本物維新とニセ維新の本家争い 安倍「1強」で液状化する野党
維新の党の松野頼久代表ら「残留組」が、橋下徹大阪市長の新党「おおさか維新の会」(おおさか組)が求める「分党(分割)」や党名変更に応じず、「分党」協議が先送りされた。
先の住民投票で僅差ながら否決された大阪都構想を掲げ、橋下市長が地域政党「大阪維新の会」を立ち上げたのは2010年4月。国政政党「日本維新の会」を結党し、太陽の党と合流したが、分党。
結いの党と合流し「維新の党」をつくったが、わずか1年余で破局を迎えた。一つにまとまった政策を持たない政党は政党とは言えない。烏合の衆である。政党の離散集合を示した下の図を見ると、安倍晋三首相の「1強」支配のもと、野党の液状化が進んでいることが手に取るように分かる。
橋下市長には、松野代表ら残留組ではなく、おおさか組が「維新」の本家という強い自負がある。新党「おおさか維新の会」を旗揚げし、残留組に「維新の党」の党名を変更するよう求めた。民主党や結いの党出身者が中心の残留組に「維新」を名乗る資格があるのだろうか。
国内最大の指定暴力団山口組も分裂し、脱退派が「神戸山口組」を名乗っている。争いの種は主導権と代紋、シノギ。維新の党の場合も主導権争いから、「維新」の看板と政党交付金の分前をめぐって対立が続いている。
橋下市長は記者会見で「カネと名前がほしいなら全部くれてやったらいい。カネにがめつい人は、じきに消滅する」と強がったが、軒を貸して母屋を取られてしまった格好だ。おおさか組は11月に大阪市長・大阪府知事の「大阪ダブル選」が控えているので、軍資金はあった方が良いに決まっている。
総務省によると、1つの政党が解散し「分割」された場合、解散する政党への未交付の政党交付金は、分割により設立される政党に交付される。しかし、政党から一部の国会議員が脱退して新たに政党を設立するいわゆる分派は「分割」に当たらず、政党交付金の分前はない。
橋下市長らおおさか組が「分党(分割)」だと主張すれば、松野代表ら残留組は「おおさか組が勝手に離党した」と突き放す。その言葉の裏には政党交付金がある。残留組は、大阪都構想の住民投票をめぐる活動費など約5億円は維新の党が負担すると提案したが、おおさか組が猛反発して協議は暗礁に乗り上げてしまった。
維新の党の今年の政党交付金は約26億6478万円。年4回支給される交付金は残り2回で、報道によると、おおさか組の分党が認められれば未交付金のうち4億~5億円が分配される。
政党助成制度によると、国会議員5人以上を有する政治団体もしくは、前回の総選挙の小選挙区・比例代表、前回、前々回の参院選の選挙区・比例代表のいずれかで得票率が2%以上あった場合、政党交付金が支給される。国民1人当たり250円を負担している。
政党交付金は議員数と前回総選挙の小選挙区・比例代表、前回・前々回の参院選の選挙区・比例代表の得票数によって算定される。しかし、これだけ政党の離散集合が激しいと、政党交付金を交付する正当性に疑問が生じてくる。比例代表はもちろん小選挙区や選挙区でも政党に1票を投じている人がいるからだ。
なぜ野党が液状化するのか。戦後に行われた総選挙で上位2党の議席占有率(赤い折れ線グラフ)を見てみよう。1955年に日本民主党と自由党が自由民主党を結成(55年体制)。58年の総選挙で自民党と社会党の議席占有率は実に97%に達した。
自民党支配が長らく続いたものの、93年の総選挙で55年体制が崩壊し、非自民連立政権が誕生。自民党が政権を奪還した後、野党は今と同じように液状化した。その後、政権交代を目指して民主党を軸に野党再編が続き、自民党と民主党の二大政党への流れがつくられた。2009年の総選挙で民主党政権が誕生。上位2党の議席占有率は89%にまで回復した。
しかし民主党政権下、政官の関係は軋み、日米同盟は漂流、東日本大震災の福島第1原発事故で混乱を極め、民主党は有権者の信頼を完全に失った。二大政党制への気運も一気にしぼみ、日本は再び「自公連立」という事実上の一党優位政党制に逆戻りしてしまった。
衆参両院とも小政党に有利な比例代表が導入されているため、政党が乱立し、離散集合、野合が後を絶たない。しかし現在の小選挙区比例代表並立制のもとで一時は自民党と民主党の二大政党に集約される流れができたのだから、野党液状化の原因をすべて選挙制度に押し付けるわけにはいかない。
派閥や徒党と政党の違いについて、「保守主義の父」英政治思想家エドモンド・バークは「政党とは、全員が同意しているある特定の原理に基づき、共同の努力によって国民的利益を推進するために結集した人々の集まりである」と定義した。
それまで政党は私的利益を追求する派閥や徒党と同列に見られていたが、バークによって国民的利益を実現する集団と位置づけられた。自分たちが信じる政策のもとに集まった志と資質を備えた人々が政党をつくり、その政策を実現するために政権を目指す。それが政党政治の原点である。
しかし日本の野党は完全に徒党と化している。岡田克也代表率いる民主党は安全保障関連法案の審議で安倍首相を攻め立てたが、反対のための反対を繰り返す野党は怖くない。真剣に政権を狙ってこないからだ。
財政・経済、医療・年金・介護、正規・非正規雇用の格差、女性の社会参加など日本の未来を大きく左右する争点はいくつもある。こうした重要な課題でしっかり政権担当能力を示し、政権交代を狙ってくる野党があって初めて民主主義は健全に機能する。
自公連立の一党優位政党制、いや安倍「1強」体制が強化され、野党は液状化している。戦後の自民党支配は、政権党であることが次の選挙でも政権党になることを保証する一党優位政党制の代表例だった。高度経済成長による富を、公共工事を通じて配分する利益誘導がその前提になっていた。前提はとうの昔に崩れ去ったが、安倍首相は日銀の異次元緩和で「成長」という幻想を再現させた。
しかし幻想はいずれ覚め、医療や年金など社会保障の見直しという厳しい現実に直面する。膨大な政府債務、低成長、少子高齢化という難問を抱えた日本は「応分の負担」を有権者に求めることを避けて通れない。そのとき政権担当能力を持った健全野党が存在しなければ左と右のポピュリズムが台頭してくるだろう。
一党優位政党制が続くと、野党は離散集合を繰り返し、政権に近づけば取り込まれるという宿命を負う。野党液状化は一党優位政党制のワナともいえるのだ。このワナから抜け出すには、「私たちこそが今の政権に代わって善政を施す」という強い信念と政策を考える知力が求められる。
徒党と化した野党側に再編の意思がなければ、衆参とも比例代表の議席比率を下げるか、比例で得票率が一定の基準に達しない政党には議席を与えないハードルを導入するなどして、野党再編を促すきっかけをつくることも検討しなければならない。政権交代を本気で目指すなら、これは野党がすべき提案だ。
(おわり)