完全失業者から外される「仕事はしたいが求職活動はしなかった」人の動向(2022年公開版)
完全失業者ではない、けれど就職を希望する人たち
失業の定義に関し「公的情報は偽り。真の失業者はこれだけ存在する。国際的な基準ではこの通り」との意見がある(ちなみに官公庁のデータは概してILOの国際基準にのっとった計測をしている)。今回はそれらの意見でよく取り上げられる「隠れた失業者」と呼ばれる人たち、つまり完全失業者には該当しない「仕事をする意思はあるが、求職活動をしなかった」を、総務省統計局が2022年2月に発表した、2021年分の労働力調査(詳細集計)の速報結果を基に確認する。
まず完全失業率、完全失業者という言葉について。完全失業率は「完全失業者÷労働力人口×100(%)」で算出される値であり、完全失業者は「仕事についていない」「仕事があればすぐにつくことができる」「(調査週間中に)仕事を探す活動をしていた(過去の求職活動の結果を待っている場合を含む)」の3条件すべてに当てはまる人を指す。いずれか一つでも該当しなければ完全失業者にはならない。
この条件に一つでも当てはまらない、そして現在雇用されていない人は「非労働力人口」に該当する。2021年の非労働力人口は4152万人で前年比29万人の減少。そのうち「就業希望者(就業を希望しているものの、求職活動をしていない人)」は253万人、前年比で33万人の減少となる。
「非労働人口のうち就職希望者」とまとめているが、その立場にいなければならない理由はさまざま。「この景気では就職活動をしても無駄骨になりそう。就職はしたいけれど、あきらめるか」と考えた人、「病気で身体を壊してしまい、静養をしなければいけない。就職したいが、無理はできない」人、「子供が生まれるので出産と育児で忙しいから就業は難しい」人、「働きたいが介護で手がいっぱいだから無理」な人など。
そこで、その内訳を示したのが次のグラフ。「非労働人口のうち就職希望者」で一番回答として選ばれそうな、「適当な仕事がありそうにない」人は2021年では92万人。「非労働人口のうち就職希望者」全体に占める割合は36.4%と1/3強を占めている。
「健康上の理由」は疫病などの状況変化がない限り、数そのものには大きな変化がないため(実際、60万人前後でほぼ横ばいのまま推移している)、この項目の比率が上がれば、間接的ながら労働市場が改善されていることが確認できる(他の項目の人数が減るため)。「適当な仕事がありそうにない」の減少同様、よい話ではある(健康を理由に就職活動ができないこと自体は、非常に残念な話だが)。
経年推移を見ていくと、昨今話題に上っている「育児休業」と密接な関係がある「出産・育児のため」の値が2割近くから1/4近くを占めているが漸減の動きが見られる。また今後さらに大きな社会問題化しそうな「介護・看護のため」の回答が5%前後いるのが確認できる。他方「適当な仕事がありそうにない」の人数は引き続きおおよそ減少していたが、2020年以降は比率で大きな増加をしている。新型コロナウイルス流行による景況感の変化で労働市場が大きく悪化し、求職をしても自分ができそうな、あるいは望む職が見つからないのではとの懸念を持つ人が、他の理由と比べて相対的に増えた形ではある。
「適当な仕事がありそうにない」の具体的な中身は
「適当な仕事がありそうにない」に関して、その内訳を細かく確認し、人数推移を示したのが次のグラフ。
2009年頃までは「今の景気や季節では仕事がありそうにない」以外は年々漸減傾向にあり、唯一「今の景気や季節では仕事がありそうにない」のみが景気動向に大きく反応して上下していた。しかし2010年以降は「勤務時間・賃金などが希望にあう仕事がありそうにない」「その他適当な仕事がありそうにない」が増加し、「今の景気や季節では~」は再び減少傾向を示していた。
このグラフ動向からは、「リーマンショック」の2009年以降、「非労働人口」においてもこれまでとは状況が異なる様相を見せているのが分かる。そして景気連動性の高い「今の景気や季節では仕事がありそうにない」の動きを見る限り、2009年をピークとして、労働市場の最悪期からは脱し、状況は改善しつつあったと考えることができる。
2020年においては前年比で「今の景気や季節では仕事がありそうにない」が大きな増加を示した。これは新型コロナウイルスの流行による景況感、そして労働市場の悪化を見聞きし、さらには実体験して、あきらめてしまった人が多数いるであろうことを思わせるものとなっている。「今の景気や季節では仕事がありそうにない」における前年比プラス15万人は、リーマンショックで大きく増えた2009年の前年比プラス15万人とおなじ値に他ならない。
直近2021年では新型コロナウイルスの流行による景況感の悪さはほぼ継続していて、さらに悪化しているところもあることから、「今の景気や季節では仕事がありそうにない」は前年比で少なくなったものの引き続き多い値が続いている。「近くに仕事がありそうにない」は減ったが、「自分の知識・能力にあう仕事がありそうにない」は増えてしまっている。
なお完全失業率が話題に上ると、冒頭で触れたように「完全失業率には『景気が悪くて就職活動をあきらめた人』(2021年では14万人)は入っていない。だから本当はもっと失業率・失業者は上のはずで、公表値はまやかしだ」との話を耳にする。2021年の完全失業者数は193万人であり、それと比較すると、それなりに大きな値となる(7.3%分)。仮に概算すると、労働力人口が6870万人・完全失業者数は193万人、ここに14万人を追加して、(193+14)÷6870=3.01%となる。これは公式の完全失業率の2.81%と比較すると0.20%ポイントの差となる。
余談ではあるが、「完全失業者」の定義に当てはまるための要件「仕事を探す活動をしていた」について。これを「ハローワークに登録していること”のみ”」と誤解している人が多い。しかし実際には
公共職業安定所(ハローワーク)に登録して仕事を探している人のほかに、求人広告・求人情報誌や学校・知人などへの紹介依頼による人、直接事務所の求人に応募など、その方法にかかわらず、仕事を探す活動をしていた人が広く含まれる。
と定義されている。今記事命題の「完全失業者に含まれない『仕事はしたいが求職活動はしなかった』」人のイメージも、多少は変わってくるはずだ。
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