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孫政才、一帯一路が生む新たな腐敗の構図

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
一帯一路が生む新たな腐敗の構図に怯える習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

 元重慶市書記・孫政才の党籍が剥奪され、重慶市の党大会代表十数名が代表を取り消された。「政敵を根こそぎ」という分析があるが、違う。習近平が最も恐れていた一帯一路に新しい腐敗が生まれ始めたのだ。

◆孫政才の党籍剥奪と重慶市代表の取り消し

 今年7月に拘束された重慶市書記(=中国共産党重慶市委員会書記)だった孫政才は、第18回党大会7中全会を待たずに、9月29日、党籍が剥奪された。中共中央紀律検査委員会の報告を中共中央政治局会議が採決して決まった。それに伴って、10月18日に開幕する第19回党大会の重慶市委員会代表も同時に取り消され、2300人の党大会代表の数が、結果的に13人少なくなり、2287人という異例の事態となった。

 これに関して、「習近平の政敵、孫政才に連なる関連幹部をも徹底的に潰しておかないと権力闘争に禍根を残すから」といった分析が散見されるが、それは適切ではない。

 まず孫政才を「ポスト習近平」だった人物と位置づけるのも正しくない。孫政才はあくまでも李克強国務院総理の次期候補者であったのであって、習近平総書記あるいは習近平国家主席の後釜としてリストアップされたことは一度もない。「ポスト李克強」であった。

 つぎに孫政才は共青団の流れでもなければ江沢民の流れでもなく、どちらかと言えば、遠くは温家宝夫人の愛顧を得、次は劉雲山の息子との因縁浅からぬ関係により腐敗に入っていった経緯があるため、「腐敗」以外で、習近平の「政敵」といった存在ではなく、特に属している派閥もない。

◆一帯一路における新しい腐敗

 孫政才の最も大きな罪は、習近平が国家プロジェクトとして中華民族の命運をかけている「一帯一路」(陸と海の新シルクロード)経済圏における新しい腐敗の温床を創り出したことにある。

 実は一帯一路沿線国家の「文明度」は必ずしも高くなく、賄賂や口利きなどが日常現象である国が多い。習近平政権以来、中国国内では腐敗摘発が厳しいので、沿線国に入ると、いきおい気が緩み、元の中国流文化が一瞬で復活し、腐敗に巻き込まれることもあれば、むしろ自ら積極的に腐敗行動に走る場合もある。

◆孫政才の場合

 孫政才は早くから一帯一路資金の10億人民元(約1.46億米ドル)を香港にいる愛人とその子供に注いでいたという噂が流れていた。孫政才が拘束された7月、重慶の「億賛普(イーザンプー)」という会社の株が暴落したことが注目された。「億賛普」は中国国家発展改革委員会信息(情報)センターと連携して「一帯一路ビッグ・データバンク」を形成しており、一帯一路沿線国家の経済動態や社会動態などを反映させた巨大クロスボーダー・ネットワーク貿易に関するデータを提供するグループ会社だ。業務範囲はアジア太平洋、ラテンアメリカ、ヨーロッパ、そして中東など数多くの国家と地域を網羅する。

 2014年、重慶市政府と億賛普は戦略パートナーとして提携に合意し署名した。孫政才はそのとき、億賛普の董事長・羅峰(らほう)と会談している。2016年2月になると、孫政才は再び億賛普ビッグ・データ企業を訪れて、当該企業と全球(グローバル)港口聯盟を構築することに参画し、クロスボーダー支払い決済による巨額の収益を絶賛している。

 ところが、今年4月、億賛普の42%の持ち株を保有する羅峰と、38%を保有する法人代表の黄蘇支と、突然連絡が取れなくなった。北京の金融大街1号に位置する億賛普の本部には、数十名の職員がいるだけで、そのカウンターパートである重慶市の銭宝集団とIBSの看板をかかげるオフィスには誰もいないという情況に突然陥ったのである。

 この企業は「シルクロード億商」とか「シルクロード国際銀行」あるいは「一帯一路クロスボード支払聯合会」などの看板を掛けていたため、重慶市政府の信用を得やすく、孫政才などの「権利の手」によって暴利をむさぼる結果となったというわけだ。

◆中国腐敗の構図の輸出

  そのようなわけで、孫政才関連の重慶市の一連の党幹部および企業関係者がお縄となり、党代表を取り消されたのであって、習近平の「政敵打倒」などという権力闘争の構図ではない。

 権力闘争などをしているゆとりがあれば、まだ結構なことだが、中華民族の命運をかけた一帯一路に、このような新たな腐敗の抜け穴が生じたとなれば、「中華民族の偉大なる復興」も「中国の夢」も実現し得ないだろう。

 要するに、一党支配体制を終わらせない限り、中国がグローバルになればなるほど「腐敗の構図の輸出」も同時に起きることになり、習近平政権の夢は挫折する。

 こんな恐ろしいことがあっては、政権維持は出来ない。習近平はきっと新たな腐敗の構図に震えるほど怒り、終わりのない戦いに怯えていることだろう。一党支配体制が終わらない限り、「紅い中国」は、やはり腐敗によって亡ぶしかないのである。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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