「中国がミサイルを増強しているときに何でその了解がいるんですか」会見で新聞記者に噛みついた河野防衛相
[ロンドン発]河野太郎防衛相の4日の記者会見での「尖閣周辺での中国船の活動」や「相手国領域でのミサイル阻止能力」を巡るやり取りが話題になっているようなのでチェックしてみました。
幹事社の琉球新報:尖閣諸島周辺での中国船の活動についてですが、過去最長の111日間にわたって領海侵入を含む、航行を続けていたわけですけれども、今月中旬に休漁期間が終わるということで、活動が活発化するという見方もあります。どういった対応が必要になるとお考えでしょうか。
河野氏:中国公船の活動が拡大・活発化していたというのは事実でございます。海上保安庁がしっかりこの問題、対処してくれておりますが、自衛隊としても海上保安庁と連携し、必要な場合は、しっかり行動してまいりたいと思っております。
東京新聞:自民党提言にあったような相手国の領域でのミサイル阻止能力を検討する場合はですね、周辺国からの理解というのは重要になってくると思われますが、現状では特に中国や韓国といった国からは、防衛政策の見直しについて、十分に理解を得る状況ではないようではないかと思いますが、今後もし理解を得る際に、必要だと思われることがあればお願いします。
(筆者注)自民党の政調審議会は4日、ミサイル防衛に関する検討チームがまとめた提言を了承。安倍晋三首相はこれを受け「しっかりと新しい方向性を打ち出し、速やかに実行していく」と語る。
提言は配備を断念した陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替機能の確保を求めるとともに、敵のミサイル基地などを直接攻撃する敵基地攻撃能力を含む「抑止力を向上させるための新たな取り組みが必要だ」と検討を求めた。
河野氏:すみません。周辺国ってどこのことですか。
東京新聞:主に中国や韓国になります。
河野氏:主に中国がミサイルを増強しているときに、何でその了解がいるんですか。
(筆者注)東京新聞の記者は「理解」と質問したのに、河野防衛相は「了解」と取り違え、「中国はミサイルを増強している」と主張。日本のミサイル防衛が北朝鮮だけではなく、中国も念頭に置いていることを明らかにする。
米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のミサイル防衛プロジェクトによると昨年10月の建国70周年記念の軍事パレードで、
・3つの巡航ミサイルYJ-12B(射程距離は推定500キロメートル)、YJ-18(同220~540キロメートル)、CJ-100(長距離超音速巡航ミサイル)
・潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)JL-2(射程距離8000キロメートル以上)
・極超音速滑空体DF-17(短距離・中距離弾道ミサイル、低空を滑空してミサイル防衛をかいくぐる能力を有する)
・大陸間弾道ミサイル(ICBM)のDF-31AG、DF-5B、DF-41(射程距離1万5000キロメートル)、米グアムも射程にとらえ「グアムキラー」と呼ばれる中距離弾道ミサイルDF-26(射程距離4000キロメートル)
が確認されている。
ドナルド・トランプ米大統領が2018年に米ソ冷戦終結の象徴だった中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱を打ち出した背景にはロシアだけでなく、中国の核・ミサイルの脅威があった。
東京新聞:すみません、韓国に関してはいかがですか。
河野氏:何で韓国の了解が必要なんですか。我が国の領土を防衛するのに。(マスクを外す)
(筆者注)香田洋二・元海上自衛隊自衛艦隊司令官は筆者の「日韓の摩擦は収束する気配が全く見えませんが」という質問に次のように答えている。
「もう今は政治の問題です。両方ともシビリアン・コントロール(文民統制)の国なので、政治が決めなければ自衛隊も韓国軍も動けません。今は、客観的に見て韓国の方があまりに硬すぎるというか、主張が強すぎると言えます」
「ただ、一つだけ韓国が理解しなければいけないのは、朝鮮半島の安定は米軍の運用も含めて、日本の協力がなければできないということです。韓国はそこをきちんと理解する必要があります」
