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裏ガネ捜査は安倍官邸による検事総長人事介入への復讐劇なのか? 黒川裁判の証人尋問から見えた検察と政治

赤澤竜也作家 編集者
左から徳井義幸弁護士、上脇博之教授、阪口徳雄弁護士、長野真一郎弁護士(筆者撮影)

はたして検察庁は政治権力から独立できているのだろうか? そもそも大物政治家を罪に問うことができるような仕組みになっているのか?

大阪地裁での異例の証人尋問を聞き終え、そんな感想を抱いた。

連日、自民党各派の政治資金パーティ収入をめぐる報道が止まらない。東京地検特捜部は最大派閥の清和政策研究会(安倍派)からパーティ券販売ノルマ超過分のキックバックを受け、裏ガネ化していた疑いのある所属議員側を一斉に聴取しはじめたと報じられた。疑惑は深まる一方だが、はたして特捜部は裏ガネ問題の元締めである自民党の派閥幹部を立件できるのだろうか? 

検察幹部の任命は内閣の専権事項となっていて、形の上では政府に人事権がある。

法務・検察と政治との関係は微妙なものがあり、安倍政権下において、側近である甘利明経済再生相の利益供与事件や、昭恵夫人の関与が指摘されていた森友学園事件においての国有地の払い下げをめぐる背任、それにからむ公文書改ざん事件、桜を見る会問題についての安倍晋三元首相の嫌疑、いずれも特捜部が不起訴としたため国民の怒りを買った。

今回、特捜部は安倍派を集中的に捜査していると報道されているが、かつての安倍官邸は検察庁トップの人事を壟断しようとした。黒川弘務東京高検検事長の勤務延長問題である。

パーティ券裏ガネ問題のキッカケとなる刑事告発をした上脇博之神戸学院大学教授が原告となって行われている、黒川弘務東京高検検事長の勤務延長をめぐる行政文書の不開示取消訴訟で、12月1日、元仙台高検検事長・辻裕教(ひろゆき)氏の証人尋問が行われ、異例の顛末をたどった騒動の一端が明らかになった。

その尋問内容をあらためて検証したうえで、検察と政治の関係、そして自民党パーティ券裏ガネ問題の捜査の行方について考えてみたい。(肩書きは当時のものを使用)

原告弁護士は『安倍晋三回顧録』を読み上げた

黒川検事長の勤務延長が決まる前後、法務事務次官だった辻裕教氏への反対尋問において、原告弁護団の徳井義幸弁護士は、証拠提出した『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)の一節を読み上げた。

「安倍総理の回顧録には、『黒川さんの定年延長を求めたのは、辻裕教法務事務次官と、当時の稲田伸夫検事総長ですよ。稲田検事総長が2020年4月に京都で開かれる国際会議に出るので、後任含みの黒川氏の定年を延長したいという説明でした。だから1月に黒川さんの定年延長を決めたのです』と書かれています。この本は総理の発言をまとめたものですよ。これ、事実ですよね?」

安倍晋三元首相は回顧録において、みずからの意思で黒川検事長の勤務延長を決めたのではなく、あくまでも法務・検察の意向だったと述べている。

2020年当時、世間はそうは見ていなかった。

黒川検事長の勤務延長が決まったころ、安倍首相は森友学園事件、加計学園事件に続く桜を見る会疑惑で激しい追及を受けており、刑事告発の動きもあった。

マスコミや野党は安倍氏に捜査の手が及ばないよう、使い勝手のいい黒川氏をトップに据えようとしたのだと猛反発。安倍内閣の支持率も急落した。

「本当は安倍官邸に強く言われたため、しかたなく法務事務次官としてこんな強引な勤務延長を決めたのではないか」と、徳井弁護士は聞きたかったのである。

首相の回顧録で言及された当の本人である辻証人の答えはどんなものだったのかというと、

「個別の人事のプロセスに関わることになりますので、職務上の秘密としてお答えを差し控えさせていただきます」

と、証言拒否だった。

官邸との関わりは「お答えを差し控えます」の一点張り

法務省、最高検察庁、東京高等検察庁、東京地方検察庁などが入る中央合同庁舎第6号館 A棟。法務事務次官は検察庁からの出向者が就くのが通例。他省庁では事務方トップだが、法務・検察では5番目くらいに位置する
法務省、最高検察庁、東京高等検察庁、東京地方検察庁などが入る中央合同庁舎第6号館 A棟。法務事務次官は検察庁からの出向者が就くのが通例。他省庁では事務方トップだが、法務・検察では5番目くらいに位置する写真:西村尚己/アフロ

