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安倍首相、一帯一路協力表明――中国、高笑い

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
5月末、中国の楊潔チ国務委員が来日したときの 安倍首相(写真:ロイター/アフロ)

安倍首相は5日、場合によっては一帯一路に協力する旨の発言をした。中国外交部は行動で示せと言い、ネットは歴史問題を謝罪してからにしろ、遂に中国の天下だと勝ち誇っている。いかなる反応があるのか見てみよう。

◆安倍首相が都内の会議で講演

安倍首相は5日、東京都内で開催された国際交流会議「アジアの未来」(日本経済新聞社主催)の夕食会で講演し、中国の巨大経済圏「一帯一路」構想に関して、条件が揃えば日本も協力していきたいと述べた。その詳細は首相官邸ホームページの「記者会見」にある。

たとえば、「国際社会の共通の考え方を十分に取り入れることで、環太平洋の自由で公正な経済圏に良質な形で融合し、地域と世界の平和と繁栄に貢献していくことを期待する。日本は、こうした観点からの協力をしたい」など、「万人が利用でき、透明で公正な調達によるインフラ整備であること」「借り入れ国が債務を返済可能で、財政の健全性が損なわれない」と条件を示したが、安倍首相が自らの言葉で協力の意思を明らかにしたのは初めて。

今年が日中国交正常化45周年であり、また日中首脳会談を行いたいという安倍首相の政治的判断ではあろうが、あまりに多くの危険を伴う。

中国がどう受け止めているのか、政府と庶民の声を拾ってみよう。

◆中国外交部の反応

中国外交部の華春瑩(かしゅんいん)報道官は6日、定例記者会見で「一帯一路構想は、中日両国が互恵協力、共同発展を実現する新たなプラットフォームと“試験田”となることができる。日本側が一帯一路の枠組みの中で中国側との協力を模索することを歓迎する」とした上で、「日本側が(一帯一路に加盟したいと)希望するなら、その希望を、両国関係を改善することで表現し、あるいは(加盟したいという)願望を、真の政策と行動で示すことを希望する」と述べた。

「試験田」というのは、1958年の大躍進の時代に、農村の高級幹部が下部組織に入って農業生産を試験した時の実験田のこと。もしただ単に「テストケース」と言いたいのなら、こういう場合、一般的には「試点」という中国語を用いる。しかし華報道官は「試点」という言葉を使わず、わざわざ「試験田」という言葉を用いた。

ここにはすでに、中国と日本が対等ではないことを示唆するニュアンスが入っている。「農村の高級幹部」は「中国」、「下部組織」は「日本」を示唆する。

また、「(もし一帯一路に加盟したければ、)政策と行動で示せ」という言葉は、まさに「今さら、のこのこと入ってきたいのなら、その覚悟はあるだろうね」という完全な「上から目線」を示している。

このニュアンスに関して、日本メディアの報道は、正確に言えば翻訳がそれほど忠実ではないように思う。

事実、中国のウェブサイトでは「低頭」という単語を用いて、安倍首相の協力表明を表現した情報が少なくない。

たとえば、百家号の「安倍“低頭”表態”一帯一路”」をご覧いただきたい。「低頭」はまさに「平身低頭」という日本語にもあるように、「頭を低く垂れるさま」を指す。「平身低頭して謝罪したり」、「平身低頭して懇願したり」など、いずれも「相手にひれ伏した姿勢」を指す。「表態」は「態度を表明する」という意味。

「百家号」というウェブサイトは、検索サイト「百度」(bai-du)が2016年6月に立ち上げ、9月に正式に登録されたばかりのウェブサイトで、当然、習近平政権の言論統制強化の下で公認されている。「庶民」を装いながら、「政府の喉と舌」を代弁している。

5月14日の一帯一路サミットに自民党の二階幹事長が安倍首相の親書を携え、大代表団を従えて訪中したときにも、「日本はなぜ“低頭認錯”して、一帯一路の快速列車に駆け付けたのか」というタイトルで、二階氏の訪中と習近平国家主席との対談を表現した。

「低頭認錯」とは「平身低頭して、自分の過ちを認める」という意味である。

つまり「日本は遂に、歴史問題に関して降参し、中国に頭を下げてきた」ということを意味する。

その証拠をお見せしよう。

◆中国ネットユーザーの声から

「中華民族の偉大なる復興」を政権スローガンに掲げる習近平政権のもくろみ通り、中国のネットは、やがて世界一になるであろう中国への自負心に満ち満ちている。

その手段は、アメリカを凋落させてから、対米追随の日本を落すことである。

トランプ政権になってから、アメリカはまさにオウンゴール(サッカーなどにおいて、自分の能動的な行動によって自陣のゴールに誤って失点しまうこと)によって、中国に点数を稼がせてくれている。そうでなくとも、親中派のキッシンジャー元国務長官を用いて、トランプ大統領の娘婿クシュナー氏を洗脳し親中へと傾かせてきたが、もうそのスケールではないほどに、トランプが自ら失点してくれているのだ。

