【世界バレー】強豪ブラジルに惜敗も“気持ち”だけではない、女子バレー日本代表が見せた強さと希望
喜ぶブラジルの姿が象徴する激闘
惜敗。激闘。
なんと表現すればいいのか。
女子バレー世界選手権準々決勝、ベスト4進出をかけブラジルと対戦した日本代表はフルセットの末に惜しくも敗れた。
第5セットのスコアは13対15、まさにあと一歩、紙一重の勝負であり、勝利したブラジルの選手たちはコートで歓喜の輪をつくり、ジョゼ・ギマラエス監督が勝利を告げるホイッスルが鳴ると同時に喜びを露わに駆け回る姿が映る。
少なくとも、この数年、ブラジルが日本に勝利してこれほど喜ぶ姿は見たことがない。
それはまぎれもなく、日本の強さ、素晴らしいパフォーマンス、戦術がブラジルを追い詰めた。何よりの証でもあった。
冴えわたった石川のサーブ
スタートは完璧だった。
井上愛里沙がレフトから、次いで林琴奈がライトからブラジルのブロックをうまく利用したブロックアウトで第1セットは2対0と日本が先行。1、2次ラウンドで唯一喫した黒星が日本であったブラジルから「今度は絶対に負けない」という気迫は画面越しにも十分伝わってくる中、相手の勢いにもペースにも飲まれることなく、日本がやるべきことを果たし、着々と得点を重ねる。
中でも圧巻は、石川真佑のサーブだ。
1次ラウンドのブラジル戦では、1点目を自らのサービスエースで叩き出したように、今大会二度目となるブラジルとの再戦でもサーブが走った。スピード、パワーを活かし、ただ強く打つだけでなく、的確にコースやターゲットを狙う。合宿やネーションズリーグの期間中にも磨き上げてきたサーブがこの試合でも効果を発し、2本のサービスエースを含む石川のサーブ時のブレイクポイントを活かし、25対18と第1セットを日本が先取した。
日本のサーブから始まった第2セット、ここでもファーストサーバーの石川のサーブが冴える。ブラジルは早々にアウトサイドヒッターのプリシラ・ダロイトを交代させ、サーブレシーブの安定を図るも、中盤にも石川のサービスエースや山田二千華のブロックで連続得点を挙げた日本がこのセットも25対18で連取した。
世界で勝ってきたブラジルの強さ
漠然と、女子バレーで世界一になる。メダルを獲る、とイメージする時、想定する相手は決して1つではない。近年ならばセルビア、中国、アメリカ、イタリア。名だたる強豪の姿が浮かぶが、近年に限らず、この十数年、世界で頂点に立つ、近づくためには必ず現れ、越えなければならない「壁」であり続けたのがブラジルだ。黄色のあのユニフォームと躍動感のあるプレー、どこを抜けば決まるのか、というブロック&ディフェンス。すべてがお手本通りで、見せるバレーが楽しい。世界中にファンが多いことも、ブラジルバレーが発する魅力と、強さを示すこれ以上ない象徴でもある。
第3セットからブラジルが日本に対して見せたのも、まさにその「強さ」だった。
サーブで攻め、ブロック&ディフェンスから得点する日本に対し、ブラジルはさらに上回るトータルディフェンスで、1、2セットには決まった攻撃がなかなか通らない。ブロックアウトを狙ってもボールが飛んだコースや抜けたコースにレシーバーがいて、2本目がセッターでなくとも着実にスパイカーが打てる高さと質のセットを供給し、勝負所はエースのガブリエラ・ギマラエスが何枚ブロックがつこうと、何本続けた攻撃だろうと決めるべき時に決める。
アウトサイドだけでなくセッター、オポジットのメンバー交代も奏功し、第3セットは22対25、第4セットはジュースの末に25対27でブラジルが制し、最終セットに突入。互いにサイドアウトを取り、サーブで崩して連続得点するも、一方もブレイクで返すまさに拮抗した展開のまま試合が進む中、抜け出したのはブラジルだった。