事ほど左様に、辻証人は官邸関連についての質問は一切の証言を拒み続けた。

「法務省としては黒川さんの勤務延長をすると、事前に官邸に対して折衝、報告するのは間違いないですよね」

「そのあたりは人事のプロセスに関することでありまして」

「なんでこれが人事のプロセスになるの?」

「人事上のプロセスにあたると考えておりますので、そのあたりはお答えを差し控えさせていただきます」

「ある日、突然、決まるわけじゃないでしょ。事前にやりとりをするかどうかは職務上の秘密じゃないんじゃないですか?」

「具体的に人事案がどういう風に固まっていくかというプロセスに関する質問ですので、人事上の秘密にあたると思いますので、お答えは差し控えます」

「なにも具体的な人事について問うているわけじゃないんじゃないですか?」

「適材適所ということで策定していくのですが、その過程においては、いろんな情報をいろんな方から得て考えておりますので、誰から情報を得ているか明らかになりますと、過程に当たるかもしれませんということから、そのプロセスを明らかにすることは職務上の秘密にあたると考えておりますので、お答えは差し控えたいと思います」

あるいは、徳井弁護士が、証拠申請していたジャーナリスト村山治氏の『安倍・菅政権VS検察庁 暗闘のクロニクル』(文藝春秋)の一節を読み上げた際のこと。

「この本のなかでは、『皇室で行われる大嘗祭の中心的祭事・大嘗宮の儀が(2019年)11月15日に終わるのを待って辻は、次期検事総長人事の相談で官邸を訪れ、意向を探った。やはり官邸側は黒川検事総長を強く望んだ。辻は人事課長の濱克彦ら法務省幹部と相談し、最終的に黒川を次期検事総長に起用することを決めたとみられる』と書かれていますが、この時期に、次期検事総長人事のために官邸側と会ったことはありますか?」

「少なくとも週一回、次官連絡会議というものに参りますので、官邸には行っていましたが、人事の件については職務上の秘密に該当すると思いますので、お答えを差し控えさせていただきます」

「証言拒否と、こういうことですな」

「はい」

というようなやり取りがあるなど、安倍官邸との交渉についてはひと言も語らなかったのである。

矛盾点を突きつけるも、そつなく回答する辻証人

この問題が起こった当時、検察官の定年は検事総長が65歳、そのほかは63歳となっていた。国家公務員法には最大3年の勤務延長を認める規定があったのだが、検察官には適用されないと解釈されていた。

ところが安倍政権は2020年1月31日、黒川氏の勤務を半年間延長すると閣議決定する。法律の解釈を変更したというのだ。

東京高検検事長・黒川弘務氏の定年は同年2月8日。その直前の出来事だった。「安倍官邸の意向により、ドタバタで『黒川氏のために』解釈変更したのではないか」というのが、原告側の主張である。

一方、被告・国は「検察庁法改正のための議論のなかで、従来の解釈を変更するのが至当であるとの結論に至り、1月16日、法務省刑事局の担当者が辻裕教事務次官にメモを提出。翌1月17日に協議書を作成して内閣人事局や内閣法制局、人事院とすり合わせし、1月24日に解釈変更を確定。1月29日に閣議にかけるよう求め、1月31日に閣議決定した。あくまでも法案改正の過程のなかでの解釈変更である」という主張だった。

徳井弁護士はこのあわただしいスケジュールについて問いただした。しかし辻証人は「通常国会に改正検察庁法を提出しなくてはならなかったため、解釈の変更の確定もまた急がざるを得なかった」と回答。

解釈変更をめぐる書類が文書決裁されていない点については、「法案改正のための解釈変更だったので、当時の法務省行政文書取扱規則に定められた方法による決裁が必要であるとは認識していなかった」と答えた。

「2019年の10月末までは検察官には国家公務員法の適用はないという法案を用意していたにもかかわらず、わずか2ヵ月の間で過去40年間維持してきた解釈を突如変えざるを得なかった必要性や実質的な理由は?」と問われると、「そもそも適用できない理由を書いた文献や資料も見当たらなかった。以前の検討が足りなかったからだ」と切り返す。

