部下に「ビジョンが曖昧だ」「方針が見えない」などと批判され上司はどうしたらよいのでしょうか。
■部下は型にはめてあげてください
ビジョンや方針の曖昧さに文句を言われるのであれば、私のおすすめは、まずは部下をどんどん型にはめてしまってはどうか、ということです。
はっきり言って「抽象的な方針」や「見えないビジョン」というのは、それだけ現場や最前線の人間に自由、裁量があるということです。
世の中の多くの人が「自由で裁量のある会社で働きたい」というのに、部下がそれを嫌だと言うのなら、リーダー自身が思うことを、微に入り細を穿つように具体的に指示し、やらせてみてはどうでしょうか。
自由裁量などまったく入り込む余地がないように。その部下が言っていることが本心なのであれば、あなたは自分の意思を忠実に実行してくれる僕(しもべ)を手に入れたのです(嫌な言い方ですみません)。
■リクルートは徹底的に型にはめる会社だった
私が最初に入ったリクルートは当時から新規事業や商品をどんどん出していくイメージで、「お前はどう思う?」という言葉が合言葉でした。
最前線の社員自身のアイデアをとても重視して、社員が皆意思を持って働くことを常としていました……と書くと「なんて素晴らしい職場なのだろう」と思うかもしれませんが、私が実際に見てきたリクルートはちょっと違う面もありました。
実は、リクルートは徹底して新人を型にはめる会社でもあったのです。私は人事部採用グループに配属になりましたが、そこで待っていたのは先輩達の編み出した“勝ちパターン”のルーチン地獄でした。
■型にはめられてようやく自主性が出てくる
最初は意見など聞いてくれません。
「これこれこのようにしろ」と超具体的な指示を受けるだけで、「なぜこういうやり方をするのですか」と聞いても、「つべこべ言わずにまずやってみろ」「そんなことは自分で考えてみろ」でした。しかも、そのルーチン(私の場合は、学生への電話かけや面接、面談でした)の膨大な量を回していくのです。
しかし、そうすると不思議なことが起こります。自主性が出てくるのです。私たちは、自分の行動の自由を奪われたと感じたとき、自由を回復するように強く動機づけられます。 この動機づけられた状態を心理的リアクタンスと言います。まさにこれが生じてきたのです。
■「どうしてやるのですか」ではなく「こうしてもいいですか」になる
自由を回復させたい私は、先輩や上司からの指示でやっていることに対して、「何かもっとよい方法を考えてやる」と思いました。
そうして「ああでもない、こうでもない」とルーチン作業の中で考えたうえで、満を持して「あの……こうした方がこういう理由でよいと思うので、こうしてもいいですか」と自分のアイデアを持っていきました。
そうすると、けんもほろろだった先輩や上司が、打って変わって「そう思うのならやってみろ」とやらせてくれたのです。そういう先輩や上司のスタンスで、私の自主性が発露したのは事実です。
■「意見がないなら言うことを聞け」
私がその後マネジャーになって部下を持った際にもそれを真似しました。優しく「みんな何か意見はあるかな?」などと質問することはなく、「僕はこういう理由でこうすべきと思う。だからみんなこうしてほしい」とガンガン要望していきました。
正直に申し上げますと、「意見がないなら、俺の言うことを聞け」とすら思っていました。そしてわかったのは、結局、そういうマネジメントをしたら、部下は以前の私のように反発して、自主性を発揮し、意見をどんどん言ってきたのです。
部下に「ちょっといいですか」と小部屋に呼ばれて、私の出す方針への批判と改善案を言われたのは、一度や二度ではありません。
■「抽象的な方針」の素晴らしさを理解してもらう
さて、冒頭に戻りますが、「抽象的な方針」や「見えないビジョン」に文句を言う部下に、「具体的な指示」や「見える行動マニュアル」を与えれば、リクルートで私が経験したようなことが起こるのではないかと思います。
つまり、部下はそこで初めて自主的になり、自分の意見を持ちたくなり、「抽象的な方針」や「見えないビジョン」の素晴らしさを理解するのではないかということです。
それがわからないなら、それはそれまでです。しかし、どんな人でも自主性はあると私は信じているので、それを発現させるためのきっかけとして、あえて上司である自分がハードルになり、部下に乗り越えようと考えさせては、と思うのです。
※OCEANSにて若手のマネジメントに関する連載をしています。こちらも是非ご覧ください。