だから中国政府の雇われネットユーザーである「五毛党」の書き込みは、堰を切ったように「日本への侮蔑」と「侮蔑することへの快感」そして「日本を遂に打ち負かすことになる中国への誇り」に満ち満ちている。

そのコメント数はあまりに多いので、公平に拾うのは大変だが、日本の警告となる代表的なものを、翻訳するのさえ不快だが列挙してみよう。肯定的なものは、たとえば1万本のコメントの内、1本くらいはあるが、必ず叩かれているので列挙しない。なお、中国語には一般に日本の「~さん」に相当する敬称はないが、安倍首相に対する場合は特に「安倍」としか書いてないので、そのまま翻訳する。

●中国のそびえ立つ勃興。ついに中国がゲームの制作者になったのだ!実に誇らしい!

●一帯一路に入りたければ入らせてやるよ。ただし、「釣魚島(尖閣諸島)が中国のものだと認めること」が大前提だけどね。

●まずは、「琉球諸島の主権問題」を討論してから入れよ!

●一帯一路はどの国に対しても開放的だ。ただし日本だけを除けば。日本が侵略行為の罪業を認めない限り、永久に中国の敵であることを忘れるな!

●どうしたんだい?アメリカ(という)パパが頼りにならなくなったのかい?

●そうだね、きっとご主人様(アメリカ)には希望が無くなったから、今度は中国に泣きついてきたんだね。

●自分ではご飯が食べられなくなったから、中国に「要飯」しに来たんだよ(「要飯」とは、ご飯を恵んでくれと懇願する「乞食」のこと)。

●今度ばかりは、お前ら「小日本」(日本に対する蔑称)の経済は、中国に頼るしかないって観念したんだろ?

●日本の右翼って、こんなに容易く心変わりをするんだっけ?

●「迷途知返」(道に迷って引き返すことから、道を踏み誤った者が、ようやくまともな道に立ち返る。つまり歴史の反省をしなかった者が、ようやく自分の過ちに気が付いて、平身低頭やってくる、という意味)、いいことじゃないか!

●もう、(日本国の)落城の味がするね。

●日本は首相が交代するんだよ、きっと。

●おいおい安倍よ、まちがえて、なにか悪い薬でも飲んでしまったのかい?

●安倍よ、お前がこんな態度表明などしたら、インドはどうするんだい?インドは泣いて死んでしまうよ(筆者注:インドが一帯一路サミットに代表を送らなかったことによって中国への抗議を表明したことを指す)。

●安倍はインドと経済協力開発とかっていうのを、始めたんじゃなかったんだっけ?

●AIIB(アジアインフラ投資銀行)に日本が投資するんだっていうんなら、投資させれば?中国がもっと強大になるだけだから、いいんじゃない?

●朝鮮イタチが鶏に新年の挨拶に来るってわけか、中国のひ孫めが!(筆者注:朝鮮イタチは鶏を食べることを以て、下心や悪巧みがあるという意味を指す。ひ孫というのは、中国に属する下等国家として、罵る言葉。)

●日本に入らせればいいよ、10年か20年後には中国の「11区」にしてやろうぜ!

筆者注:この「11区」の意味が分からないので、中国の若者に教えてもらった。なんでも「11区」というのは、アニメ『反逆のルルーシュ』の中で、日本がブリタニア連邦(アニメの中でアメリカに相当する国)に征服され、植民地化された時の呼稱とのこと。転じて「日本を中国の植民地化しよう」という意味だそうだ。

●まあ、見てみようよ。お前が靖国神社に参拝しないっていうのを見届けてから、また話に乗ろうか。

●いやあ、やっぱり、中国の「大気」(心が広く立派なさま)だねぇ!中国5千年の歴史を学ぶことなんて、できやしないさ!

●中国人民は、お前を歓迎しない。

●いや、入らせろよ。「小日本」が「低頭」したんだよ! 中国のリーダーの下にひざまずきたいというんだから、いいじゃないか。ゆっくり遊んでやろうぜ。

●中華民族の偉大なる復興を成し遂げる日を待つだけさ。

●大国中国。ゲームは決まった。

もう、説明は要らないだろう。これが中国の本心だ。

華報道官の「(もし一帯一路に加盟したければ、)政策と行動で示せ」が何を表しているか、お分かり頂けたことだろう。

いくらかでも自分の経験が日本の役に立てばと願って発信してきた筆者としては、中国ネットのこのようなコメントを書きたくはない。しかし日本を思えばこそ、心を鬼にして書くしかない。安倍首相と日本政府に真意が届くことを祈るばかりだ。

長くなり過ぎるので、今回はここまでにする。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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