質問を聞いていると確かに当時の法務省の動きに不自然だなと思わせる点が多々あるのだが、それに対する辻証人の言い分にも一貫性はあり、整合性がないとまでは言い切れない。文書の作成者などについての問いは「覚えていない」と答えることも多く、あくまでも私見であるが、途中までは一進一退といった感があった。

なお辻証人は裁判官の方を向いているため、傍聴席からその表情はうかがえなかったものの、どの質問に対しても聴き取りやすい声でよどみなく答えており、さすが法務省刑事局長として国会答弁の修羅場をくぐってきた人だけのことはあるなと感じさせるものがあった。

解釈変更の文書は口頭決裁されていた

裁判に甲2号証として証拠提出された法務省の文書(1枚目のみ)。関係機関との協議に用いられたとされていて、被告・国は行政文書であると認めているが、日付も作成者の名前も入っていない(弁護団提供)
裁判に甲2号証として証拠提出された法務省の文書(1枚目のみ)。関係機関との協議に用いられたとされていて、被告・国は行政文書であると認めているが、日付も作成者の名前も入っていない(弁護団提供)

風向きが変わったのは2人目の尋問者である長野真一郎弁護士の質問がはじまり、しばらく経ってからのことである。

「あなたの陳述書の3ページには『甲2号証の文書の内容を確認し、異論なしとしました』とあります。その後、法務大臣にも報告し、口頭で了解を得た、ということですね」

「はい」

甲2号証の文書とは、1月17日に法務省内で作成され、人事院、内閣法制局、内閣人事局などの関係機関との間で協議に用いられたとされるペーパーのことである。2020年の通常国会においても、この文書をめぐって質疑が紛糾した。

「次官のあなたも、法務大臣も、すべて口頭決裁であり、法務省内の手続としては、この解釈変更を決裁したことを示す文書はなにも作成していないということですね?」

「いわゆる文書による決裁というものは行っていないです」

重要な決裁がすべて口頭で行われたという点もまた当時の国会で揉めに揉め、森雅子法相の答弁が火だるまとなった。

ここから長野弁護士は周到に前提を確認し続ける。

「1月24日、関係省庁から本件解釈変更について異論がないという回答を得て政府見解が確定したと、主尋問で述べられたので聞きたいのですが、本件解釈変更が政府見解となったということ自体について、閣議決定はなされていますか?」

「なされていないです」

「黒川検事長に適用するという閣議決定はあったけど、本件解釈変更について閣議決定はない?」

「はい」

「1月24日に政府見解確定はあなたの証言では、黒川検事長だけではなく、検察官全体に適用される解釈変更ですね?」

「一般的な解釈です。はい」

「特定の検察官について勤務延長適用できるんだという内容の政府見解ではありませんね」

「はい」

「そこでおうかがいします。この政府見解は法律案の改正ではなく、解釈の変更であり、その後予定していた通常国会の審議の前にも検察官に適用できるというものですよね」

「その時点で適用できるようになったということです」

「法律案の改正とは別に、独立した法効果を持つものとして、本件解釈変更が政府見解として成立したと。こういう理解でいいですか?」

「はい」

長野弁護士がなにを聞こうとして、これほどまでに外堀を埋めていくのか、まだ見えてこない。

法的効力を持つ解釈変更に経過説明の文書がない?

ここから尋問は急に人事の話に飛ぶ。

「将来、あなたも次官からの人事異動がありますよね」

「はい。いずれは」

「法務大臣も将来、どっかの時点で交代するということはわかっていましたよね」

「はい」

「本件解釈変更に関与した法務省刑事局の職員も人事異動で交代するとあなたはわかっていましたね」

「はい」

ここで長野弁護士は一気に核心に踏み込んだ。

「この政府見解、および法務省内での解釈変更が、決裁されて確定したんだということを示す文書がないのは、将来の検察官の人事を担当する責任者や担当者は困るのではないですか。口頭ではなく、ちゃんと決裁されたということをどうやって知るんですか。みんないなくなって、この甲2号証の文書が正式な決裁を受けた文書だと、認識できますか?」

甲2号証は検察庁法改正法案の策定の過程で作られた文書であるというのが国の説明だ。だから文書決裁の必要もなく、口頭決裁で問題ないと言っている。しかし、この書類を用いて関係各庁の了解を得て法律の解釈変更を確定させたあと、黒川検事長の勤務延長に適用している。であるにもかかわらず、甲2号証には「検察官には国家公務員法の勤務延長規定が適用できる」とだけしか書かれていない。

