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ドル円は148円を突破。日銀は追い込まれ、一気に金融政策の正常化を進めざるを得なくなることも

久保田博幸金融アナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 20日の引けあと、ドル円はさらに上昇し(円安ドル高)、一時1ドル148円台と2022年11月以来およそ10か月ぶりの安値をつけた。20日のFOMCでは利上げは見送られる予想となっている。しかし、年内の再利上げの可能性もあり、FRBによる金融引き締めの長期化観測を背景に米長期金利に上昇圧力が加わっていることもドル高の背景にある。19日には米長期金利が4.37%と、2007年11月以来、15年10か月ぶり水準に上昇した。

 21日、22日には日銀の金融政策決定会合を控えているが、7月に決めたイールドカーブ・コントロールの運用柔軟化の効果を見極めるため、市場では一段の政策修正は見送るとの見方が多い。これにより日米金利差が拡大するとの見方も円安ドル高の背景となっている。

 ここにきての円安を受け、財務省の神田財務官は20日、外国為替相場で進む円安に関し「海外の当局、とりわけ米当局とは日ごろから極めて緊密に意思疎通を図っており、過度な変動が好ましくないとの認識を共有している」と述べた。「行き過ぎた変動に対しては適切な対応を、あらゆる手段を排除せずにとる」と強調した。

 しかし、円安ドル高の根本的な原因が、日銀が頑なに大胆な金融緩和を継続していることにあるのは明白であり、ここを調整しない限り、たとえドル売り介入を行っても効果は一時的となってしまう。政府の保有する外貨準備にも限度はあり、無駄撃ちは避けたいところであろう。たとえば日銀の正常化とタイミングを合わせての為替介入であれば、ある程度の効果は期待できる。

 西村康稔経済産業相は19日の閣議後会見で、日銀の金融緩和は「時間を買う政策」だとの見解を改めて示した上で、世界的に物価が上昇する中で緩和は「どこかで終了し平常化していく」と述べた。これはこれまで日銀の緩和姿勢を擁護していたようにみえた政府関係者の発言としては異例のようにみえる。しかも西村氏は安倍派に属するというか、安倍氏の側近であったことを考慮すると、政府による日銀の金融緩和に対する見方が変化してきていることが窺える。

 こうなると日銀の現在の姿勢を擁護する向きが、次第にいなくなり、外堀が埋まりつつある夏の陣ということにもなりかねない。そもそも植田日銀総裁はマイナス金利政策に対しては懐疑的であったはずである。財務省としてもマイナス金利政策やイールドカーブコントロールについては解除すべきとの意向ではないかと思われる。

 9月9日の植田日銀総裁の読売新聞とのインタビュー記事(1面、3面、9面に掲載、インタビュー要旨も掲載)を見た私の印象として、日銀がマイナス金利解除を視野に入れつつあるというか、入れざるを得なくなってきたと判断した。

 11日に「日銀は総裁インタビューを通じて年内のマイナス金利政策解除の可能性を示唆、9月の会合での修正の可能性も」という記事を私はヤフーニュースにアップしている。ここでは下記のように指摘した。

 昨年12月と今年7月の長期金利コントロールの上限引き上げも、日銀が円安に対して無回答はありえないための修正とみることができる。しかし、日銀は金融政策の方向性は変えず、正常化も拒否しているような格好であり、そこをさらに市場につかれ、再び円安が進行してきた。

 これに対処するには、日銀が頑として拒否してきた金融政策の方向性を変える以外になく、その結果、マイナス金利解除を視野に入れざるを得なくなったとみられる。たとえば、公表文の最後の文章の「必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」の修正あたりからの可能性はある。むろん、マイナス金利政策の解除の可能性も十分にありうるというか、これが本命である可能性がある。

「日銀は総裁インタビューを通じて年内のマイナス金利政策解除の可能性を示唆、9月の会合での修正の可能性も」

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/e564d841c6bf3437dfb686cc9d468e5e870c7c39

 この記事を書いて以降の15日、ブルームバーグは、日本銀行の植田総裁の発言を受け、市場でマイナス金利政策の解除など早期の政策正常化観測が強まる中、日銀内では発言内容と市場の解釈とのギャップを指摘する声が出ている。事情に詳しい複数の関係者への取材で分かったと伝えた。

 こういった記事が出るであろうことは想定していた。7月にも同様のことがあったためである。あまり市場に一方的な思惑を強めさせないための配慮というのが私のブルームバーグの記事に対する見方であった。

 22日の日銀の金融政策決定会合の結果が、ここにきての動きによって、さらに注目されることになりそうである。

 ガイダンス修正の可能性については、指摘する市場参加者も出てきたように、その可能性は高い。しかし、それだけで果たして済まされるのか。

 日銀の言うところの物価や賃金の見通し云々はさておき、現実の国内物価はすでに上昇を続けており、それには円安の影響も大きい。これによって、これまで日銀の異次元緩和を擁護していた政府の姿勢も変化してきた。

 そうなれば、欧米との金融政策の方向性の違いもあり、頑なな日銀が四面楚歌に陥ることも予想される。それを打破するには一気に正常化を進める以外に方法はない。ガイダンスをいったん修正すれば、正常化の流れが加速することも予想される。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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