「私は日韓の関係改善を進めなければいけないと思っています。朝鮮半島で米軍が行動する際の支援というのは全て日本経由で行われます」
香港メディア:中国国営メディアでは、中国は短期間で核ミサイルを1000発に引き上げる必要があると呼びかけています。核兵器廃絶の行方は厳しいと思いますが。
河野氏:中国の国営メディアがそのようなことを言ったとしたら、それは全く現実を認識していないということだろうと思います。
(筆者注)ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、今年1月時点で世界全体では米露を中心に465発(約3.4%)減ったものの、中国は30発(約10%)も増やし320発に。北朝鮮の核弾頭総数は昨年の20~30発から30~40発に増強されたと推定。
中国共産党の機関紙系の国際紙、環球時報は今年5月「中国は核の先制使用を否定しているものの、核弾頭の数を比較的短い時間で1000個に拡大し、少なくとも100発のDF-41(ICBM)を持つ必要がある」と主張。
アジア軍拡レースの元凶は日本ではなく、軍備を増強する中国と北朝鮮だ。
共同通信:中国の海警局の公船と漁船の報道についての質問に対して、大臣は海上保安庁と連携して、必要な場合にはしっかり行動をとってもらいたいとおっしゃられました。かなり刺激的な言葉だと思うのですが、海警局公船と漁船の行動について質問しているのに、こういった刺激的な言葉をとったということと、実際、しっかり行動というのは何を指すのかということを教えてください。
河野氏:特に刺激的なことを申し上げたつもりはございません。様々なことが南シナ海を始め、行われているわけでございますから、万が一自衛隊が対応しなければならないような事態になった場合には、しっかり自衛隊が対応するということでございます。
共同通信:幹事社の質問は、あくまでも中国海警局の公船と漁船の行動についての質問で、それに対して大臣は海保と連携して必要な場合にはしっかり行動をとってもらいたいと。どういう想定でどういう行動のことを考えてらっしゃるのでしょうか。
河野氏:手の内は明かしません。
共同通信:非常に国の行先を左右するような重要な問題なので、我々に説明して、国民に説明する義務があるんじゃないでしょうか。
河野氏:手の内を明かすことは差し控えます。
共同通信:でもそれは、そんなことを言っていたら国の命運は全て防衛大臣の手中にある、あるいは総理大臣の手中にあるというふうになるので、極めて危険な発想だと思うのですが。
河野氏:そうは思いません。
(筆者注)中国は漁船から海上施設、海警局の公船、人民解放軍の軍艦まで、ありとあらゆる手段を使って既成事実を積み上げてくる。仮に日本の海上自衛隊が尖閣周辺に出動すれば、人民解放軍に軍艦を出動させる口実を与えてしまう。
均衡が崩れた南シナ海の西沙(パラセル)諸島や南沙(スプラトリー)諸島では中国は一気に人工島を造成し、軍事基地をつくってしまった。海上保安庁、海上自衛隊、米軍が切れ目ない情報収集・警戒監視・偵察(ISR)の態勢を築かなければならないのは言うまでもない。問題なのは河野発言ではなく、中国の行動だ。
産経新聞:現在、ファイブアイズ(アングロサクソン5カ国の諜報ネットワーク)に日本が入ることについて検討されているのか、あるいは必要性を感じておられるのか。
河野氏:俗にファイブアイズといわれている5カ国は、日本と基本的な価値観を共有する国でありますし、現在もこうした5カ国と様々な外交、防衛のレベルでの意見交換、情報交換というのを行っているところでございます。そうした5カ国とこれからも緊密に意思疎通を図っていきたいと思っております。
(筆者注)英下院外交委員会のトマス・トゥーゲンハット委員長が主宰する保守党内の中国研究グループ(CRG)のオンライン勉強会に河野防衛相は7月21日参加。トゥーゲンハット委員長は「日本の防衛相はファイブアイズを(日本を含めた)シックスアイズに変える考えを歓迎した」とツイートした。
香港や中国の新疆ウイグル自治区の問題、新型コロナウイルスの発生を受け、アメリカやイギリスでは政権内だけでなく、与野党を超えた議会で対中強硬論が強まっている。アメリカの同盟国である日本に対中融和策を選択する道は今のところ、あり得ないのではないだろうか。
(おわり)