法律の解釈を変更したことがわかる書類が、当時の法務省にはなかったのである(ちなみに国会が大紛糾した後である2020年7月22日になって、平仄を合わせるかのような「経緯文書」を作成はしている)。長野弁護士は「のちのちの人事担当者はどうやってこの事実を知るのか?」と問いかけたのだ。辻証人の答えは、

「法改正(検察庁法)の前提として行われたので、こういう経過だったと担当者間から引き継がれていくと思います」

「法改正は3月に国会に提出して、成立しなかったですよね。反対論が出て撤回しましたよね。甲2号証が使われた法律が成立したのなら、公布もされるし施行時期も確定してあとの法務省の人も理解できるんですけれども。法律の成立と関係なく甲2号証が関係省庁の同意を得て政府見解として確定し、法律改正とは別に法律上の効果を持つと、あなたは証言されているんでしょ」

「はい」

「実際に黒川さんに適用され、法効果があった。あなたや大臣がいなくなったあと、この文書(甲2号証)が正式に決裁された文書であることを文書で確認できますか」

「担当者間で引き継がれると」

「文書がないと引き継ぎできませんよね」

「引き継がれていくと思ったんだと思います」

原告弁護団は安倍官邸の圧力により、辻法務事務次官と一部の刑事局幹部が独走して勤務延長を決めたと見立てているのだが、辻証人は「思ったんだと思います」とあくまでも刑事局がやったことだと逃げた。しかし、法的効果があり、実際の人事に適用された解釈変更の内容が、あとからまったく検証できないようになっていたことについての合理的説明はなされなかった。

法律をつかさどる法務省が規則を守っていない!?

3人目の尋問者である阪口徳雄弁護士は当時の法務省行政文書管理規則運用細則を示した。

「(法務省が行政文書を作成する際は)5、作成の(2)には『原則として件名を付ける』とありますね」

「はい」

「(3)においては、『件名は文書の内容を簡潔に表現するものとし、通達、通知、照会、回答その他の文書の性質を表す言葉を括弧書きにする』とありますね」

「はい」

「甲2号証には件名は記載がありますが、文書の性質を表す言葉の記載がありませんね。なんで書いてないんですか?」

「文書は法令に従って適正に作成されなくてはならないのですが、担当は刑事局でありまして、わたしは次官であり、任せていたということであります」

「刑事局の人も守らなくてはならない文書ですよね」

「どのように判断したかは承知していない」

またしても1月17日に作成され、他省庁との協議に用いられた文書(甲2号証)が俎上にのぼった。法律をつかさどる法務省が行政文書を正しい書式で作っていなかったのではないかという指摘である。この部分についても辻証人は「刑事局の責任であり、わからない」と答弁した。

あるいは法務省が人事院から受け取った、「解釈変更には異論がない」と記載された別の文書について、

「この文書はいつ受け取ったんですか?」

「1月24日です」

「この書類もあとになっていつ受け取ったかは(日付入りの受付印がないので)わからないですよね」

「刑事局の業務ですので、直接わたしが受け取りましたが、担当のものに『こういう回答であった』と手渡した。委ねたということです」

「じゃあ法務省行政文書取扱規則の第10条2項に基づき、受付番号を記入したり、日付を押すとかは、刑事局がするんですか」

「条文を見ていないので、よくわかりませんが、刑事局において適切に対応するという認識です」

辻裕教事務次官みずからが人事院に赴き、事務総長から直接手渡されたと認める文書には収受印が押されていない。省庁間の公文書の受け渡しには各省庁において取扱いのやり方が定められているのだが、守られていなかったのではないかという指摘に対しても、答えることができていない。

こういったやり取りが行われた際、傍聴席からは見えなかったが、阪口弁護士によると、辻証人は気色ばんだ様子だったという。

裁判長は「第三者的な印象として違和感がある」と言った

その後、左陪席の太田章子裁判官から、

「今回の甲2号証は法律の成立を待たず、政府見解として確定し、すぐに適用化されています。(正式な文書による)決裁を要するという解釈もあり得ると思うのですが?」

と、まさに長野弁護士の指摘と同様の疑問が呈された。

それに対し、辻証人は、

「作った段階ではすぐ適用するとは考えていないから」

と答えた。実際は、即座に黒川氏の勤務延長に対して適用されているのにである。

徳地淳裁判長からは、

「第三者的にみると2月8日の黒川の定年退職に間に合わせるように1月の半ばから急いで解釈変更したように見えなくはない。そういう第三者的な見方についてはどう思うか?」

と問われ、

「特定の検察官の勤務延長を目的とはしていない」

と答えるにとどめる。裁判長はさらに、

「重ねて第三者的な印象なんですけれども、法改正が実現してからするのならわかるのですが、先取りして勤務延長したことに違和感を覚える。法務省内で改正してから適用しようというような議論はなかったのですか?」

と問いかけた。

それに対し、辻証人は、

「具体的な人事に関わってくるので答えにくい。適用可能だと解釈変更をして、要請があって適用したということです」

と話すにとどまった。

特捜部は安倍派幹部を罪に問えるのか?

