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プレ金は「第3の時間、場所」という原点に回帰せよ プレミアムフライデーを辛いデーにしないために

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
プレ金は原点に回帰した再起動が必要だ。(写真:ロイター/アフロ)

 月末の金曜日がやってきた。プレミアムフライデー(通称:プレ金)だ。新型コロナウイルスショックから約3年、コロナが5類相当となったこのタイミングで、今一度、この施策の意義を考察したい。

プレ金は2017年2月に始まった官民が連携した取り組みである。経産省のHPによると「プレミアムフライデーとは、個人が幸せや楽しさを感じられる体験(買物や家族との外食、観光等)や、そのための時間の創出を促すことで、消費喚起やライフスタイルの変革に繋げていくことを目的とした取組」とされている。当初は、毎月月末金曜日に15時以降に自由な活動をするものだったが、この日は多忙になるなどの理由から、2017年の9月からは「月末金曜」「15時」に限らない柔軟な取組も推奨されている。

 コロナが5類相当となったあとの月末金曜日だから、街は人でいっぱいで、飲食店は賑わうことだろう。ただ、残念ながら、プレ金だから混んでいるわけではないだろう。

Twitterのトレンドに月末金曜日に「プレミアムフライデー」「プレ金」が入ることがよくある。これまた、残念ながら盛り上がっているわけではなく、「いじる」対象としてである。圧倒的な知名度を誇りつつも、その恩恵を享受している人が少なく、ついつい、「いじり」たくなるのがプレ金ではないか。

 なんせ、認知度は高い。やや古いデータだが、プレミアムフライデー推進協議会が2019年2月に発表した「プレミアムフライデーに関する調査結果」によると、2019年1月時点での認知度は95.7%だった。2017年2月からこの時点まで、常に認知度は85.0%以上となっている。高い認知度と言っていい。理解度も高く、同じく2019年1月時点では79.6%で、開始からこの時点まで常に70.0%以上となっている。

 一方、賛同度、参加意向度はここまで高くない。この2つの指標は2018年9月を最後に調査が終了しているが、この時点で賛同度は39.7%、参加意向度は57.5%だった。早期退社率(プレミアムフライデーの当日、通常よりも早く退社した者の比率)は、2017年2月から2019年1月の全17回の調査の平均で11.3%だった。大企業が15.0%、中小企業が9.1%、零細企業が9.1%だ。大企業とそれ以外の差は顕著だし、その大企業でも85.0%の人は早い時間に退社することができていない。

 この状況には日本の働き方の問題が凝縮されている。早く帰ろうという掛け声があっても、仕事の絶対量が多いこと、役割分担が不明確であること、仕事をこなすプロセスの煩雑さ、仕事に求められるクオリティの高さ、ITの利活用が不十分であることなどから、必ずしも早期に退社するとはできないのだ。

 筆者は2019年に、経産省でプレミアムフライデーの企画を主導した方にインタビューを行い、朝日新聞社の「Journalism」の2019年8月号に寄稿した記事の中で紹介した。もともとは「皆、一生懸命働いていて、月に一回くらいは自分にご

褒美の時間があってもいいじゃないか」というものだった。「第3の時間」のような「自分を解放できる時間」をたまには持った方がよい、普段はできないが、本当はやりたいこと、楽しいことをやる時間をつくりたいというのが根本の発想だった。もちろん、経産省の政策なので「コト消費」の推奨という側面もあった。「第3の時間」を「第3の場所」で過ごすというのが、プレミアムフライデーの本質だ。

 しかし、「消費促進のための早帰り運動」に矮小化されてしまったし、誰もが楽しめるものではないものと認識されてしまったのが現実ではないか。率直に、「これならプレ金を楽しみたい」と思えるような提案は消費を促す企業側からもなかったし、働く人の側の模索も不十分だったのではないか。経産省のプレミアムフライデーのコーナーで本日5月26日に行われる各社の取組を見たが、基本、お得な割引キャンペーンが中心だった。ポール・スチュアートの、店舗でのジャズの生演奏はプレミアム感があったのだが。

 新型コロナウイルスショックから3年間においては、ワークスタイル、ライフスタイルの変化も見られた。方向性を見直して、プレ金を再起動するという発想が必要だ。なんせ、テレワークが普及した。もちろん、この実施率は感染症対策と経済活動の維持が課題となった2020年ほどではないし、最近では出社頻度も増えている。とはいえ、「働く」現実が2019年と同じではないことは明らかだ。2023年以降のプレ金は「職場」から「家」や「その他の場所」に早めに移動する運動とは異なるものになる。特に、自宅やオンライン空間からいかに逃げるかという発想も必要となるのではないか。

 プレ金を与えられるものではなく、自らのものとすること、時間と場所の主導権を取り戻すこと、これが2023年のプレ金の課題ではないか。企業側が魅力的なプランを用意することも結構だが、いかにして第3の時間、場所を確保するか。これが今、働くみんなが取り組むべき課題だ。別にプレ金でなくてもいいのだけど。プレ金をいつまでも「いじる」対象にしている場合ではない。つながらない、しばられない時間と場所を手に入れよう。プレミアムフライデーを辛いデーにしてはいけないのだ。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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