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ラグビーの神様の存在を実感させる福岡堅樹の完璧すぎるラグビー人生

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
リーグ優勝を決め観客席に手を振る福岡堅樹選手((c)JRFU)

【誰も経験していない花道を飾った福岡選手】

 これまでMLBを中心に様々な競技の取材に携わってきたが、事前にシーズン限りの引退を表明し、自らの活躍でチームをリーグ優勝に導き、さらに自身もMVPを受賞するという夢のような花道を飾ったアスリートに、これまで一度もお目にかかったことはなかった。

 そんな漫画の主人公のようなシナリオを現実のものにしてしまったのが、2019年のラグビーW杯で日本を感動の渦に巻き込んだ、日本代表を象徴する存在の1人、福岡堅樹選手だ。

 5月23日のプレーオフトーナメント決勝で、パナソニックがサントリーを下し5シーズンぶりの優勝を決めた後、日本代表でチームメイトだった山中亮平選手が福岡選手に対し、「ジャンプかなんかの主人公なんかな?」と評するほど、同じラグビー選手からも感心されるような競技人生の締めくくり方をしている。

【福岡選手「運を持っていたのかな」】

 あまりに完璧すぎる現役生活の終え方を、福岡選手はどう感じているのだろうか。24日に行われたトップリーグの年間表彰式に出席した後、オンライン会見に臨んだ彼に直接聞いてみた。

 「そうですね。本当に振り返ってみると、素晴らしい周りの仲間たちだったり、環境に恵まれていたなと…。そういった意味では運を持っていたのかなと思います。

 自分の中で挫折だったり、選択をいろいろと変えて、自分の人生をいろいろとやってきましたけど、その中で自分が後悔するような選択というものは1つもないので、それがこういった自分自身が満足のいくラグビー人生に結びついているのかなと思います」

 福岡選手の言葉を聞き、どうしても信じたくなってしまうのが、彼が表現する“運”というものこそ、ラグビーの神様に導かれたものではなかったのだろうか。

【ラグビーの神様に導かれたようなラグビー人生】

 福岡選手が「もし現役で医学部に合格していたら今の自分はいなかった」と公言しているように、医学部受験に失敗しなければ彼のラグビー人生は高校で終わっていた。

 これまで努力を惜しまず目標を達成し続けた福岡選手の人生を考えると、むしろ現役合格できなかったのが不思議でさえある。

 むしろ「まだラグビーを止めるのは早過ぎる」と考えたラグビーの神様が、敢えて受験に失敗させることでラグビー継続へと導いたと真剣に信じている自分がいる。

 そんな神様の思いに応え、濃密すぎる現役生活を送ったからこそ、新型コロナウイルスの影響で福岡選手の考えていたような終わり方にはならなかったが、こうした素晴らしい結末を用意してくれたのではないだろうか。

【福岡選手への未練を断ち切れない報道陣】

 だが「ラグビーに関してはすべてやり切った」と断言する福岡選手に対しメディアの人たちは諦め切れていない。

 今回のオンライン会見だけでなく、サントリー戦後のオンライン会見でもメディアから「本当に止めてしまうのか?」とか、「決勝戦翌日でラグビーがしたくなった?」、「医歯薬リーグでプレーするつもりは?」などの質問が相次いだ。

 福岡選手が翻意しないのは百も承知の上だが、自分も含め多くのメディアが、これで福岡選手のプレーが見られなくなる寂しさを抱えているのだ。

【一生途切れることはないラグビーとチームへの愛】

 実はそんな福岡選手が、プレーオフトーナメント準々決勝後に微妙な発言をしているのをご存知だろうか。

 この試合はパナソニックのホームグラウンドである熊谷ラグビー場で実施されたのだが、地元ファンを前にして試合後インタビューで以下のように話している。

 「僕自身は最後にこのグラウンドでプレーすることはないかもしれないですけど…」

 この発言についても、福岡選手の真意を確認してみた。

 「僕自身はこれまでラグビーに本当にお世話になってきましたし、ワイルドナイツ(パナソニックのチーム名)にも感謝をしてもしきれない思いがありますし、何かしら自分自身が貢献できることがあれば、そういうところで少しでも貢献はしたいなと思います。

 プレーヤーとしてというのは、やはりしないと思いますけど、基本的にそういうところで少しでも何かラグビーへの発展に貢献できればという気持ちは持っています」

 これから医学の道に進んでも、福岡選手のラグビー愛、パナソニックへのチーム愛が消えることは絶対にあり得ない。

 そしていつの日か、我々の前にその雄姿を見せてくれる日が必ず来ると信じている。そして最後に…。素晴らしいプレーをありがとう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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