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ナポリ、脱サッリでアンチェロッティ色に 「イタリア最高の選手」とユーヴェに挑戦

中村大晃カルチョ・ライター
10月2日、CLリヴァプール戦前日会見でのアンチェロッティ監督とインシーニェ(写真:ロイター/アフロ)

マウリツィオ・サッリがナポリでつくり上げたサッカーは、あのジョゼップ・グアルディオラの敬意を勝ち取るほどに磨き上げられていた。その美しさは、世界中で称賛された。

ただ、就任1年目のサッリが出だしで躓き、酷評されたのを覚えているだろうか。黒星発進で開幕から3試合勝利がなく、ナポリの英雄ディエゴ・マラドーナから散々にこき下ろされたのだ。

変革のきっかけは、4節でシステムを4-3-1-2から4-3-3に変えたことだった。ゴンサロ・イグアインを中心に、ホセ・マリア・カジェホンとロレンツォ・インシーニェ、ドリース・メルテンスらが両翼を務めるトリデンテ(3トップ)が花を咲かせ、イグアインは66年ぶりにリーグ得点記録を更新した。

イグアインが去り、アルカディウシュ・ミリクが長期離脱を余儀なくされても、サッリはメルテンスのストライカーとしての才能を開花させ、魅力的な攻撃を続けた。ユヴェントスから王座を奪うには至らなかったが、ナポリの前線が世界のサッカーファンを魅了したのは前述のとおりだ。

◆前任者と同タイミングでの変革

だが、アウレリオ・デ・ラウレンティス会長は、それだけのサッカーを構築したサッリに見切りをつけ、カルロ・アンチェロッティを招へいした。そして、イタリアが世界に誇る名将は、少しずつチームをサッリ色から自分のものへと染めつつある。

運命なのか、きっかけは、やはり4節でのシステム変更だった。サンプドリアに0-3とまさかの完敗を喫したのを機に、アンチェロッティは4-3-3から4-4-2にフォーメーションを変えたのだ。インシーニェをより中央に置き、カジェホンはウィングからサイドハーフにポジションを移した。

この決断が奏功し、ナポリは以降の公式戦7試合で5勝1分け1敗と好調を維持。王者ユーヴェとの直接対決を落とし、勝ち点6差をつけられてはいるが、リーグでは2位につけている。

また、チャンピオンズリーグでは、圧倒的な攻撃力を誇る昨季のファイナリスト、リヴァプールを枠内シュート0本にシャットアウト。会心の勝利には、多くの賛辞が寄せられた。

◆地元出身のアイドルが国内最高の選手に

アンチェロッティによる改革で恩恵を受けている一人が、地元出身でサポーターのアイドルであるインシーニェだ。ここまで、得点ランク2位となる6ゴールでチームの得点王。キャリアハイを上回るペースでゴールを量産している。

指揮官がインシーニェのポジションを変えたことについて、パオロ・コンドー記者は『ガゼッタ・デッロ・スポルト』で、グアルディオラがリオネル・メッシを右ウィングから中央に移したのに似ていると指摘する。『コッリエレ・デッロ・スポルト』は、アンケートでインシーニェが現在のイタリア人ベストプレーヤーに選ばれたと伝えた。

ただ、8節を終え、インシーニェのプレー時間は昨季の688分から580分と大きく減っている。アンチェロッティは、インシーニェを全試合で起用しているが、使い方をコントロールしているのだ。このマネジメントが、サッリとアンチェロッティの決定的な違いの一つと言えるだろう。

◆ターンオーバーで層に厚み

トリデンテや主将マレク・ハムシクに絶対の信頼を置いていたサッリは、レギュラーを完全に固定していた。過密日程の中でもメンバーを変えず、時には欧州カップ戦を軽視するような言動もみられ、アウレリオ・デ・ラウレンティス会長の不満の一つにつながっていた。

対照的に、アンチェロッティは多くの選手を起用し、主軸の負担を減らそうとしている。セリエAの8試合すべてでフル出場したのは、カリドゥ・クリバリただ一人。開幕時のレジスタ起用が機能しなかったハムシクは出場機会やプレー時間が減り(571分→383分)、ピオトル・ジエリンスキが出番を大きく増やしている(299分→600分)。

特に顕著なのが、サッリ時代の看板だったトリデンテだ。ミリク(89分→417分)の復帰も影響しているが、前述のインシーニェに加え、メルテンス(636分→406分)、カジェホン(648分→451分)と、3人で合計535分もプレー時間が減った。

一方で、サッリ政権下で冷遇されていたニコラ・マクシモビッチやマルコ・ログ、アダム・ウナスといった選手たちは、少しずつ出場機会を手にしている。

ファブリツィオ・ボッカ記者は『レプッブリカ』で「アンチェロッティはつねに同じ選手に頼るのではなく、様々な解決策を用いて、より幅広いチームの戦い方をつくっている」と分析した。

「ターンオーバーによって、アンチェロッティはインシーニェを最高のタイミングで使い、その才能を最大限に生かすことができる。同時に、ウナスに早く経験を積ませ、急成長させることができる」

◆会長は夢をあきらめず

ターンオーバーの効果がより顕著になるのは、シーズンが佳境に入ってからだ。もちろん、それまでナポリがユーヴェとタイトルを争い続けていられるかは分からない。だが、デ・ラウレンティス会長は先日、『コッリエレ・デッロ・スポルト』のインタビューでこう話している。

「8節が終わったところで、リーグの行方は決まったと思うのか? ユヴェントスが壊れるタイミングもあるかもしれないじゃないか」

ユーヴェは開幕から8連勝を飾り、CLも含めれば開幕10戦全勝と破壊的な強さだ。それだけに、8連覇は濃厚との声が早くも強くなっている。生まれ変わりつあるナポリは、9年ぶりに母国に戻ってきたアンチェロッティの下で、王者にどこまで挑むことができるだろうか。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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