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マイナス金利政策導入によるコールレート

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

2月16日に日銀のマイナス金利政策の導入が開始された。このマイナス金利は日銀の当座預金の超過準備の一部に適用される。

ただし、金融機関の負担が大きくなり過ぎ、金融仲介機能に悪影響を与えることがないよう、日銀預金に階層構造を採用し、その増加分にマイナス金利をかけるといった、制度設計上の独自の工夫をこらした(中曽副総裁の講演より)。

日銀が発表した「業態別の日銀当座預金残高(1月)」の付属表によると補完当座預金制度により付利の対象となる当座預金または準備預り金の253兆4290億円のうち、マイナス金利適用となる超過準備分は23兆1940億円となっていた。

長期金利は1月29日の決定会合でのマイナス金利付き量的・質的緩和を導入の決定を受けて低下圧力を強め、海外でのリスク回避の動きの強まりもあり、2月9日にマイナス0.035%まで低下してた。まだマイナス金利は適用されていなかったが、債券市場ではそれを先んじて動いた格好となった。

ただし、日銀が調節コントロールしているのはインターバンク市場を中心とした短期金融市場であり、その意味では本来の政策金利でもあるところの無担保コール翌日物の16日以降の金利の動向が注目された。

インターバンク市場とは、銀行を中心とした金融機関の間で資金の運用や調達、決済を行う市場である。金融機関がお互いに短期的な資金の過不足を調整するための取引が行われている。そのインターバンクでの中心的な市場が、金融機関相互の資金繰りを最終的に調整し合う場として自然発生的に出来てきたコール市場である。

銀行などの金融機関は営業活動を通じて日々、資金の余裕や不足が生じている。預金の受払いや貸出しがあり、市場を通じて国債や株そして為替等の売買も行っており、常に日々の資金ポジションを調節する必要がある。金融機関は最終的な資金量の調節を前日にコール市場で行っている。

コール市場では資金の出し手(貸し手)が供給する資金をコールローン、資金の取り手(借り手)が調達する資金のことをコールマネーと呼ぶ。運用調達期間としては、オーバーナイト物(翌日物)から1年後の応答日以内であればどの日でも取引が可能となっている。その中心は無担保のコールでのオーバーナイト物となっており、その金利の誘導目標値が日銀の政策金利となっている(拙著「最新短期金融市場の基本がよくわかる本」より一部引用)。

1月29日に導入を決定したマイナス金利付き量的・質的緩和では、この政策金利であるところの無担保コール翌日物の金利の誘導目標は変更してはいない。政策金利はコリドーと呼ばれる中心と上下と幅を持っており、マイナスとしたのは政策金利の下限金利であるところの超過準備の付利であり、しかもその超過準備の一部をマイナスとすることにした。

政策金利そのものを引き下げたわけではないが、日銀はこの足元金利の低下を意識してのマイナス金利の導入であった。ただし、果たしてマイナス金利でのコールの出し手(つまり貸し手)が出てくるのかという問題があるとともに、そもそも金融機関によってはマイナス金利を想定してシステムが構築されていないところもあり、すぐには適用できない金融機関もあった。

このため、16日にマイナス金利がスタートしてもすぐにはマイナス金利での出合いはないのではとの見方も強い(ただし、付けてみるといった動きはないとは言えないが)。16日の取引では無担保コール翌日物はプラス0.001%の出合い後、ゼロ%に低下したが、マイナスの出合いはなかった。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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