた」と答弁。さらに、「10月に文部科学省に申請書類を出して、校舎などの建物を作り始めてしまえば、文科省としても『建ててるのにちょっとねー(認可しないのは)難しいよねー』というのが私共が観測的に承っている意見」と発言。
ご本人たちがどのような認識かは不明ですが、なかなかに香ばしい発言です。
◆進学希望アンケートは重要かつ公開案件
まず、進学希望アンケートですが、大学設置認可の厳格化によって、重要なデータとなりました。
2023年10月記事に出しましたが、ここで簡単にまとめておきます。
以前は、アンケートと言いつつ、根拠が曖昧なものでも通っていました。
例えば、大学設置場所と同じ県または隣県でなくても、極端な話、日本全国で調査をかけて見た目は進学希望者が多いようにすることが可能だったのです。
それが厳格化以降は、アンケートをどこで取るのか、客観性があるのか、などが相当、問われるようになりました。
そして、設置認可の書類等は文部科学省が全て公開します。
いずれ公開する書類を、しかも、佐賀県と武雄市に支援を仰ぐ旭学園が「公開しない」とは不誠実に他なりません。
余談ですが、文部科学省高等教育局大学教育・入試課大学設置室は「大学等の設置認可申請書類等の公表ページ」の中で新設校の書類等を公表しています。
2024年新設校の私立大学4校もこの中に含まれます。2024年新設は厳格化前のはずですが、学校法人分科会からの厳しい意見(というか物言い)が付いて、改めてデータを再集計するなど、各校とも苦労しています。この4校はいずれも財務状況などがすぐれている学校法人です。それでも厳しく審査されました。その結果、4校中3校は定員充足となっています(高知健康科学大学は定員70人、入学者54人、充足率77.1%)。
財務状況が厳しい旭学園が審査に耐えられるのでしょうか。
市民に対して「公開しない」とは、これは要するに厳しい審査に耐えられそうにないほどひどいデータを隠しているのでは、と勘繰りたくなります。
何よりも、支援を自治体に求めておきながら市民に公開しないとは「金は出せ、口は出すな」と言っているも同然ではないでしょうか。
◆文科省審査をバカにした理事長発言も
内田理事長の発言も、同様に香ばしいものです。
「武雄アジア大学の学長予定者・小長谷有紀氏が武雄市議会向けの説明で『大学の新設が文科省に不認可となるのは20のうち1つぐらい』と述べられていた」と答弁。さらに、「10月に文部科学省に申請書類を出して、校舎などの建物を作り始めてしまえば、文科省としても『建ててるのにちょっとねー(認可しないのは)難しいよねー』というのが私共が観測的に承っている意見」と発言。
とのことでしたが、過去の話と未来の話を混同されているとしか思えません。
まず、「不認可となるのは20のうち1つくらい」ですが、過去の話としてはその通りです。
2000年代以降で不認可となったのは4年制だと幸福の科学大学(2014年)です。
幸福の科学大学は宗教法人「幸福の科学」が2015年開設を目指して2014年に申請。なお、校舎建設は前年の2013年10月から始まっています。
しかし、大川隆法氏の霊言を教育の根底に据えようとした点が問題視され2014年10月に不認可となりました。
教団側は新設の校舎を使用して2015年に私塾として「ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ」を開設。
その後、学校法人「幸福の科学学園」は2019年に再申請しますが、その後、学校法人側が取り下げています。
この「幸福の科学大学」の不認可を考えれば、内田理事長の「建てているのに認可しないのは難しい」は当てはまりません。
それどころか、文部科学省の審査を相当、バカにした発言です。
財務状況の悪さなど、ただでさえ悪い心証をより悪くしたとも言えるでしょう。
なお、これまでは不認可が少なかったことは確かですが、設置認可の厳格化以降は不認可となる大学が増えることが予想されます。そうした厳しい現実を無視するのは大学経営者の姿勢としていかがなものでしょうか。
◆市民団体アンケートでは72%が反対
この「武雄アジア大学」構想の舞台となっている武雄市では2024年6月に市民団体「武雄アジア大学を考える会」が発足(代表・稲富太郎氏)。
6月27日からアンケート調査を開始したところ、目標の1000件を7月2日に達成しました。
稲富代表は「当初は7月末までかかると思っていたが、想像以上に前倒しで集まった」と説明。
結果は72%が反対。やや反対が10%。賛成は7%・やや賛成が4%。
とほとんど変わりません。武雄市在住者(回答者のうち66%)に限定しても、72%反対・10%やや反対に対して、賛成8%・やや賛成5%とほとんど同じです。
稲富代表は「想像以上に賛成が少なかったのが衝撃的だった。自由記述欄では情報を知りたい、と考えている人が多い印象がある」と述べています。
※自由記述欄はこちらで閲覧可能
◆応援団のはずの地元紙も懐疑論調に
このアンケート結果を地元紙の佐賀新聞が7月22日朝刊に掲載しました。
7月17日の住民座談会と合わせての記事ですが、タイトルでは「武雄アジア大学説明会、市民から理解と懸念の声 地域活性化、経済効果に期待/学生確保、安定経営大丈夫?
情報、説明不足の指摘根強く」と懐疑論を両論併記の形で出しています。
記事では座談会から出た市民の意見として、
「私立大に(市が)約13億円もの税金を出す理由がわからない。」、「韓国エンタメを学ぶ学部が本当にこの地域に必要なのか」、「定員140人の学生を集めることができるのか」、「長期的に安定した経営ができるのか」
なども掲載。
佐賀新聞は中尾清一郎社長が新大学名称検討委員会の一人に入っています。言うなれば応援団的な立場にあるわけです。
その佐賀新聞が懐疑論を両論併記とは言え、掲載するのはそれだけ市民の間で懐疑論、否定論が高まりつつあることを示しています。
この「武雄アジア大学」構想が今後、どうなるかはまだ不透明です。「考える会」アンケートはオンラインによるものであり、武雄市民の総意、と断定することはできません。
しかし、武雄市民の間で懐疑論、否定論が高まりつつあることはよく示しています。今後、推進する武雄市当局、並びに旭学園側が現状のような説明に終始し根拠を示さない場合、さらに懐疑論、否定論が高まっていくことでしょう。
現在、構想を推進する小松市長や市議会議員の政治責任も問われる事態もあり得ます。
実際、過去に大学誘致を巡って、市民に十分な根拠を示せなかった首長がその後の出直し選挙で落選した事例もあります。
さて、武雄市の場合はどうでしょうか?
筆者は今後もこの「武雄アジア大学」構想について注視していきたい、と考えています。
◆加筆修正(2024年7月23日14時)
「武雄アジア大学を考える会」のアンケート結果について「武雄市在住者(回答者のうち66%)に限定しても、72%反対・10%やや反対に対して、賛成8%・やや賛成4%」と記載していました。正しくは「~賛成8%・やや賛成5%」でしたので修正します。