証人尋問が終わったが、結局、辻証人は検察庁トップの人事が、政治の影響を受けたか受けなかったのかについて、なにも語らなかった。

しかし、黒川検事長の勤務延長が通常の行政ではあり得ないほど、極めて異様、異例な手続を経て行われたものであることは浮き彫りになった。

マスコミ各社の報道を総合すると、当時の法務・検察の総意は林眞琴名古屋高検検事長を東京高検検事長に異動させたうえ、検察トップである検事総長に据えるというものだった。実際、黒川弘務氏が麻雀賭博報道で職を辞したのち、そのような人事が行われている。

黒川検事長の勤務延長はたびかさなる安倍官邸の圧力に法務・検察が屈し、泥縄で行われたものではなかろうか、検察庁トップの人事に対し、容易に政治の介入を許してしまったのではないか、という疑念は払拭できていない。

そんな検察がはたして安倍派幹部の犯罪を立件することなどできるのだろうか?

逆に、こうも考えることができる。

黒川検事長勤務延長問題において、法務・検察の威信は失墜した。本当かどうかは別として、一部の報道は黒川氏を「官邸の守護神」と喧伝しており、実際、安倍首相がらみの案件は一切摘発できなかった。

いまこそ国民の信頼を回復すべく、安倍元首相が残した負の遺産の解明に検察の総力を傾けているのではないか。かつて安倍官邸に煮え湯を飲まされたことに対する意趣返しをしようとしているのではないだろうか。今回の捜査は法務・検察の人事にさんざん口を挟んできた仇敵に対し、3年半の月日を経て行う復讐劇ではなかろうか。

自民党パーティ券裏ガネ問題の告発者であり、黒川検事長勤務延長をめぐる不開示決定取消訴訟の原告でもある神戸学院大学・上脇博之教授に話を聞いた。

--法務・検察が安倍官邸からの圧力に屈したのではないかとうかがわせるような証人尋問を導く情報開示裁判を起こした上脇先生が、一方では特捜部に政治とお金の問題をキッチリ捜査するよう告発状を提出されたわけなんですけれども、真相究明に至ることができるとお考えですか?

「これだけの事態になると政治家までやらざるを得ないでしょう。中途半端に事務方だけとかだと、多くの国民は許さないんじゃないでしょうか。裏ガネ作りは組織的に行われていますから、当の政治家がまったく知らないはずはない。事務方だけでは絶対にできないわけで、清和政策研究会(安倍派)上層部の意思があった。そういう人まで立件してほしいです」

「いまは政治資金パーティを自粛しています。でも、ほとぼりが冷めたらまたやるつもりでしょう。今回の件をうやむやにし、一部のものだけの責任にしてしまったら、似たような形で繰り返されるのは間違いありません。法的責任をきちんと問うてもらい、その上で、政治責任の追及や制度改革にまで持って行かなくてはなりません」

検察の捜査に注目しつつも、政治資金の問題はあくまでも国民ひとり一人の問題であるということを忘れてはならない。

作家 編集者

大阪府出身。慶應義塾大学文学部卒業後、公益法人勤務、進学塾講師、信用金庫営業マン、飲食店経営、トラック運転手、週刊誌記者などに従事。著書としてノンフィクションに「国策不捜査『森友事件』の全貌」(文藝春秋・籠池泰典氏との共著)「銀行員だった父と偽装請負だった僕」(ダイヤモンド社)、「内川家。」(飛鳥新社)、「サッカー日本代表の少年時代」(PHP研究所・共著)、小説では「吹部!」「白球ガールズ」「まぁちんぐ! 吹部!#2」(KADOKAWA)など。編集者として山岸忍氏の「負けへんで! 東証一部上場企業社長VS地検特捜部」(文藝春秋)の企画・構成を担当。日本文藝家協会会員。

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