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「日中が近づきすぎるとアメリカが…」中国政府高官独自取材

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
10月25日、人民大会堂で安倍総理と握手する李克強国務院総理(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 25日午後の日中平和友好条約締結40周年記念レセプションで李克強があまりに厳しい表情で「日本は戦争責任を反省し」と来たので、歓迎ムードとの違和感を覚え中国政府高官を取材した。その結果、習近平の本心が見えてきた。

◆李克強の厳しい表情とお説教

 25日午後、北京に着いた安倍総理一行は、人民大会堂で開催された日中平和友好条約締結40周年記念レセプションに出席した。

 まず李克強首相(国務院総理)の挨拶があったのだが、李克強は「国の字」型の真四角な顔を際立たせる非常に厳しい表情で壇上に立ち、以下のような挨拶をした(中日は日中とした)。

 ――日中平和友好条約は法律的に日中双方が平和的に処理して世々代々の友好という大きな方向性を確立したものだが、日本が戦争責任を深刻に反省し、一つの中国の原則を堅持するという重要な態度を含めた「日中共同声明」の各項目を確認し合った。

 

 李克強はその間、ニコリともしなかった。

 まるで「いいな!日本は戦争責任を反省する立場にあることを忘れるなよ!だから全て譲歩しろ!台湾に関しても、ゆめゆめトランプのように“一つの中国”原則を揺るがすような言動をするなどということを考えるなよ!」とクギを刺しているように見えた。

 中央テレビ局CCTV夜7時(日本時間8時)のニュースで報道した内容は、その部分だけだったので、歓迎ムードとはあまりにかけ離れた李克強の表情と言葉に、非常な違和感を覚え、これは一体どういうことなのか、中国政府高官を取材した。

 すると、「ついに習近平の心が見えた!」と思われるような回答が戻ってきた。

◆「日中が近づきすぎると、アメリカが……」

 李克強の厳しい表情と言葉に、中国政府高官も興奮冷めやらぬ心理だったらしい。彼は「思わず」なのか、つい、「中国の本心」を凄まじい勢いで吐露してしまったのだ。それは正に「習近平の本心」そのものであると感じたので、もうこれ以上コラムを連続して書くのはやめようと思っていたのだが、やはりご披露したい。

 以下、筆者は「Q」、中国政府高官は「A」で表示する。

Q.中国は日本を歓迎するムードにしては、李克強の、あのニコリともしない厳しい表情と日中共同声明の中の「日本は戦争責任を深刻に反省し」をわざわざ大きく取り上げて、賓客を歓迎するというのは、なぜなのか?違和感を覚える。

A。あれは日中平和友好条約締結のセレモニーだ。厳粛な顔で日本に言い渡してから、翌日の会談に入る。だから先ず、到着と同時にセレモニーを開催した。それにあの条約は台湾と断交して中華人民共和国だけを「中国」を代表する国として認めるための条約のようなものだ。その心が揺らがないように念を押すのは当たり前だ。日本は中国とは戦争終結の講和条約、平和条約として日中平和友好条約を締結した。言うならば中華人民共和国との終戦条約だ。日本は敗戦側であり、中国を侵略した側であることは永遠に変わらない。このことを忘れさせないことは重要だ。ニコニコしてどうする。

(いや、日本は「中華民国」と戦争をしたのであって、「中華人民共和国」は終戦時にはまだ誕生していなかった。この世にはなかった国だ。中華人民共和国とは戦争をしてない、と言いたかったが、飲み込んだ。「中国人民に損害を与えた。それに中華民国は中華人民共和国に吸収されたのであり、その中華民国を含めて、中国は中華人民共和国しかない」と返してくるのは分かっていたからだ。何より、もっと回答を引き出す方が優先される。)

Q. でも、中国は日本歓迎ムードであることは変わらないんですよね?

A.まあ、明日(26日)を見てるといい。ガラリと変わるはずだ。だからと言って、中国が「親日」になるということはない。それはあり得ない!日中関係が正常化しただけだ。

 そもそも、考えてみるといい。2,3日前だったか、日本の自衛隊が「アメリカの海軍と協力して、南シナ海で行動する」と言ったばかりじゃないか。結局のところ、日本はアメリカの同盟国であるということは変わらない。日中関係だって、根本的には変わらないんだということを肝に銘じておいてほしい。経済や科学技術方面では交流が盛んになるだろうけど、根本的な関係は李総理の言った通りだ。彼の姿勢は正しい。

 それに日本はアメリカとの同盟関係を放棄しないだろう。もっとも、トランプが日本に対して特に友好的だとは思わないけどね。安倍はトランプと友人だと強調してきたが、トランプは日本に対して友人ではない態度を取るかもしれない。

 もっとも、戦略的観点から言うならば、中国もアメリカとの関係を収拾がつかない関係に持っていこうとは思っていない。

Q.では、どのようにして中米関係を収拾させようとしているのですか?

A.それは難しい質問だ。誰が大統領になろうと、中国が大国になれば、必ずアメリカと衝突する。これは歴史的必然であり、不可避のことだ。それにアメリカはここ数十年にわたって、おおむね10年に1回ほどの割合で経済的危機を迎える傾向にある。今年はリーマンショックからちょうど10年。ちょうど経済的な危機にさしかかり始めているということができる。そういう時期をどのようにして乗り越えるのか。アメリカの選択には「戦争」あるいは逆に「世界と深く融和していく」かのどちらかがあるはずだが、トランプは国際社会から孤立して、国際社会を相手に喧嘩を売っている。これは前者、「戦争」への道を選ぼうとしているということになる。その時の攻撃相手は、自分の次に強い国だ。

Q.それが中国だということですね。

A. そうだ!特に中国はいま「中国製造2025」という国家戦略で、アメリカなどの先進国に頼らなくてもいいような「コア技術に関する自力更生の道」を歩み始めた。トランプは、この「中国製造2025」が怖いんだよ。習近平が、この国家戦略を断固達成しようと決意を固めているのが怖いんだ。だから中国を攻撃してくる。

Q. 今回の日中首脳会談に習近平が積極的になっているのは、そのことがあるからではないんですか?米中関係が悪いので、日本を歓迎したということではないんですか?

A.その点は否めない。短期的には、それは否定しない。しかし2点、忘れないでほしい。たとえ短期的に日中が近づいても、李克強がレセプションで言った言葉に代表される、中国の日本に対する考え方は、永久に変わらない。

 そして2点目。ここが肝心なのだが、「日中が近づき過ぎると、実は米中関係に良くない影響をもたらす危険性を秘めている」のだ。中国は米中関係を最も重要視しているので、日本よりアメリカとの関係を優先させるだろう。

 以上だ。

 日中接近は、米中関係をコントロールするための、一つの道具に過ぎないことが、ここから読み取れる。日中接近は短期的なものであり、いつどのような変数を持ち得るか、用心をして考察していかなければならないことが分かった。(10月25日夜半)

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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