サーブレシーブが返ればミドルを使い、崩れてもサイド陣が打ち抜く。日本のブロックに対しても打ち付けるのではなく奥を狙い、指先や、手のひらに当てて後方に飛ばす打ち方を徹底し、終盤には井上のスパイクをブロックで止め、10対13。リードを得ても着実にサイドアウトを取り、マッチポイントに到達したブラジルに対し、日本も山田のブロックで1点差まで迫ったが、最後は石川のスパイクがネットに阻まれ13対15、セットカウント0対2から劇的な逆転勝利を収めたブラジルが2時間18分の熱戦を逆転で制し、準決勝進出を果たした。
個々の技術と意識の進化
試合後、中継局によるインタビューで眞鍋政義監督は「最後はブラジルの勝負強さに負けた」と悔しさを表しながらも相手を称え「いい勉強になった」と繰り返す。まさにその言葉通り、本当に悔しい敗戦ではあるが、これからにつながるいくつもの光、希望が見えた試合でもあった。
この試合で両チーム最多となる7本のブロックポイントを決めたミドルブロッカーの山田や、19本のスパイク得点と2本のサービスエースでチーム最多得点を叩き出した林の活躍。試合後の公式帳票を見れば、最多得点はレフト側に入るアウトサイドヒッターに打数や得点が偏りがちだったこれまでの傾向を翻し、ミドルやセッター対角で守備面の貢献も高い選手が存在感を発揮したこと。引き出した関菜々巳のセットや、世界最強といっても過言ではないブラジルやイタリアの強打を、相手が嫌になるほど拾い続け、しかもただ拾うだけでなくセッターがつなげられる位置、質で返球したリベロの福留慧美のレシーブ力も光った。
ラリーが醍醐味とされる日本の女子バレーは、つないで拾って、最後の1本は全員の思いを背負って決める。そう表されがちで、相手を上回る気持ちの強さが勝利を呼び込む力になることも確かに少なくない。
だが、このブラジル戦に限らず、今大会の日本代表は単なる気持ちだけで表す“チームワーク”ではなく、個の力が発揮されてこそ遂行できる“チームワーク”が随所で見られた。
主将の古賀「チームとしての成熟度が高くなった」
攻めるべき場所を狙い、掲げた目標に近いスピードで打ち続けるサーブの技術。跳ぶべき場所でブロックに跳び、空中姿勢がぶれず、相手の打力に負けない「壁」となるべくブロックの技術。そして抜けたボールは着実に拾うレシーブ力。対ブロッカー、レシーバーに対応しうる技術力に長けたアタッカーが揃っているのも確かではあるが、勝負できる場所に持って行けるパス、セットがなければ成り立たない。
さらに言うならば、大会を通して見せた林のプレーに象徴される、データに基づきながらも相手との駆け引きや勝負勘を発揮したレシーブ時のポジショニングとボールコントロール力の高さ。見過ごされがちだった1つ1つの細かな技術と、それをつなげる意識が着実に結集しつつある。そんな期待を抱かせた。
何より、中国戦で負傷し大会を通して個人の結果は決して満足いくものではなかったであろう主将の古賀紗理那も、試合後にTBSバレーボール公式ツイッターに掲載されたインタビュー動画で「チームとしての成熟度が最初に集合した時より高くなった。大会を通して成長した、外から見ていても個々が成長しているのをすごく感じた」と述べている。自らの悔しさや葛藤を抱きながらも、チームの成長を称えられるのは、まぎれもなく見せた強さを感じたからであるはずだ。
5月の始動から、瞬く間に時が流れ、世界選手権で日本代表シーズンは閉幕するが、休む間もなく今月29日に開幕するⅤリーグに大半の選手が臨む。そしてフランスリーグへ挑む井上は渡欧し、宮部愛芽世、佐藤淑乃も大学でそれぞれが日本一を目指す全日本インカレまでの時間も決して多くはない。
過酷すぎるスケジュールではあるが、この悔しさ、そして“あと少し”を埋め、超えるための課題をつかむべく、選手たちは息つく間もなく、また次を見据える。
振り返る時、あのブラジル戦があったから、と笑顔で噛みしめる、その日に向けて。強い「個」が集う集団として、さらなる進化を遂げていく。
残ったのは悔しさだけでない。確かな希望を抱かせ、女子バレー日本代表の世界選手権は幕を閉じた。