「報復殺人」で警察官70人が犠牲も…金正恩体制の“秩序崩壊”
暴言、暴行、そしてワイロ要求など、その横暴な振る舞いから、国民の怨嗟の的となっている北朝鮮の安全員(警察官)。
しかし、彼らとて気楽に過ごしているわけではない。恨みを買った安全員が報復される事件が多発しているからだ。韓国のリバティ・コリア・ポスト(LKP)によると、1年間に全国で安全員に対する報復と見られる殺人事件が70件超も起きた例もある。
最近、同様の事件がまた起きたが、市民が同情を示すことはないと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
両江道(リャンガンド)の情報筋によると、事件が起きたのは今月6日午後2時ごろ。恵山(ヘサン)市の外れにある春洞(チュンドン)の洞事務所(末端の行政機関)前で、町内在住のチェさんが、春洞分駐所(派出所)の安全員2人と出くわした。チェさんは町内で有名なガソリン商人。安全員とも顔見知りだった。
3人はしばらく立ち話をしていたが、何があったのか口論となった。1時間ほどしてチェさんはその場を立ち去ったが、安全員はそのままその場に立っていた。
(参考記事:手錠をはめた女性の口にボロ布を詰め…金正恩「拷問部隊」の鬼畜行為)
すると20分後。体格の良い6人の兵士が突如として現れた。そして、石で安全員の頭部を殴りつけ、倒れたところをメッタ蹴りにし、その場から去って行った。その間、わずか1分ほどのことだった。
騒ぎを聞きつけた洞事務所の職員が飛び出してきたところ、頭から血を流し、動けないほどの大怪我を負った安全員が倒れていた。
野次馬が倒れた安全員を取り囲んでいるところに、チェさんが両手にガソリンの入った一斗缶を持って現れた。血を流して倒れている安全員を見た彼は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で「一体何が起きたんだ?」と叫んだという。
別の情報筋によると、暴行を受けた安全員は肋骨を折る大怪我を負って14日の時点でも入院している。チェさんは、ワイロとしてガソリン30キログラム(40.2リットル)を要求した安全員を痛めつけるために、兵士6人を雇ったようだ。恵山市安全部(警察署)に逮捕されたチェさんは、取り調べで容疑を強く否認している。また、兵士6人の身元もわかっていない。
通常、安全員に大怪我を負わせて逮捕された場合、取り調べの過程で、他の安全員から報復として激しい暴行を受ける。それを知りつつも、大胆な報復劇を繰り広げたチェさんには、何かやらかしても庇護してくれる地方政府の幹部との強力なコネがあったのだろう。
ただ、かつての北朝鮮であれば、いくら幹部とコネがあるからと言っても、市民が安全員に半ば公然と集団暴行を加えることなど出来なかった。現在の北朝鮮ではそれだけ、金正恩体制の権威失墜が著しいということなのかもしれない。
安全部も、事件の発端は安全員のワイロ要求と知って、事件の話の拡散を抑えることに必死になっているとのことだ。
しかし、話はあっという間に広がり、市民は「痛快だ」「スッキリした」とのリアクションを示している。
「もし戦争が起きたら、人々はまず保衛員(秘密警察)と安全員から『消す』だろう」(別の情報筋の友人)
やりたい放題をしてきた権力に対する、北朝鮮国民の恨みは深い。