100人中3人しか取得しない男性育休の現状
2016年度の男性の育児休業取得率が5月30日に厚生労働省より公表された。3.16%と初めて3%台になったものの、メディアの扱いはどこもその事実を伝えるのみで解釈を加えることもなく、ぞんざいな扱われ方されたものだなという印象を強く持った。メディアの伝え方が弱ければ、情報は限定的にしか広がらない。
当然筆者も3%になったことを評価するつもりはない。「過去最高の3.16%になった」というよりは、「依然として3.16%に低調な水準にとどまっている」という見方が必要だろう。
ちなみに、毎年新しい数字が発表後に記事を書いているので参考に読んでもらいたい。
・男性の育児休業取得率が′過去最高’の2.65%~まったく喜べない'過去最高’への危機感を~
https://news.yahoo.co.jp/byline/yoshidahiroki/20160727-00060431/
・男性の育休はたったの2.30%!?スタートから刷り込まれる「子育ては母親」の価値観
https://news.yahoo.co.jp/byline/yoshidahiroki/20150626-00046990/
また、昨秋から年末にかけて、育児休業期間が延長しているという動きに呼応して記事を書いてもいる。
https://news.yahoo.co.jp/byline/yoshidahiroki/20161105-00063875/
・「単なる育休延長」で男性の育休は置き去りに~パパクオータ制導入は当分見送りに~
https://news.yahoo.co.jp/byline/yoshidahiroki/20161230-00065953/
政府の目標である2020年に男性の育児休業取得率を13%にするという「低い目標」すらクリアすることはほぼ絶望的と言っていい現状。この目標値が定められた2010年は「イクメン」という言葉が流行ったこともあり、「13%くらいの目標であれば放っておいても勝手に取得率は上がる」と踏んだとでも思えるような不作為な扱われ方をされ続けた結果だ。当時は民主党政権。。。元々2007年の麻生政権時代に定められた目標は「2017年に10%にする」というものだった。しかも、この目標は政労使の合意をもって定められたものだ。政治家、使用者側、労働組合側、いずれの責任も重い。
男性の育休を議論する研究会を発足させる
厚労省はこのほど「仕事と育児の両立支援に係る総合的研究会」を立ち上げ、
- 育児休業をはじめとする現行両立支援制度の問題点の把握
- 育児休業をはじめとする両立支援制度に係るニーズの把握
- 今後の両立支援制度の在り方の整理
- 特に、男性育児促進のための方策
ーーについて今後議論していくという。
この研究会は、今年3月に働き方改革実現会議でまとまった「働き方改革実行計画」の中で、
「女性の就業が進む中で、依然として育児・介護の負担が女性に偏っている現状や男性が希望しても実際には育児休業の取得等が進まない実態を踏まえ、男性の育児参加を徹底的に促進するためあらゆる政策を動員する。このため、育児休業の取得時期・期間や取得しづらい職場の雰囲気の改善など、ニーズを踏まえた育児休業制度の在り方について、総合的な見直しの検討に着手し、実行していく。」
と明記されたことがきっかけとのこと。ただ、働き方実現会議において依然として「男性の育児参加」というワードを使ってしまうこと自体に残念な気持ちを覚えざるを得ない。「女性の育児参加」という言い方が存在しないように、「男性の育児参加」という言い方をやめることから始めるべきだ。男性に対して「参加する」「参加しない」という前提を与えている限り、男性は「参加しない」という引力に引き寄せられていくおそれがある。男性も当然家庭の一員だ。行政がその前提を外さなければ、ブレークスルーを起こすことはないと考える。
この研究会で議論するという「男性育児促進のための方策」がどのようなものになるかはまだわからないが、男性に育児休業を割り当てる「パパクオータ制」の導入など実質的に男性側が一定期間育児に専念できる期間を作り出すことは最低限必要だろう。
この動きと同時に、働き方改革の本丸である長時間労働を削減することが求められる。長時間労働の削減で空いた隙間にうまく男性の育児休業や普段家事や育児をする時間が入り込むような連動が必要だ。
最も男性が育休を取得しているのは「金融業,保険業」
今回公表された「雇用均等基本調査(速報)」では、産業別の育児休業取得率が盛り込まれていたので、こちらを紹介しておきたい。
男性の育児休業取得率を産業別でみてみると、最も多いのが「金融業,保険業」の12.33%となっており、唯一政府目標はクリアできそうな可能性が高い。女性も多い業種だけに、女性を引き留めるためには、男性への支援に力を入れている企業も多いというのが特徴だろう。
次いで多いのが「情報通信業」の6.01%、以下、「学術研究,専門・技術サービス業」5.65%、「医療,福祉」5.62%、「生活関連サービス業,娯楽業」4.45%と上位を占める。
一方、取得率が少なかったのは、「複合サービス事業」0.48%。「サービス業(他に分類されないもの)」0.67%、「電気・ガス・熱供給」0.89%だった。
産業別に取得できる環境の違いはあろうが、その環境に応じた取得の在り方が問われるところだ。土日に営業していたり、24時間営業していたりすれば、その分人員の確保も難しく、育休もより取りにくい状況にあると言える。
また、いまだに一律で集計できていない都道府県別の育児休業取得率なども調査できれば、より細かい対策を講じることができる。本気で男性の育児休業の取得向上を図ろうとするならば、こうした分析にも力を入れるべきだろう。