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葬儀場の安置室で女性の遺体にわいせつ行為をして撮影 どのような罪になる?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 葬儀場の安置室で女性の遺体の胸などを触り、スマホで撮影したとして逮捕・起訴された葬儀社元社員の男に対する初公判で、男は「性的欲求で始め、撮ることをスリルとして味わっていた」などと供述し、容疑を認めた。

性犯罪被害者の対象は?

 問題は、この男の行為がどのような犯罪にあたるのかという点だ。東京都内の葬儀場で勤務していた42歳の男は、3年前から職場で女性の遺体の胸などを触ったり、その様子をスマホで撮影したりしていた。

 起訴された事件は、このうち2021年11月から2022年6月の間の10代女性らの遺体に対する3回にわたる犯行だ。男は「どうしても触りたいという気持ちが抑えられなかった」と供述しているという。

 ただ、この件で男が問われている犯罪は、最高でも懲役3年の建造物侵入罪だ。たとえわいせつの意図に基づく行為であったとしても、強制わいせつ罪などの性犯罪はあくまで生きている人に対する犯行を前提としているからだ。

 わいせつ目的で自ら被害者を手にかけて死亡させた場合ですら、わいせつ行為の既遂・未遂を問わず、その段階で強制わいせつ致死罪が成立するから、たとえ死亡後にわいせつ行為に及んだとしても、別の犯罪として評価されることはない。

安置室への不法侵入で立件

 しかも、胸などを触ったり、性交に至っただけでは、物理的な損壊や毀損が前提となっている死体損壊罪も成立しない。わが国では屍姦などを罪に問うことはできないというわけだ。盗撮は迷惑防止条例で規制されているものの、これも遺体に対する行為は対象外だ。

 それでも、男が遺体の胸などを触る目的で安置室に不法侵入したことは間違いない。たとえ社員だとしても、社長ら葬儀場の管理者がそうした目的で安置室などに立ち入ることを許すはずがないからだ。

 そこで、男は建造物侵入罪で立件された。男はこの葬儀場の女子トイレにスマホを設置し、25人の女性を盗撮したとされる罪でも起訴されている。

 1月20日に東京地裁で行われた初公判で、検察側は故人の尊厳を冒とくしたなどとして懲役2年6か月を求刑した。2月3日に予定されている判決の量刑で、裁判所がその点をどこまで考慮するのか注目される。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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